話題となり、そして忘れ去られつつある2019年版メンタルヘルス事件簿

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 今回は、広い意味で「メンタルヘルス」に関連すると考えられる2019年の事件を振り返ってみよう。

 「メンタルヘルス」に関連する数々の事件は、内容も深刻さも影響も多様だが、敢えて共通点を1つだけ挙げると「感情を揺さぶられる」ということだろう。「メンタルヘルス」に関連する事件の報道や事実に接する人は、どうしても「メンタル」を刺激される。それはしばしば、社会全体の「ヘルス(健康)」への脅威という感覚や、根源的な不安につながる。そして“傾向と対策”のカギは、日本においては「2014年」にある。

取り残されたメンタルヘルス後進国・日本

 本連載の目的は、「メンタルヘルス」が関連した事件と、その背景を解きほぐすことである。「メンタルヘルス」あるいは「メンタル」という用語は、もはや、日常にあり…

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話題となり、そして忘れ去られつつある2019年版メンタルヘルス事件簿の画像2 ウェジー 2019.11.30

相模原障害者殺傷事件以後、何が忘れられ続けているのか

 2016年7月26日未明、神奈川県相模原市の障害者入所施設「津久井やまゆり園」に、元職員の男が侵入した。男は、入所していた障害者19人を殺害し、入所者と職…

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話題となり、そして忘れ去られつつある2019年版メンタルヘルス事件簿の画像2 ウェジー 2019.12.01

1月 野田小4女児虐待事件-DVと虐待が連鎖するメカニズムは?

 1月25日、千葉県野田市に住む小学4年生の女児が、父親からの虐待によって死亡したことが報道された。

 2017年、小学3年生だった女児が小学校のアンケートに「お父さんにぼう力を受けています」と回答し、野田市児童相談所は、父親が女児と母親に日常的に暴力をふるっていることを把握した。女児は児童相談所に一時保護されたが、2カ月足らずで保護解除となり自宅に戻った。

 野田市教育委員会父親の威圧的な態度に屈し、そのアンケートを父親に渡した。また父親は、女児に「お父さんにたたかれたということは、ウソ」「児童相談所の人にはもう会いたくない」という内容の手紙を書かせた。その後、虐待はエスカレートし、女児の死亡に至った。また、父親の虐待を止めなかった母親も、父親の共犯者として逮捕されたが、6月に執行猶予つき判決を受けた。

 取り調べを通じて、父親は女児に精神的・身体的・性的虐待を加えており、母親にも日常的に暴力をふるっていたことが明らかにされた。父親は、母親に対する暴力で追起訴されており、一連の事件に対する公判は2020年に開始される見通しだ。

2月 彦根警官射殺事件判決-未熟な少年に拳銃をもたせることの是非は?

 2月2日、若い巡査が教育係の警官(当時40代)を射殺した2018年の事件に関し、懲役22年の判決が言い渡された(確定)。

 巡査は高校を卒業後、警察学校で教育を受け、警察官としての実務に就いて数カ月、当時19歳であった。当初は少年法に基づく少年審判の対象となっていたが、刑事責任能力があると判断され、通常の刑事訴訟手続きが行われることとなった。

 公判では、指導のストレスによって判断能力が損なわれ意識狭窄状態となっていた可能性が争われたが、完全責任能力ありと認められた。また、未成年ではあったが、現職の警官が拳銃を使用して起こした犯罪であることが重要視され、実名が公表された。

3月 中学生のいじめ被害に関する第三者委員会設置-「個人間のトラブル」は言い訳にならなくなった?

 3月26日、広島市呉市教育委員会は、同市立中学校に在学する中学3年生の男子生徒(当時15歳)が「下着を脱がされる」などのいじめ被害により精神障害を発症したことに関し、記者会見を開き、第三者委員会を設置して調査する方針を表明した。第三者委員会は4月より設置されている。

 男子生徒は中学1年時より、同級生男女のいじめに遭っていた。中学3年になると、欠席が増え、安眠できない状態となっていた。学校は、中学3年の6月にはいじめを認知していたが、重大事案とは認識していなかった。

4月 ピエール瀧氏起訴-役者の薬物は大河ドラマの汚点なのか?

 4月2日、前月にコカインを使用して逮捕されていたピエール瀧氏(当時51歳)が、麻薬取締法違反で起訴された。すでに6月、執行猶予つきの有罪判決が言い渡されている。

 瀧氏は、ミュージシャンおよび俳優としてのストレスから薬物に手を出したと供述し、治療を受け、二度と薬物を使用しないことを誓った。また瀧氏が出演していたNHK大河ドラマ『いだてん』は急遽、代役を立てることを発表した。

 なお2019年末には、2020年のNHK大河ドラマに出演が決定していた女優の沢尻エリカ氏が合成麻薬を使用していたため逮捕され、こちらも急遽、代役による再撮影が行われている。

5月 川崎市登戸通り魔事件-引きこもり男性を救済の谷間から救う方法はなかったのか?

 5月28日、登戸駅近くにある私立小学校のスクールバス乗り場で乗車を待っていた小学生と保護者に、包丁2本を持った男が近づき、叫びながら襲いかかった。小学生1名と保護者1名が死亡、小学生17名と保護者1名が負傷、男自身も自分の首を刺して死亡した。

 51歳だった無職の男は、80代の伯父夫妻と同居しており、“引きこもり“状態にあった。交友関係はなく、インターネットも利用しておらず、深刻な社会的孤立状態にあったことが伺われる。捜査により、意味不明な記述のあるノートが発見されたが、大量殺人につながる内容は発見されていない。治療機関等とは、10年以上の期間にわたって無縁であった。

6月 元農水事務次官長男殺害事件-親は子どもを抱え込むべきなのか?

 登戸通り魔事件の3日後にあたる6月1日、元農水事務次官だった父親(当時76歳)が、同居していた無職の長男(当時44歳)が「登戸通り魔事件と同様の事件を起こすのではないか」と恐れ、刺殺した。

 中学生時代から両親に暴力をふるっていた長男は、大学進学を機に両親と別居。就労していた時期もあるが、事件当時は無職だった。長男と両親は、5月25日に再び同居を開始し、事件直前の数日間は両親への暴力が続いていたという。なお、母親はうつ病に罹患し、長男の姉は自殺した。12月、父親は懲役6年の実刑判決を受けたが、控訴している。

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