政治・社会

2020年、性暴力に関する刑法を改正したい。被害実態を国会に届け「世界を変える」

【この記事のキーワード】
2020年、性暴力に関する刑法を改正したい。被害実態を国会に届け「世界を変える」の画像1

「OneVoiceフェス」@東京・丸の内に参加したみなさん

 今年3月に相次いだ性暴力事件の無罪判決を、あなたは覚えているだろうか。

 福岡地裁、静岡地裁、名古屋地裁で、計4件もの性暴力の無罪判決があった。

 福岡地裁久留米支部では、飲酒により酩酊状態にあった女性が性交された事件について、女性が抗拒不能の状態であったことは認められたものの、明確な拒否を示さなかったことで、加害者側が許容されていると誤信したとみなされ無罪判決が下った。

 名古屋地裁岡崎支部では、19歳の娘へ中学2年生の頃から性的虐待を続けていた実の父親が準強制性交罪に問われていたが、性行為に同意はなかったことは認められたものの、抵抗できない状態ではなかったとされ無罪になっている。

 相次ぐ性暴力事件への無罪判決に対して、専門家や性暴力被害者支援団体、一般市民からも抗議の声があがり、4月11日には東京駅前に400人以上が集うデモが行われた。

 そのデモは「フラワーデモ」という名称で、以降、毎月11日に行われている。11月には大阪や福岡など国内26カ所+スペインのバルセロナの計27カ所にて開催された。

 これまで、性暴力被害は「話してはいけないこと」という空気が強く、被害者が自身の思いを打ち明ける場がなかったが、フラワーデモによって多くの被害者が自身の体験を話せるようになった。

 11月10日、性被害当事者と支援者による団体の一般社団法人Spring(以下、Spring)及びフラワーデモによって、性暴力に声をあげられるようになったことを喜び、2020年の刑法改正・見直しに繋げるためのイベント「OneVoiceフェス」が東京・丸ノ内にて開催。男女約80人が参加した。そのイベントの一部をレポートする。

OneVoice(一つの言葉)には世界を変える力がある

2020年、性暴力に関する刑法を改正したい。被害実態を国会に届け「世界を変える」の画像2

志万田さをりさん

 イベントのオープニングにはシンガーソングライターの志万田さをりさんのライブがあり、曲を通して「被害に遭ったあなたは悪くない」というメッセージが送られた。イベントは温かい雰囲気のなかでスタートした。

 OneVoiceフェスの「OneVoice」とは、オバマ前大統領がスピーチで発した言葉が由来で、「一つの言葉に世界を変える力がある」という意味を込めているという。

 イベントの冒頭では、 自身も13歳のときから実父からの性的虐待に遭ったサバイバーであるSpring代表の山本潤さんから、次のような挨拶があった。

「今まで、性暴力被害は限られた人が限られた場所でしか安全に話すことができませんでした。フラワーデモでは多くの人が公道で理不尽な現状を伝え、その声を聴いた人がさらに思いを伝えるという広がりを見せており、画期的だと感じています。今日は声をあげられたことを喜ぶと同時に、声を上げられずに亡くなられた方々に思いを馳せることも大切なことだと思います。人間として究極の状況を生き延びてきたことを誇るとともに、生き延びてきたことを一緒に祝っていただけたらと思います」

 Springでは、一人ひとりが性暴力被害に対する思いを書いた紙を持って撮影した写真を集め、政府に刑法改正の必要性を訴える「OneVoiceキャンペーン」を行っている。

「Springでは、フラワーデモや皆さんがOneVoiceに寄せてくれた声をきちんと国会に届け、社会を変える力にしたいと考えています」と、山本さんは話す。

 イベント中は登壇者が性暴力被害体験を話す場面もある。もし途中で気分が悪くなったり辛くなったりした参加者は、自由に外の空気を吸いに行ってもよく、一人で辛い場合はスタッフに気軽に声をかけてほしいというアナウンスがあった。

 お菓子とジュースも配布され、参加者が心を休めながらリラックスしていられるような配慮も見られた。

安心して話せる場があれば被害者は話せる

2020年、性暴力に関する刑法を改正したい。被害実態を国会に届け「世界を変える」の画像3

左から北原みのりさん、山本潤さん

 2017年、110年ぶりに刑法が改正され、強姦罪は強制性交等罪に名称を変更した。口腔性交、肛門性交が含まれるようになった結果、男性も被害者に数えられるようになったこと、強制性交等罪および強制わいせつ罪が非親告罪となったこと等の改正があった。また、18歳未満に対して親などの監護者がその影響力に乗じて性交等をすることに対して、監護者性交等罪や、監護者わいせつ罪が新設されたことも大きな変化だった。

