
Getty Imagesより
「抱かれたくない男ランキング」というものがある。
かつては「an・an」(マガジンハウス)の、そして近年は「週刊女性」(主婦と生活社)の名物企画である「抱かれたい/抱かれたくない男ランキング」。
2019年は8月に「週刊女性」が同企画を実施。「令和元年版抱かれたい男グランプリ2019」と題し、「抱かれたい男」の総合トップは斎藤工だった。
一方の「抱かれたくない男」上位は、1位が出川哲朗。2位はアンガールズの田中卓志。3位にクロちゃん、4位に江頭2:50、同率4位に明石家さんまの名前が入った。
ちなみに5位は木村拓哉だ。木村拓哉は「抱かれたいジャニーズ2019」で2位、「抱かれたくないジャニーズ2019」で1位なので、とにかく注目度が高いようだ。もう46歳、長年第一線にいること自体が偉業と言える。
この「抱かれたくない男ランキング」、基本的に芸人にとっては美味しいネタとされてきた。「吉本ブサイク芸人ランキング」と似た扱いとも言える。だから「抱かれたくない男ランキングはいじめだからやめよう」と提起したところで、「食い扶持を奪うようなことはやめてくれ」と嫌がられるのかもしれない。
しかし、今さら出川哲朗や田中卓志にこのようなキャラづけが必要ないことも確かだ。国民的人気者の出川や、「実は素敵な人」である売れっ子芸人の田中に、「抱かれたくない」も何もない。
痴漢もセクハラもエンタメだった
「抱く」「抱かれる」との表現はセックスを表しており、「抱いて欲しい」「抱かれたくない」はなかなか直球のセクハラだ。
「抱きたい女」や「抱きたくない女」ランキングに近いものはまだあるかもしれないが、公然とやればそれは批判を浴びるし、明らかにセクハラの文脈だ。女性から男性への批評である「抱かれたい男」「抱かれたくない男」も、同じことである。「抱かれたい男」にノミネートされた側とて、「褒め言葉じゃないですか」と言われても「いやいや抱かないし(苦笑)」という反応もあり得る。
のみならず、「抱かれたくない」は「キモい」の言い換えでもある。
実際、前掲「週刊女性」のランキング記事には、「生理的に無理」「気持ち悪い」といったアンケート協力者の意見が並ぶ。
対芸能人なら罵倒してもOKというカルチャーは間違いなくあり、ネットによってさらに直接的な罵詈雑言が芸能人に届くようになってもいるが、その下地は雑誌が形作ってきたと言えるだろう。
別の週刊誌が企画する「女が嫌いな女ランキング」「嫌いな女子アナ」なども同じことだ。「嫌い」という感情を、大々的な仕掛けで対象者に直接届けている。
すべて「ネタ」「冗談」だから「真に受ける方がおかしい」のかもしれない。けれど、かつて日本のメディアは痴漢という性犯罪をエンタメコンテンツ化して面白おかしく消費する文化があったことは事実であり、またセクハラもコミュニケションの一環とされてきた。
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そう考えると、これまで「ネタ」として消費してきた「こいつはキモい」と芸能人を名指しし罵倒するカルチャーも、笑えなくなる日が来るのではないか。「抱かれたくない男」のことを考えるのは、もうやめにしよう。