儲けても賃上げしない大企業と迷信を信じる安倍首相…内部留保は過去最大を更新で景気回復せず

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「GettyImages」より

 12月12日、自民・公明両党は、企業の内部留保を投資に回させるための環境作りとして、一定条件の投資に対して課税所得から控除することなどを盛り込んだ2020年度の税制改正大綱を決定した。不況を脱することができない原因の一つとされる内部留保の積み上げに歯止めをかけようということだ。

 9月2日に財務省が発表した『年次別法人企業統計調査』(平成30年度)によれば、2018年度の内部留保(税金剰余金)は7年連続で過去最大を更新して463兆1308億円となっている。

 そして、多くの経済学者や評論家が、この内部留保を貯め込もうとする企業の資本主義的に不健全な精神こそが、国民を貧しくしているのだという。

 どのようなことなのだろうか。

内部留保とは何か

 近年、異常なほど(つまり資本主義社会の企業としては不健全なほど)内部留保が積み上がっていることが話題になり、企業が儲けを社員(つまり消費者)に還元せず、投資にも回していないことが、不況の原因だといわれるようになった。

 そもそも内部留保とはなにか。

 大まかに言えば、内部留保は企業の利益から税金と配当金を引いて残ったお金で、税金剰余金と呼ばれるものだ。

 内部留保の溜め込みで特にやり玉に上がっているのは、大企業だ。それは、儲けているにもかかわらずそれに相応しい賃上げを行わず、しかも法人税が軽減されるなどの優遇措置を受けることで内部留保をとてつもなく積み上げているためだ。

 そこで、2つの批判が起こる。

 ひとつは、儲けているにもかかわらず社員に還元されていなかったり設備投資に回されていなかったりすることで、内部留保が不況の原因となっているというもの。

 もうひとつは、ただでさえ賃金が上がっていないのだから、消費税(要は消費罰)を増税する前に、儲けている企業の法人税を上げるべきだ、というものだ。

 いずれも正論である。

 他方、これらに対する企業側の反論は、内部留保は必ずしも預貯金ではなく、設備投資も含まれているため、必要なものだ、となる。

 本当だろうか。

やはり積み上がっている現預金

 内部留保が投資などにも使われているというのであれば、内部留保ではなく、現預金そのものの増え方を見てみれば良い。

 そこで政府統計ポータルサイトの「e-Stat」で、金融業・保険業以外の業種の内部留保と現預金の割合を確認すると、2018年度の繰越利益剰余金(内部留保)は251兆円だが、現預金は223兆円だ。この段階で、内部留保は設備投資などには使われずに現預金として積み上がっていることがうかがい知れる。

 この現預金の増え方を5年ごとに見ていくと、2003年129兆円、2008年143兆円、2013年174兆円、そして2018年度の223兆円となる。それぞれ110%、121%、128%と大きく増えてきている。特に第二次安倍政権発足(2012年12月)後の2013年度からの増大率は大きい。

 本来、資本主義においては企業が果敢に設備投資や人材投資、研究開発を行い自らの成長を目指すことで経済が成長することが好ましい状態だ。しかし反対に、企業はせっせと現預金を蓄えてきていたのだ。

利益を社員に還元した上で内部留保を積み上げたのか?

 経済学には「合成の誤謬」という言葉がある。ミクロで正しいことが、マクロでも正しいとは限らないということだ。

 たとえば、一人ひとりの個人においては節約・倹約や預貯金は美徳だ。しかし、社会全体にとっては消費が冷え込み、景気が悪くなるので必ずしも歓迎されることではないといったことだ。

 デフレの現在に内部留保を貯め込む企業の姿勢も同様だろう。デフレで需要が小さいときに投資したり人件費を拡大したりすることは経営上好ましくない。今にも訪れるかもしれないさらなる利益の縮小や、逆に景気が回復したときの投資財源として、今は利益を貯め込んでおこう、と考えるのは企業としては合理的な判断だ。

 ところが、これが社会全体で見ると、デフレの時にさらに投資の縮小や人件費の縮小(消費者の購買力縮小)が行われると、デフレが悪化(デフレスパイラル)してしまう、ということになる。

 内部留保というのは本来、景気が良いときに増えた利益を社員の給与に反映させると同時に、次の儲けのための投資を行い、それでもなおかつ余剰分があればはじめて積み上げるべきではないのだろうか、という考え方もある。

 しかし日本人の賃金は哀れな状況になっている。全労連の「実質賃金指数の推移の国際比較(1997年=100)」のグラフを見ればわかるが、1997年を100とした場合の2016年の各国の実質賃金指数は以下の通りだ。

スウェーデン:138.4
オーストラリア:131.8
フランス:126.4
イギリス:125.3
デンマーク:123.4
ドイツ:116.3
アメリカ:115.3
日本:89.7

 先進国の中で、日本だけが下がっている。グラフで見ると、下がり続けてきたことがよりわかりやすい。この一方で、企業の現預金が増大し続けてきたのだ。

 これはすなわち、企業が儲け続けてきた分を賃金に反映させてこなかったということではないのだろうか?