 しかし、暴行脅迫要件(暴行・脅迫があったことを立証できないと、同意がなくても罪に問えない)や、公訴時効(強制性交等罪=10年、強制わいせつ罪=7年を過ぎると時効により訴えられない)、性交同意年齢(13歳以上から成人と同じ暴行・脅迫要件が適用される)といった問題は、今も残されたままだ。

 2017年の刑法改正の付帯決議には、施行後3年以内に被害の実情や改正後の施行状況を踏まえ、実態に即した対策を行うために必要であれば見直す旨が書かれていた。そして2020年には、その「3年」を迎える。

 イベントでは、山本潤さんと、フラワーデモの呼びかけ人である作家の北原みのりさんによる、来年の刑法改正に向けたトークが行われた。

山本:フラワーデモのきっかけとなった3月の性暴力無罪判決については、刑法を変えなければ、今後も同様の判決が出てしまうのではないかと懸念しています。
 2017年の刑法改正の際には、法務省が検討委員会を立ち上げた際のメンバー12人のうち、性暴力被害に詳しい方は被害者側弁護士1人と被害者を支援する臨床心理士1人のみでした。見直しにあたっては、検討委員会メンバーの過半数に性暴力被害者心理に詳しい人が参加するべきだと思います。
 2017年の刑法改正の附帯決議には「3年後の見直し」という内容がつけられたのですが、検討委員会がきちんと実施されるように、被害実態に即した刑法改正がされるように、みなさんの「OneVoice」を国会に届けていく必要があると感じています。多くの人が更なる刑法改正に賛同していることを示すために、Springでは性犯罪における刑法改正を求める署名運動を行っており、2020年春までに10万人の署名を目標としています。

北原:私は3月の無罪判決が相次いだときに、たった10人でもいいから声をあげたいと思っていました。けれど、4月11日には東京駅前に400人以上の人々が花やプラカードを持って集まり、当初予定していた8人のスピーチが終わっても参加者はその場に残り続け、みなさんの熱意を感じました。これまで、性暴力事件の被害者は勇気がないと話せないと言われてきましたが、自分のことを信じてくれる人々の中で安心して話せる場がなかったんだと思います。今までは被害者の声を受け止める社会や力がなかったんです。
 (山本)潤さんは、よく私に「フラワーデモのゴールはどこなのか」というお話をされますよね。もちろん刑法を改正したいと思うのですが、刑法を改正しただけでは変わらないこともたくさんあると感じています。
 日常的な会話の中でも、性差別や女性の人生を軽く見るような考え方に基づく発言を感じるときがあります。刑法が変わった後も、そういった日常的な性差別を変えていくために動いていかなくてはいけないと考えています。

山本:性差別に向き合う活動は辛いこともありますが、私は2017年に刑法改正が実現したときにすごくエンパワーメントされて、以前に比べて元気になれたんです。その理由を考えてみたのですが、刑法が改正によって「性暴力を社会が許さない」ということを、国会が宣言してくれたからだと思います。

北原:声をあげて国の方針や社会の空気が変わることは希望だと感じます。私は何も変わらないんじゃないかと絶望の中で生きてきた時期もありましたが、声をあげたら仲間ができるかもしれないし、もしかしたら変わるかもしれないという希望を潤さんが見せてくれました。
 フラワーデモは、東京だけのデモではないという点に大きな意味があると思います。参加者がたくさん集まらなくても、たとえ一人であったとしても自分の地元で性暴力に声をあげたいという方の勇気に、私はとても胸が熱くなります。

社会を変えるチャンスを逃したくない

2020年、性暴力に関する刑法を改正したい。被害実態を国会に届け「世界を変える」の画像4

会場で配られた花束の形をしたお菓子の詰め合わせ

 自身も性暴力サバイバーであるスタッフの2人が、Springの活動に参加したきっかけを語ってくれた。

※これ以降は具体的な性暴力に関する表現が含まれます。読まれる方は自分の心身の調子と相談して無理のないようにされてください。

 SpringスタッフのCOCOさんは、自身の性暴力体験や、Springの活動に参加したきっかけについて次のように話してくれた。

「小学生の頃、通学路であった工事現場から手を引っ張りこまれて、性被害に遭いました。恐怖に動けず、ようやく振り切って逃げてから何時間もさまよい、その場に捨ててしまった荷物を暗くなってから1人で拾いに行きました。まだ幼かったということもあり上手く性被害内容を伝えられず、理解していない母から『気をつけなさい』と言われてしまって、それは私が悪かったからで、そして、この話は他人にはあまりしてはいけないんだとだんだんと感じ、40年以上黙っていました。
 ですが、3月に相次いだ性犯罪無罪判決を聞き、いてもたってもいられなくなってフラワーデモに参加しました。そこに来ていた人々の話をうかがい、Springスタッフと出会い、私自身もSpring、OneVoiceスタッフとして活動を始めました。

