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「当事者」だけに頼らない アライはどうすれば多様な性を伝えられるか

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トランス男子のフェミな日常/遠藤まめた

  LGBTQなどの多様な性について教えてほしい、という研修や講演のニーズは近年どんどん増えている。しかし、教えられる人が少なく、当事者スピーカーが悲鳴を上げている、という現象をここ数年ずっとみている。

 講演だけでは食っていけないからほとんどの講演・研修スピーカーは他に仕事を持ちながら生活している。それでも12月の人権週間には、あちこちからの研修依頼でスケジュールはパンパン。日常生活もままならない……ということがよく起きているのだ。これでは、近いうちに人権週間にだれかが吐血するという反人権的なことが起きかねない。

 そんなわけで、やっぱりこれはアライの人たち、学校であれば現場の教員たちが、わざわざ外部講師に頼らずとも多様な性についてきちんと教えられるようになってもらわないと、という危機意識がスピーカーたちの間ではうっすら共有されている。

 アライとは、LGBTQの問題について共に立ち上がって声を上げる人たちのことで、一般的には「非当事者」、つまり異性愛者やシスジェンダーである人たちのことを指す。

 差別的なジョークが飛び交ったとき場の流れを止めようとしたり、日頃からLGBTQについて会話の中に盛り込むことで周りを教育しようとするのがアライの役割だ。今の日本だと「私は差別しないヨ」「自分はそういうの偏見ないから」と思っていても黙っている人たちがとても多いが、善意の沈黙は中立でも親切でもなんでもない。

 「それって異性愛の決めつけじゃない?」とか「そこ性別欄いらなくない?」とか新しい視点を持ち込める人こそが求められていて、そのようなアライが存在すれば、わざわざその組織は年に1度の人権研修なんてせずとも、残りの364日も多様性に開かれた場所に変容しうるわけだ。心強いじゃないか。

 でも、誰もがいきなりアベンジャーズみたいになれるわけではなく、実際にはアライになりたくても多くの人は逡巡する。恥ずかしさや間違ったことを言ってしまうのではないかという恐怖、そもそも当事者でもない自分がしゃしゃり出ることへの不安感など、いろいろな気持ちがぐちゃぐちゃになる。

 アライになることはダイエットに似ている。きっかけがあって「アライになりましょう」と言われると、一念発起するが、三日後の飲み会で唐揚げに手を出してしまうと、自分はどうせダメなやつなんだと思って、元の生活に戻ってしまう。アライの心をへし折る唐揚げはその辺りにたくさんあって「ああ忘年会の同性愛ジョークに釣られて笑ってしまった」とか「そんなことを考えているのは職場に自分だけだ」とかの要因によって、人はあまりにも簡単に善意の沈黙へと戻っていってしまう。

 アライであり続けるためには、同じ想いの仲間と繋がったり、お互いのトライ・アンド・エラーについて率直に話し合えるような場が必要だ。もちろん多様な性について学び続けられるような環境も。

 学校の先生から「どのような授業をしたらいいか」と相談を受けて、一緒に考える機会も増えた。子どもたちは上の世代よりも多様な性について身近に感じている割合が高い。

 トップダウンで教わるより、自分たちのペースで学べるようにするのも工夫だ。教室にマンガを置いたり(大分県が発行している「りんごの色」は内容もよくできているし、簡単にダウンロードできて好評だ)、当事者のリアルな生活や人生が伝わってくるインタビュー(私は中野区のレズビアン カップルのお二人の記事を気に入っている)を読んでもらったりして、実際のストーリーに触れてもらうほうが「差別しちゃいけません」みたいな「べからず教育」をするよりは良さそうだ。

 LGBTという用語を説明するなら、同性愛やシスジェンダーという言葉も紹介すべきだし、みんなが多様な性の一部だという理解に繋げたい。そして何より先生がなぜこの問題に興味を持つようになったのかを自分の言葉で話してくれたら、生徒に届く。

 「実は卒業生にもトランスジェンダーの当事者がいて、その人からも今回の授業のアドバイスをもらった」という話を母校の先生がしてくれたときは、みんな顔を上げて聞いていたそうだ。多様な性について茶化している子どもがいたら、その場面を叱るだけでなく、日頃から多様な性について茶化さずに話す大人の姿を見せたらいい。その子は、茶化している大人しかこれまで見てこなかったのだろうから。学校のみならず、職場や地域社会でも、身に付けたい姿勢は同じだろう。

 教員同士だと人間と性”教育研究協議会さんや多様性を目指す教員の会さんのネットワークの中で、どのような発信が可能かは勉強できる。それ以外で職場や地域社会で実践したい人は、近場でイベントや勉強会がないかを探してみるといいと思う。2020年も講演や研修のニーズはたくさんあるだろうけれど、外部講師がやってきて話すより、日常的なちょっとした会話で気づきをもたらせるようなアライがもっと増えることを期待している。

お知らせ

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大切にする社会へ』(新日本出版)

Wezzyでの連載をもとにほぼ書き下ろした新刊『ひとりひとりの「性」を 大切にする社会へ』(新日本出版)2020年1月に刊行予定です。

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