「刑務所のほうがマシ」な日本の入管収容施設で横行する人権侵害

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織田朝日氏

 11月に来日していたローマ教皇(法王)は、都内で行われた難民留学生との交流イベントにおいて、日本政府が難民や在留資格のない外国人などに厳しい対応をしている事実を述べたうえ、「特にお願いしたいのは、友情の手を広げてひどくつらい目に遭って、皆さんの国に避難して来た人々を受け入れることです」(2019年11月25日付ウェブサイト「テレ朝news」)と発言したという。

 実際、日本の難民や入国者収容の在り方は国際社会の批難を浴び続けており、国連も複数回にわたって是正を求める勧告を出し続けてきた。

 それでも事態は改善しなかった。ここ最近では大手メディアでも取り上げられるようになってきたが、日本の入管施設では収容者は「いつ出られるか分からない」「満足な医療が提供されない」など、人権的に非常に問題のある扱いを受けている。

 なぜこんな異常な状況が放置されているのか? そして、中ではなにが起きているのか? 入管施設に収容されている外国人たちの支援活動をし、つい先日には『となりの難民 日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)を出版した織田朝日氏に話を聞いた。

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織田朝日
外国人支援団体・編む夢企画主宰。東京入国管理局を中心に面会活動、裁判、当事者アクションをサポートしている。主な著書に『難民を追いつめる国 クルド難民座り込みが訴えたもの』(クルド人難民2家族を支援する会・編著/緑風出版)などがある。

東京オリンピックの「治安対策」

──ここ数年、入管に関する問題がたびたび話題になるようになってきました。なぜ急にこういった事態になっているのでしょうか。

織田朝日(以下、織田) 「オリンピックの治安対策」を名目に方針が変わったということはよく言われています。
 入国管理局(当時。現在は出入国在留管理庁)は、2016年4月7日付で「2020年東京オリンピックまでに、不法滞在者等『日本に不安を与える外国人』の効率的・効果的な排除に積極的に取り組むこと」との通知・指示を出しました。
 それまでは、難民申請者が入国管理施設に収容されることはあまりなかったと思うんです。でも、2016年からはいきなり厳しくなった。
 そして現在では、今年6月時点で1147人もの外国人が収容されています。6カ月以上の長期収容者も増えており、2018年には2013年の2.5倍となる681人が長期の収容を余儀なくされているとのデータが出ています。

──オリンピックと難民申請って、なにか関係あるんですか?

織田 「こじつけなんじゃないか?」という感じはどうしてもしますよね。入管庁が考えている本当のところはよく分からないけれども、オリンピックを名目にして「外国人を排除したい」ということの言い訳にしているのではないか、と。
 オリンピックの後、入管の状況がまた変わるのかは分かりません。ただ、どちらにせよ、オリンピックまではまだ時間がありますから、いま収容されている人たちはたまったものではありません。

祖国に帰れば殺される「『出ていけ』は『死ね』と言っているのと同じ」

──入管施設内部ではひどい人権侵害が行われており、国連からは日本政府の難民の扱いに関して何度も勧告が出ています。

織田 刑務所と入管施設の両方に入ったことのある人に聞いたら「刑務所の方がマシ」と言っていましたね。

──「刑務所の方がマシ」って、よっぽどですね。

織田 入管施設の問題は数多くありますけど、大きいのは「いつ出られるか分からない」という問題です。

──刑務所の場合は刑期がありますから、少なくともいつ出られるかは分かります。

織田 それが入管施設は分からない。しかも、刑務所だったら中に入っている間に刑務作業がありますけど、入管施設ではそれもない。
 一応、フリータイムはありますけど、毎日毎日狭い広場でサッカーをやっても精神的には楽になりませんよ。
 収容された人の多くは、どんどん痩せていきます。支援活動においても、前までは長期収容されることなんてなかったから「もうちょっとの我慢だよ」って言えたんですけど、いまはもう掛けてあげる言葉がなくなってきてしまって……。

──どうすれば入管施設から出ることができるんですか?