 労働者は消費者だ。消費者でもある社員の給料を削って企業の現預金を膨らませれば、当然、景気は悪くなる。そのような状況の中、追い打ちを掛けるように消費税も上がり続けてきたのだ。

 総務省によれば、2018年の一世帯あたりの消費支出は月当たり24万6000円※3。これを12カ月分にすると、約300万円になる。仮にこの出費のすべてに消費税が含まれていたとすれば、約27万円。消費者は月収以上の金額を消費税として支払っていることになる。これで景気が良くなるわけがない。内需が減れば、景気が悪くなることは当然だろう。

トリクルダウンという迷信

 ところが、これまで消費税の増税とセットになってきたのは法人税の減税だ。これはどういうことだろうか。あちらこちらでの安倍首相の発言から、彼がトリクルダウンという迷信を信じているらしきことがうかがわれるのだが、ここに理由がありそうだ。

 トリクルダウンとは、富める者がより富めば、貧しい者にも富が滴り落ちるという経済理論だ。いや、証明されていないために理論ではなく迷信の類いといえる。

 この理論が正しいならば、企業が儲かった分、社員にも儲けの一部が滴り落ちていなければならない。

 そこで、労働分配率を見てみる。これは、企業が生み出した付加価値のうち、どれくらいを人件費が占めているのか、という指標である。

 もし、企業が生み出した付加価値が上がるとともに人件費も伸びていれば、労働分配率も高まり、富が滴り落ちたことになるのではないだろうか。

 財務相の『年次別法人企業統計調査(平成30年度)』によれば、2014年~2018年の付加価値は110%伸びている。この間の人件費の伸び率はそれを下回る106%だ。しかも付加価値における人件費の割合は2014年の68.8%から2018年の66.3%に減少しているではないか。増加した付加価値はどこにいったのか。

 やはりトリクルダウンは迷信だったと言えそうだ。経済産業省の経済産業政策局産業資金課が公開している『事務局説明資料2019年11月』に次の一文があった。

“企業の経常利益は過去最高となっているが、人件費や設備投資の伸びは弱い。一方、企業が保有する現預金や配当の伸び率は高い。”

 そこには『大企業の諸数値の推移』というグラフがあり、2007年~2018年の間の「現金・預金」「経常利益」「配当金計」「従業員給与・賞与」「設備投資(ソフトウェアを除く)」の各変化が視覚化されている。目立つのは「現金・預金」と「経常利益」の右肩上がりだ。大企業は儲けを増やし続けている。次に右肩上がりなのは「配当金集計」だ。

 一方、「従業員給与・賞与」は哀れなほど横ばいなのだ。そこで、上記の“企業の経常利益は過去最高となっているが、人件費や設備投資の伸びは弱い。一方、企業が保有する現預金や配当の伸び率は高い。”という結論になったのだ。

 やはり儲けは内部留保と配当金に流れていったのであり、トリクルダウンなど起きていなかった。

アニマルスピリットをなくした経営者たち

 それではなぜ、企業はひたすら内部留保を貯めるのか。

 彼らはもはや、アニマルスピリットをなくしている。アニマルスピリットとは、英国の経済学者であるジョン・メイナード・ケインズが著作の『雇用・利子および貨幣の一般理論』で用いた言葉で、企業家の投資行動の動機となる血気や野心的意欲、動物的な衝動を示す。

 現在の主流派経済学では、経済人という架空の存在が、経済的に合理的な動機により経済活動を行うという前提をもっているが、ケインズは人の経済的行動を必ずしも合理的ではないと見ていた。

 このアニマルスピリットがあるからこそ、企業は果敢に投資し、経済は成長するのである。

 ところがバブル崩壊後の日本の経営者の動機は「保身」であろう。事業拡大や投資に失敗して株主から責任を問われるよりも、間違いのない事業展開や経費削減などでリスクを取らずに株主への配当を増やす方が評価されるのではないだろうか。

 つまり、現在の経営者は、デフレで需要が小さな時に、供給を過剰にしても回収が見込めないという、それはそれで合理的な判断をしているのだ。

 ならば、利潤追求体ではない「最後の買い手」として、政府が需要を創造すれば良いと結論づけられる。

 ちなみに、このアニマルスピリットは経済産業省でも研究対象にしている。同省では、アニマルスピリットを製造工業生産予測指数から読み取るというおもしろい試みを行っている。

 それでは内部留保に課税すれば良いのか? 結論からいえば、内部留保に課税することは現実的ではない。

 ひとつは、財務相が難色を示しているように、税引き後の利益である内部留保に課税することは二重課税になってしまうためだ。

 また、内部留保への課税を許すと、それは私有財産権の侵害を認めることにもなってしまう。つまり、我々の預貯金にも課税できるという理屈だ。

 そもそも、資産に課税することは悪税である。それは、所得の有る無しにかかわらず税をとることになるため、税のスタビライザー機能が発動しなくなる。

 税のスタビライザー機能とは、たとえば所得税は収入がない人からは取らないことで、収入がない人が再起できるまでの状況を保護する機能がある。法人税も利益が出ない時には取らないことで、経営状態が持ち直すことを支援していることになる。

 このことから考えれば、所得に無関係な固定資産税や消費税は悪税だ。特に消費税は、収入が少ない人や無収入の人からも容赦なく取るためだ。このことからも消費税は早急に廃止しなければならない。

 それではどうすれば良いのか。冒頭で紹介した与党の税制改正大綱では、投資減税を行うとしている。確かにこれもひとつの方法だが、いっそ法人税を上げてしまうことの方が効果的だ。

 そうすれば、企業は投資だけでなく、賃金を上げても節税できるようになるだろう。

 同時に消費税を廃止し、政府が財政出動を行って需要を創造すれば、デフレ脱却への道筋が見えてくるはずだ。 

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