Googleが洪水被害大国インドで挑む洪水予測プロジェクト

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「GettyImages」より

 去る10月、東日本を縦断した台風19号は、各地で記録的豪雨による洪水被害をもたらした。

 8月には九州北部の豪雨により、佐賀県を中心に浸水被害が相次ぐなど、近年、日本各地で洪水の被害が多発している。

 台風19号の際、筆者の住む地域では近くの川の氾濫の可能性が高まり、自治体から避難指示が出た。マンションの1階に住む筆者は、同じマンションの上階に住む弟家族のところに避難した。

 幸い川は氾濫せず、事なきを得た。しかし、川の氾濫の危険性を感じるほどの降雨はなく、自治体からの避難指示がなければ自宅にとどまったであろう。台風通過後、ギリギリのところで川の氾濫を免れたことを知り、自治体からの避難指示の重要性を認識した。

 日本には梅雨や台風があり、川の多い地形でもある。ゆえに日本の洪水被害は時に深刻だが、しかし世界的に見るとインドやバングラデシュなどの被害はさらに甚大だ。

 熱帯モンスーン気候下にある両国では、毎年6月から9月までのモンスーン時期に、1年の大半の降雨が集中する。

 毎年インドでは多くの人が洪水の犠牲になっていて、世界での洪水犠牲者の約2割をインドが占めるほどだ。

 そんなインドの災害を食い止めるべく、インド政府はGoogleと手を組み、あるプロジェクトを進めている。

前年比12倍の洪水被害範囲予想

 Googleは2018年の夏から、インドの政府機関である中央水委員会(CWC)と提携して、インドの洪水予測プロジェクトを始めた。

 中央水委員会は、インド全土の1000を越える水位計で1時間ごとに計測している。洪水予測をカバーしている地域は、ガンジス川とブラマプトラ川沿いの約1万1600平方キロメートルだ。

 そして2019年9月、Googleはインドでの洪水予測は前年よりも範囲が12倍ほど広がり、着実に前進していると発表。洪水対策は喫緊の課題となっているのだ。

赤く染まったガンジス川マップ

 インドの洪水予測プロジェクトは、北東部ビハール州の州都であるパトナを中心に行われている。パトナは、ガンジス川の南岸から数キロにわたって広がる町だ。

 昨年の夏から始まった洪水予測の試行は、リアルタイムでの正確な情報の提供と、地域の人々への緊急警告の通知が目的だ。

 Googleでは、過去の洪水被害状況、河川レベル、地形、標高データなどを基にAIにデータを組み込んだり、物理法則によるモデルを使用したりする。各場所で最大数十万のシミュレーションを行い、高解像度の標高マップを生成して洪水予測を割り出していく。

 パトナで洪水の危険が高まった際、Googleマップ上の具体的な場所に警報が表れる。危険性は3段階に分けられ、濃淡のある赤色で表示される。最大のリスクのある地域はもっとも濃い赤色だ。

 スマートフォンを持っていれば誰でもこの情報にアクセスでき、具体的な場所が地図上に表示される。

 試行からの約1年間で、パトナでは洪水の緊急警告の通知が80万件ほどスマートフォンを通じて送信された。2019年9月にパトナで住宅街が浸水するほどの洪水被害があったが、この際、ガンジス川沿いのマップは赤く染まっていたという。

 危機情報をGoogleマップに追加しておくと、アラートプッシュ通知される。この通知により、洪水の危機が迫っていることを認識し、洪水が予想される地区を確認し、避難の目安にすることができる。

非営利団体SEEDSによる取り組み

 しかしインドでは、低所得層が川沿いに多く住んでいる傾向があり、スマートフォンを持っていない人も多い。また、危機の際には、スマートフォンを持っていてもインターネットにアクセスできない状況に陥りやすい。

 この実情に即し、Googleはデリーに本拠地を置く非営利団体SEEDSと提携した。

 SEEDSは現地パトナに出張所を作り、地域コミュニティなどと共同で活動している洪水危機の際、スマートフォンを持たない層に人的ネットワークで緊急警告を広める。

 その際、同時に実際に見た水位を確認して、SEEDSからGoogleに情報を提供する。GoogleはSEEDSからの水位の情報も組みこんで、より正確に洪水を予測する。

 洪水予測は、その精度が最も重要だ。不正確な予測はメリットよりもデメリットのほうが大きく、あいまいだったり一般的な警告は無視されたりする傾向にある。

 今年のモンスーンシーズンに出したGoogleの洪水警告の精度は、約9割であったという。

ヒンドゥー教の聖地での洪水被害

 前述のように、インドでは毎年のように大きな洪水被害が発生している。2013年には当時のシンデ内相が、「国家的危機であり、内戦態勢で救出活動にあたっている」と述べたほどの大規模な洪水被害があった。

 2013年6月、北部のウッタラカンド州は、モンスーンによる豪雨に見舞われた。ヒンドゥー教の聖地である標高3584メートルのケダルナートと、標高3300メートルのバドリナートで洪水が発生し、多くの人が取り残された。

 筆者は、2010年と2012年にケダルナートとバドリナートを訪れた。ケダルナートへは直接車で入れないため、ふもとの町ルドラプラヤグから馬に乗り、4時間ほどかかる。

 細い一本道が延々と続くが、ケダルナートへ行くのはこの道しかない。ところが洪水でこの道がなくなってしまい、救出はヘリコプターが主となり、困難を極めた。

 バドリナートへは車で直接入れるが、やはり細い一本道しかない。途中の山道は洪水で通れなくなり、バドリナートでも取り残された人たちの救出のため、約50機のヘリコプターと1万人以上の兵士が導入された。 

 洪水発生の翌月の7月、ウッタラカンド州のバフグナ首相は、5748人の行方不明者を死亡と断定すると発表した大惨事となった。増水したガンジス川から、多数の遺体が発見されたという。

 バフグナ首相は、事前に適切な警報を発するべきだったと、インド気象局を批判した。

 チャールダムと呼ばれるヒンドゥー教の4大聖地のうちの2つであるケダルナートとバドリナート。ヒンドゥー教徒なら一度は巡礼で訪れたいところだという。4大聖地は標高が高く、冬季には積雪のため閉鎖され、毎年4月下旬から11月上旬くらいの間、訪問可能だ。

 犠牲になったほとんどの人は、巡礼者や観光客であった。事前に適切な警報を出し、ふもとの町からの入山を制限するなどの処置を取れば、ある程度の被害は防げたはずだ。

 今後、Googleによるインドでの洪水予測は、範囲が広がっていくだろう。事前の危機管理は、洪水の犠牲者が減る手助けになる。

 Googleの技術革新と人的ネットワークの力は、情報が届きにくい低所得層や高齢者などにも、さらなる恩恵をもたらしていく。

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