織田 仮放免を請求して、それが認められれば、取り敢えずは出ることができます。許可が出なければ、また仮放免請求を出し直すことになります。
 ただ、その許可が出るまでの期間がまちまちなんですよ。
 大まかに言うと、平均で2カ月ぐらいらしいんですけど、半年待った人もいれば、10日前後の人もいる。

──それが「いつ出られるか分からない」ということの意味ですね。

織田 人間の身体の自由に関わることなのに明確な基準がなく、入管の裁量ですべてが決まっていく。これは本当に問題だと思います。

──報道では施設内の劣悪な環境もしばしば伝えられます。

織田 食事の問題、医療の問題もありますね。特に、医療の問題は深刻です。
 入管施設の中では収容者が申請をして医師の診察を受けることになります。しかし、それには非常に時間がかかるようです。
 つい先日には、トルコ国籍のクルド人男性・ムスタファさんが、3カ月半もの間ずっと睾丸の痛みを訴えていたのにも関わらず放置され、結果的に外部の病院で精巣がんと診断されて右精巣を摘出していたことが明らかになりました。

──言葉を失います。転移して取り返しのつかないことになっていた可能性もあります。

織田 正直、いまの日本で入管ほど力の強い施設ってないんじゃないかなと思います。入管では死亡事故や自殺が相次いで起きているのに、誰も責任をとらない。
 これが日本の学校や職場だったら大問題になっているし、責任者が記者会見を開いて頭を下げるはずです。

──そうはならず誰も責任をとらないまま放置されているのは、収容されているのが日本人ではなく外国人であるという差別意識があるのでしょうか? 外国人のことだから知ったことではないというか。

織田 それはあるんだと思います。だから、もっと多くの人にこのひどい状況を知ってほしいし、このままでいいのか考えてほしいと思っています。

──入管は収容者たちを辛い目に遭わせることによって自主的な帰国を促そうとしているのでしょうが、クルド人をはじめ、難民となっている人たちは祖国に帰ったら迫害されたり殺されたりする危険性のある人たちです。

織田 昔、シリア難民の友人が「5年、10年、日本に住んでいる人に『出ていけ』と言うのは『死ね』と言っているのと同じ」と言っていたんですけど、それはその通りだと思っていて。
 ある程度の期間日本に住んでいたら、仕事や友人を通じて地域社会との関係はできているし、日本で家族ができていて子どもは日本の暮らししか知らないことも多い。そういった状況を知ろうともしないで、簡単に「日本から出てけ」と言うなんて、あまりにもひどいです。

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織田朝日『となりの難民 日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)

外国人への人権侵害を「他人事」と思ってはいけない

──仮放免で外に出ても大変ですよね。就労が禁止されていたり、県外に出るには出入国在留管理庁の許可が必要だったり。
 その一方、日本政府は2019年4月、技能実習制度に関する人権問題をきちんと議論しないまま出入国管理及び難民認定法(入管法)を強行採決してしまいました。

織田 みんな怒ってますよ。「なんで、日本に根付いている私たちを働かせないの?」って。
 それに、同情もしていました。ベトナムなどから来た技能実習生は、借金を抱えていたりして、ひどい労働環境にあっても、帰るに帰れないわけですもんね。

──入管収容施設に入っている外国人の扱いも、技能実習制度で日本にやってきた外国人の扱いも、いずれ私たち日本人に返ってくるのではないかという気がしてなりません。

織田 私もそう思っています。これは日本に生まれ育った日本国籍をもつ人たちにとっても人ごとではないと。
 マルティン・ニーメラー牧師の言葉ってありますよね。<ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった 私は共産主義者ではなかったから/社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった 私は社会民主主義者ではなかったから/彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった 私は労働組合員ではなかったから/そして、彼らが私を攻撃したとき 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった>という詩です。

──有名な詩ですね。

織田 私はいまの日本で起きていることは、この詩と同じだと思うんです。
 人権侵害が起きるとき、まず犠牲者となるのは弱い人たちじゃないですか。だから、いまは不法滞在の外国人がひどい扱いを受けている。
 でも、それはいつか必ず自分たちのもとにもやってくるんです。権力やお金のある強い人たちが次に虐げるのは、私たち日本人の庶民かもしれない。

──ここ最近では入管の問題がメディアで取り上げられる機会も増えてきました。

織田 支援活動を始めたときは「なにをやっても意味ないかもしれない」と絶望しながらやっている感じだったんですけど、ここ最近になってようやく、希望というか、「変えられるんじゃないか」という感触をもてるようになりました。

──やはり問題が共有されてきたのでしょうか。

織田 入管の姿勢を変えるのは難しいけれど、お上だって人間なので、世論が批判的な方向に傾けば、収容者に対する方針を変えざるを得ない。

──そのためには、もっと多くの人に収容者の訴えを届かせる必要がありますね。

織田 だから、メディアはもっとこの問題を取り上げてほしいし、皆さんには入管の収容施設で起きていることを知ってほしいです。

(取材、構成、撮影:編集部)

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