タニタの「個人事業主制度」に伴うリスク、強制力・拘束なしでタニタ側のメリットは?

【この記事のキーワード】
タニタの「個人事業主制度」に伴うリスク、強制力・拘束なしでタニタ側のメリットは?の画像1

「Getty Images」より

タニタの個人事業主制度導入は正論なのか?

 体脂肪計などのヘルスケア製品で国内シェア首位のメーカー・タニタ(本社 東京都板橋区)が実施している、社員の個人事業主化支援。タニタは2017年から社員が「個人事業主」として独立することを支援する制度を導入、個人事業主(自営業者)として独立した元社員にはタニタの仕事を業務委託し、社員として雇用契約を結んでいた際の収入を確保させる。

 これによって社員(元社員)に就業時間に縛られず働ける環境を用意し、スキルアップにかける費用や時間なども自分でコントロールできるようにするのが狙いと、タニタは公表している。また、副業としてタニタ以外の仕事を受け、収入を増やすこともできるのだから、この制度は社員(元社員)にとってメリットだと謳っているが……。果たしてそうだろうか。

 タニタの経営陣は、個人事業主制度の導入に際して、「働き方改革=残業削減」という風潮に疑問を抱いていたと説明している。残業を削減することは必要だが、さらに働きたいと考える人が法令で制限されることは平等とは言えず、希望する人が思う存分働けて、適切な報酬を受け取れる制度を作りたい――そう考えて導入したのが、労働基準法の規制対象外の働き方である「社員の個人事業主化支援」なのだという。

 しかしこの制度、疑問に感じる点がいくつかある。それらについて検証していこう。

悪意のない囲い込みが起きないか

 まず、タニタ側の「意図しない囲い込み」が起きないかという懸念がある。個人自営業者になった元社員は、取引先を自由に選んでいいとはいっても、まずは生活の糧の大半をタニタに委ねる形になるだろう。その場合、真の意味で会社側と個人事業主になった元社員の公正な受発注が行われるかは疑問である。元社員という人間関係もあり、もっとも発注量が多い取引先となると、個人事業主となった元社員は、タニタから発注される仕事を優先せざるをえなくなるはずだ。

 そのことを考えると、たとえタニタ側に悪意がなくても、個人事業主となった元社員が他の取引先と仕事をすることを制限してしまう「囲い込み」が発生する可能性がある。そうなることを見越して、第三者の視点で個人事業主となった元社員に対して、仕事の受発注が公正に行われるか確認できなければならないと思うが、そこまで考慮した運営が行われているのだろうか。

下請法に基づいた発注が行われるのか

 企業が、個人事業主に仕事を発注することについては法規制がある。資本金1000万円を超える企業は、改正下請代金支払遅延防止法にしたがい公正取委員会の規制の下で発注や業務の進行を行わなければならない。具体的には、発注の際に「文書での発注書の交付」「納品後1カ月後以内の報酬支払」「主観に基づいて作業のやり直しをさせてはいけない」などといった規制がある。しかしながら、個人事業主全体の受発注の実態を俯瞰すれば、厳密に守られているとはとても言えない。

 私自身、個人事業主として長年働いているが、実際のところ、これらの規制を自主的に守っている企業はごくわずかである。報酬の支払期限はほとんどの企業が守っているが、発注の際の発注書交付や、やり直しの禁止規制については、まず守られることがない。そもそも個人事業主の仕事の問い合わせは、顧客から突然電話やメールで連絡があって、「あさってまでに仕事終わらせてくれる?」といったケースが大多数である。納品後も修正を求められるケースがほとんどだ。一発で納品を受け付けてもらえることなどまずない。

長時間労働をしても自己責任

 個人事業主になるということは、社員という保護された立場から、「下請け業者」となる。以前の連載でも説明したが、個人事業主は、労働基準法の規制対象外だ。したがって、週40時間の労働時間の規制が適用されないため、何時間でも働くことが許される。また、個人自営業者は労働時間で収入が決まるわけではない。任務を遂行してやっと報酬がもらえるのだ。

 タニタの元社員は、個人自営業主となったとはいえ、社員として勤務していたオフィスに通って元上司と仕事をするはずである。このような状態の中で、労働時間の制限が外れ、労災も適用されず働くことになると、偽装請負となるケースも心配される。

意図しない偽装請負となるケースが起こりうる

 元社員を個人自営業者にして自社の仕事を請け負わせる場合、偽装請負となるケースを避けられるのかも疑問である。偽装請負とは、労働基準法の規制を避けるために、個人自営業者に仕事を発注したと見せかけ、実際は雇用契約を結んでいるのと同じ状態で自社の仕事に拘束することをいう。

 いささかわかりにくいと思うので、少し詳しく説明したい。契約はあくまで委託・請負として行うため、会社側は労働基準法で規制されている社会保険の加入義務や、週40時間の労働時間の規制を受けない。このことを悪用して、個人事業主を自社のオフィスに毎日出勤させて雇用している社員と同じような状態で働かせ、それでいて給与は成果報酬でしか支払わない。個人自営業者の権利でもある労働時間を自分で決められるということを無視して、企業側が有利な形で時間拘束するわけである。

 もちろん、このような状態で個人自営業主を働かせることは違法である。この場合、労働局や労働基準監督書は実態として企業に雇用されていたとみなし、労働基準法に基づいて会社側の処罰と労働者の救済を行う。

 しかし、たとえ会社側が法令遵守を意識していたとしても、元社員をまったく「時間拘束しない」ということはできないのではないだろうか。法律に照らし合わせれば、会議への参加や、オフィスでの作業などといった、会社としての基本的な業務を何一つ強制できないことになる。果たしてそのような条件の中で、元社員の個人自営業者に仕事を発注できるだろうか。おそらくまず無理だろう。

 加えて言うなら、個人自営業主は仕事を断ることもできる。会社側がもし、個人自営業主しかできない急ぎの仕事を発注して断られたりしたら、会社側はまったく打つ手がなくなる。また法律に沿えば、個人自営業者となった元社員がタニタのオフィスにいても、他の会社の業務を行うことを認めなければならない。極端なことをいえば、個人自営業者になったタニタの元社員が、タニタのオフィスに出てきてタニタの業務とまったく関係のない仕事をしていても、タニタ側はまったくとがめることができない。しかも、タニタ側は、自社の仕事を優先しろという強制力もないのだ。

 法の規制から考えれば、こういった状態を認めなければならなくなるのだが、果たしてタニタは法令を遵守した上で企業実務の実態に沿う受発注が行えるのだろうか。

(監修/山岸純)
(執筆/松沢直樹)

あなたにオススメ

「タニタの「個人事業主制度」に伴うリスク、強制力・拘束なしでタニタ側のメリットは?」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。