キャリア・仕事

大量解雇時代の始まりか 社員が個人事業主化する時代に必要な能力

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「Getty Images」より

 前回は、株式会社タニタが発表した社員の個人事業主化についての疑問点について例証した。

 タニタ側がめざしているのは、コスト意識を持ち、自律して働く労働者の育成だろう。これについてはよく分かる。経営意識を持ち、会社を牽引していく意識を持った人物がいなければ、会社は現在以上に成長しないからだ。

 約半世紀前の高度経済成長期時代に「モーレツ社員」という言葉があった。当時も労働基準法の規制は行われていたし、労働組合活動も盛んだったが、深夜残業や徹夜を当たり前にこなす社員は大勢いた。もちろん違法な労働環境で働かされていたわけだが、それらの労働者によって企業が成長し、ひいては日本全体の経済状態が良くなったのも事実である。

 ところが、今は労働基準法の運用が、昔よりは厳密に行われるようになった。そのため、経営マインドをもった社員であっても、企業を成長させるのに必要な働き方ができなくなり、大多数の企業が牽引力を持った労働者を育成できなくなっている。

 だからといって、社員の個人事業主化は、本当に会社にとってメリットがあるものなのだろうか。

社員よりコストがかかる可能性がありうる

 社員を個人自営業者にすれば、会社側にとっては悩ましい人件費の問題が解決するように見える。定額の給与を払わなくてよくなる上に、社会保険などの負担もなくなるからだ。

 しかしながら、自ら進んで安定した社員の地位を捨てて個人自営業者になる社員は、総じてお金を稼ぐモチベーションが高く、仕事の能力も優秀なはず。当然、自分で次々に営業して、より報酬が高い仕事を受注するようになるだろう。そうなると、社員時代に払っていた報酬では働いてくれなくなる可能性が高くなり、報酬条件交渉が決裂したら悲惨。せっかくの優秀な人材なのに、もう自社の仕事をしてもらえなくなるかもしれない。

 それだけではない。その個人事業主が自社の技術や経営の核心の情報を持っているとしたら、流出する企業資産は計り知れない。そういった事態を避けるために、社員時代よりも高い報酬を支払うことが必要になるだろう。

 また、前回例証したように、社員の個人業主制度化を認めても、労働基準法の規制こそ外れるものの、他の法令に抵触する可能性が出てくる。公正取引委員会が下請法に関する違法性があると判断すると調査が入り、違反が認められると企業の実名が公正取引員会のホームページ上で公表されるというペナルティが課せられてしまう。

 タニタは非上場だが、もし上場企業ならばさらに大変な事態になりかねない。株価が暴落したり、株主総会で経営陣の責任が追及されるなどといった事態に至る可能性もある。

 このことから、タニタ側が公表している経営者マインドを持った労働者育成のための社員の個人事業主化制度は、会社側にとってメリットとはいえず、諸刃の剣であることがわかる。

個人事業主化は労働者の大量解雇のために悪用される? 

 タニタは、経営マインドをもった労働者獲得のためという大義名分の下、社員の個人事業主化を実行している。だが、今後この流れに追随する他の企業は、整理解雇の口実として社員の個人事業主化を導入することが心配される。

 近年になって、大企業が数千人以上の単位で、希望退職者を募るケースが増えている。どの企業も、人件費がもっとも高く、もっとも人数が多い40代後半から50代前半の人を大量に抱えているからだ。
 
 非正規労働者の賃金引き上げが政府から指示された結果、大多数の企業は、正社員の給与を減らすことでバランスをとり始めている。正社員の給与削減の代替案として、みずほファイナンシャルグループをはじめとした大企業が社員の副業を認め、多くの企業がそれにならいはじめた。副業は大多数が個人事業主として始めることになるため、それを突破口に、大量整理解雇が行われる時代が来ることは想像に難くない。

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大量企業倒産の時代の始まり 

 社員の大量整理解雇に伴って経営状態が悪化し、倒産する企業もいままでとは桁違いに増えるはずだ。

 就職氷河期世代と呼ばれた時期があった。大多数の企業が新卒の学生を採用しなかったが、その結果、採用を実施しなかった企業はどうなったか。中堅クラスの年齢の社員が不足し、どの企業も運営や次世代の事業継続が難しくなっている。そのため、中堅層の採用活動を必死になって行っているが、まったく人が集まらず、ますます悪化しているケースが顕著に見られるようになった。

 経営の神様といわれた松下幸之助氏は、戦後の大不況の時でも、安易な社員の解雇は行わなかったという。人件費のコストカットは企業の経営を楽にさせるように見えるが、売り上げ自体が伸びているわけではない。少ない人数で仕事を回さなければならないから、いつか限界がやってくる。就職氷河期世代の採用を行わなかった企業をはじめ、小手先の方法で問題を回避してきた企業は倒産の危機に瀕している。そういった時代に差し掛かっているのは間違いない。

大量倒産時代が来ても労働者が生き残る道はある

 しかし、私は悲観することはないと考えている。

 倒産する企業が増えるといっても、長期的な経営が困難だった企業が倒産するだけであり、残った企業は安定した経営基盤にあると見ることができるからだ。かたや倒産する企業が増える中で、どんどんシェアを伸ばして業界内で独走する企業も増えてくるだろう。当然、そういった企業はさらなる事業拡張のために、一定のスキルをもった労働者が必要になる。そういった企業に移って働けばいい。

 難しく考える必要はない。自分が現在までに培ってきた職業体験の中で、企業が金銭価値を感じてくれるスキルはなにかということを自問自答し、常に整理しておけば、仮に現在の勤務先が倒産したとしても採用してくれる企業に出会う可能性が高くなる。

 ハードルとなるものがあるとすれば、自分を売り込む営業力を培えるかどうか。大多数の人は、新卒の際に就職活動を実施した後、転職したとしても数回程度だろう。これからの時代は、欧米並に条件がよければすぐに他社へ異動するスキルと判断力が求められるようになるはずだ。人によっては、一年おきに転職活動をすることも珍しくなくなるだろう。

 これからの時代、巷に洪水のようにある求人情報から自分のスキルをもっとも高く売れる企業を選び出し、短期間で転職できる技術と行動力を持つことが重要だ。

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ウェジー 2019.11.19

(監修/山岸純)
(執筆/松沢直樹)

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