 あのとき押し込めてしまった「小さな私」を解放しつつあります。今、#MeTooをはじめ、フラワーデモを含む大きなムーブメントが来ているので、社会を変えていけるチャンスだと感じています」

 別のSpringスタッフSTだんさんは、性被害経験を友人に話したが自己責任にされてしまった、と話す。

「小学5年生のときに、夏期講習の大学生講師から被害に遭いました。ある日みんなが別の場所に移動するのに、講師からあなただけ残ってと言われて膝の上に座らされ、それ以降の記憶がありません。いわゆるフリーズ状態だと思います。次に被害に遭ったのは18歳の高校を卒業する少し前で、友人から『アイツはワルだから近づかないで』と言われていた、顔を知っている程度の遊び人の男から観劇の帰り道に声をかけられ、一度は断ったけど『何だ俺が怖いのか』と笑われたのに腹を立て、クラブにいきました。オレンジジュースみたいな甘いお酒を飲んだ後の記憶がなく、目覚めたときにはすべてが終わっていた。激しい怒りと恥の感情であたまがどうにかなりそうでした。
 友人にそのことを告白したときに『何も覚えてなくてよかったね』『あの男性はチャラいってわかってたのになんでついていったの』と言われ、悪いのは自分だと思いました。家族も何かあったことは気づいていたのですが、腫れものに触るような感じの態度だったので、この話はしてはいけないことなんだと思い、それから50年以上黙っていました。
 それから時が経って、2017年に伊藤詩織さんの話を聴いてレイプドラッグということを知りました。その後、山本潤さんと出会い、山本さんの著書『13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル』(朝日新聞出版)を読んで、私は性暴力当事者であるとはっきり自覚しました。リプロダクティブヘルツライツ(性と生殖の健康と権利)の活動やフェミニズム運動の中にいても、自分の被害は語りきれなかった。
 私はどちらの性暴力被害でも記憶がなくなっているのですが、自分の体に何が起きたのか分からないことが辛い! 私は被害を覚えてないことで、フリーズや睡眠剤で記憶を奪われたことで、私の人権が掠め取られたと感じ怒りを押し込めてきました。
 現在の性暴力刑法では、加害者は減らない。被害当事者の声を反映した刑法改正が必要だと、若い人が自分と同じような思いをしてほしくなという思いでSpringの活動をしています。来年がそのチャンスです。今度こそ女性のカラダの権利を取り戻すときだと思います!」

 被害に向き合い、性差別と闘っていくことで、再び辛い思いをする被害者も多いはずだ。しかし彼女たちの「社会を変えるチャンスを逃したくない」「自分のような辛い経験を他の人にしてほしくない」といった言葉には、とても強い意志が感じられた。

2020年、性暴力に関する刑法を改正したい。被害実態を国会に届け「世界を変える」の画像5

美術家の田川誠さん、深澤慎也さんの提案によってアートが行われた

2020年、性暴力に関する刑法を改正したい。被害実態を国会に届け「世界を変える」の画像6

参加者が思いを寄せたハスの花びら

 イベントの終盤には、参加者一人ひとりが花びらをかたどった模造紙にメッセージを書き、繋ぎ合わせて造ったハスの花のアートを鑑賞した。

 ハスは、泥沼に綺麗な花を咲かせる。性暴力被害に遭った当事者が苦しい思いをしてきたという泥沼の中から花を咲かせるというメッセージを込めているという。

 花びらには、「被害を受けた人が責められないように」「性的同意を当たり前に」などの参加者のメッセージが書かれていた。

 OneVoiceフェスは、サバイバーやその支援者の誰もが温かい雰囲気のなかに集い、「自分は一人ではない」という連帯を実感できるイベントだった。

 「フラワーデモ」は、これからも大輪の花を咲かせるだろう。

【information】

一般社団法人Springは、2020年のロビイングや資料印刷等の活動費のために2020年1月17日までクラウドファンディングを行っています。すでに多数の支援をいただいていますが、さらに盛り上げるべく、応援イベントを開催します。

小川たまか×清田隆之×シオリーヌ
「私たちをモヤモヤさせるものの正体は?
~セクハラ、性暴力、ジェンダーギャップ」

●日 時 2020年1月12日 15:00~17:00 (14:30開場)
●場 所 本屋B&B(東京・下北沢)
●入場料 前売1500円+ドリンク500円(ともに税別)/当日2000円+ドリンク500円(ともに税別)

※詳細&申込みはこちらから

あなたにオススメ

「2020年、性暴力に関する刑法を改正したい。被害実態を国会に届け「世界を変える」」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。