話題となり、そして忘れ去られつつある2019年版メンタルヘルス事件簿

【この記事のキーワード】

7月 京都アニメーション放火殺人事件-精神疾患と生活保護は原因なのか?

 7月18日、京都府宇治市の「京都アニメーション」スタジオに、ガソリン携行缶を持った男(当時41歳)が侵入し、ガソリンを撒きライターで点火。スタジオを全焼させた。火災により社員36名が死亡、33名が負傷した。男自身も全身に火傷を負い、12月現在も治療中である。勾留に耐えられる見通しがないため、未だ逮捕されていない。

 複雑な家庭環境に育った男は、働きながら定時制高校を卒業した後は不安定就労を続けており、家賃滞納や騒音などによるトラブルも多かったという。2012年にはコンビニ強盗で実刑判決を受け、2016年に出所。その後、更生保護施設を経て、事件当時は生活保護のもとで暮らしていた。精神疾患があり、訪問看護などによる治療も受けていた。

8月 知的障害者の両親に対する判決-親の監督責任はどこまで?

 8月22日、男性(当時62歳)を知的障害のある男性(当時42歳)が突き飛ばして死亡させた2014年の事件で、加害男性の両親に損害賠償を求めない判決が言い渡された。死亡した男性の遺族は、加害男性と同居していた両親が監督義務を果たさなかったとして、約5000万円の損害賠償を求めていた。判決の根拠とされたのは、当時すでに70代だった両親の体力、加害男性から両親に対する日常的な暴力などであった。

9月 エアガンあおり運転男、逮捕-犯罪はアメリカナイズされるのか?

 9月8日、東名高速を走行中に、前方の車をエアガンで撃ちながらあおり運転をしていた男(当時40歳)が、警察に出頭し逮捕された。男の行動範囲では、7月から8月にかけて車や歩行者が走行中の車からエアガンの弾が発射されており、関連性が疑われた。逮捕後、男の尿からは覚醒剤の陽性反応が見られた。

 男は起訴され、12月24日、覚せい剤取締法違反で懲役2年8カ月の判決が言い渡されている。なお、走る車の中から歩行者などを銃で撃つ「shooting by car」は、銃社会の米国で一般的な犯罪の一つである。

10月 神戸市の教諭いじめが発覚-子どもに善悪を教えられる大人はどこに?

 10月4日、神戸市立小学校で行われていた教諭4名による同僚いじめが明らかになった。いじめは2018年から2019年にかけて継続した。内容は、「羽交い締めにして激辛カレーを目にこすりつける」「車を傷つける」「わいせつな文言をSNSで第三者に送付される」といったものであった。

 被害を受けていた20代の男性教諭は、9月から病気休職しており、同僚教諭らのいじめにより、うつ病を発症したと報道されている。なお、いじめを主導した40代女性教諭を含む加害側の3人の教諭も休職中であるが、10月31日以後は給与を差し止められている。

11月 新潟小2女児殺害事件求刑-被告人の弁護される権利は?

 11月4日、新潟市で小学2年生の女児を連れ去り、わいせつな行為をした上で殺害し、遺体を線路に遺棄した事件を2018年5月に起こした男(25歳)に対し、地裁で死刑が求刑された。弁護側は、男が解離性障害・抑うつ障害などを抱えていることを理由として、情状酌量を求めていた。12月4日に地裁で無期懲役判決が言い渡されたが、男と検察のそれぞれが既に控訴している。

12月 東海道新幹線殺傷事件判決-発達障害は罪なのか?

 12月18日、2018年6月に東海道新幹線の車内で乗客の男女3名を刺殺した無職の男(23歳)に対し、地裁で無期懲役の判決が下った。男は生涯を刑務所で送ることを希望しており、無期懲役の判決に万歳三唱したという。

 男は、幼少時に発達障害と診断されており、中学生ごろから不登校や引きこもりが断続していた。また、精神科入院歴もあった。家庭内では孤立しており、両親への暴力もあったという。事件当時は祖母の養子となり、祖母と同居していた。

浮かび上がるキーワードは「家族」と「責任能力」

 何らかの意味でメンタルヘルスに関連した事件は、おそらく毎日、どこかで起こっている。本記事では、同種の事件の重複をなるべく避け、一定の多様性をもたせるようにした。このため、「3月に逮捕された人物の起訴を4月の出来事に」という若干の“無理“をしている。

 また、大きな話題を呼んだけれども含めなかった事件もある。たとえば11月、1歳の子どもが父親にエアガンで撃たれ、肺炎に罹患しているところを放置されて死亡した事件が報道され話題となった。しかしこの事件は、虐待の典型的なパターンそのものであり、虐待死事件としての特異性は見当たらない。また、子どもの死亡から両親の逮捕と報道までに1年近くの時間が経過している経緯にも、経緯に不自然なものが感じられる。このため、今回の一覧には含めなかった。

 ともあれ、一覧を眺めてみると、キーワードとして「家族」「責任能力」の2つが浮かび上がってくる。事態を解決する責任を負っている組織が、責任を果たさなかったり果たせなかったりする様相も見える。実際の事件では、それらが複雑に絡み合っている。

 たとえば、俳優やミュージシャンに違法薬物使用の「責任」を問うのは当然かもしれない。しかし大河ドラマからその人物の痕跡を抹消することで、NHKは何を守っているのだろうか? そこには、視聴者や関係者の視線の中でNHKが考える「責任」があるはずだ。時には、違法薬物使用に走った本人の「家族」が責任を問われることもある。

もしかすると、NHKは深く考えたわけではないのかもしれない。正直なところ、筆者の脳裏には「ト、ト、トカゲの尻尾……?」という文言がチラチラする。筆者は、「CHAGE and ASKA」のASKA氏が覚醒剤使用で逮捕され、「チャゲアス」ならぬ「シャブアス」と呼ばれるようになった後も、往年のヒット曲「僕はこの瞳で嘘をつく」を嫌いになれない。

 「メンタルヘルス」に関連するこれらの事件は、内容も深刻さも影響も多様だ。一定の共通点はあるように思えるが、個々の事件の個別性も大きい。現在の構造と全体像、そして“傾向と対策”の糸口を理解するカギは、「2014年」にある。

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