
昆虫食(撮影:著者)
コオロギ、タガメ、ウジ虫、アリ、セミ、ゴキブリ。これらはすべて世界中で食べられているものだ。
アジア、アフリカ、中南米などでは、独自の昆虫食文化がいまでも継承され、日本でも、イナゴの佃煮をはじめ、信州ではザザムシ、蜂の子といった伝統食が古くから伝えられてきた。
昆虫はタンパク質、アミノ酸、ミネラル、ビタミンなどが豊富で栄養価が高い。そのため現在も重要なタンパク源として食され、2013年には、国連食糧農業機関(FAO)が世界の食糧危機の解決策として、昆虫食を推奨する報告書を発表、昆虫が食糧として注目を集めることになった。
そうした状況のなか、「無印良品」の良品計画は、2020年春に、「コオロギせんべい」を一部店舗とネットストアで発売する。
コオロギは食用に適している
「無印良品」は世界各地で店舗を展開していることもあり、社会でいま起きているさまざまな課題に目を向けてその解決にも取り組んでいるが、世界の急激な人口増による今後の食糧確保と環境問題を、避けては通れない課題と考えている。
昆虫の養殖は、牛や豚などの家畜に比べて、生育する際の温室効果ガス排出量や、必要な水やエサの量が圧倒的に少なく、環境負荷も軽減できる。そのなかでもコオロギは食用に適しているとして国内外で注目されている。
栄養価が高く、主要な栄養素のタンパク質やカルシウム、鉄分などを体内に多く含み、それらを効率よく摂取できる。飼育しやすく安定して生産でき、他の昆虫よりも成長が早く約35日で収穫できるという点も高く評価されている。
エサは主に穀物類だが、雑食なのでエサの選択肢が広く、未利用のまま廃棄される食品ロス問題の解消にもつながる可能性がある。
そこで、良品計画は食糧問題と環境問題を考えるきっかけになればという思いから、国内で昆虫食の研究の第一人者の徳島大学と協業し、コオロギを食材とするための取り組みをスタートした。
賞味期限が長く災害時の備蓄用になるコオロギパン
良品計画は、徳島大学の食用コオロギの実用化に向けた研究成果と商品開発プロセスを共有し、おいしく食べてもらえる昆虫食の開発を進めて商品化にこぎつけた。
「無印良品」で販売するコオロギせんべいは、徳島大学の研究をベースに量産化されたコオロギをパウダー状にして、せんべいに練りこんだものだ。エビのような風味で美味だという。
その徳島大学でも、同大発のベンチャー企業「大学シーズ研究所」が、コオロギの粉末を練り込んだパンを販売している。缶入りのチョコレート味のパンだが、1缶あたりコオロギ約30匹分の粉を使い、賞味期限が5年間なので災害時の備蓄用としても売り込んでいく。
パンやせんべいが果たして売れるか興味深いが、近年、昆虫食が話題となったのが、昆虫食専用の自動販売機の登場だ。
2018年11月、熊本市内の商店街に置かれたこの自動販売機。設置主は食糧危機の解決策として昆虫食が注目されていることを知り、自販機での販売を思いついたという。
昆虫食が盛んなタイなどから商品を取り寄せ、カブトムシ、オケラ、ゲンゴロウ、イモムシなど10種類を600~1000円で販売。1カ月で500~600個売れた。
昆虫を精肉、鮮魚、青果と同じように家庭の食卓で
飲食店で注目を集めているのが、東京・高田馬場に本店があり、19年11月に開業した「渋谷パルコ」にも出店しているジビエレストランの獣肉酒家「パンとサーカス」。
「イナゴの佃煮」「スズメバチのハチの子の甘露煮」といった伝統食のほかに、「タガメの塩漬け」「アリ卵のだし巻き卵」「カイコの茶わん蒸し」「アリチャーハン」などのオリジナルメニューを提供している。
基本的に、味付けは塩コショウだけで、調理方法も揚げるだけといったシンプルなもの。ハチ、サソリ、黒アリなどを漬け込んだ酒も用意している。
2019年8月5日~9月30日まで、「ゴキブリのバルロン仕立て」「サソリネギま串」「セミ殻ムーチョ」「コオロギうどん」などのメニューを揃え、「夏だ!虫祭り」を実施した。
ゲンゴロウ、イナゴ、コガネムシ、カイコ、サソリ、バンブーワームの「6種の昆虫食べ比べセット」も人気を集めた。
昆虫食が注目されるなかで、東南アジアから商品を輸入して、飲食店や小売店に卸すビジネスも出てきた。2019年2月に開催されたスーパーや外食向けの展示会にも出展し、レシピ提案なども行い、昆虫食の普及に力を入れている。
TAKEOでは、一般向けに専門店やオンラインショップも展開。オケラ、カブトムシ、サソリ、タランチェラなどを販売、「昆虫ふりかけ」15g798円、「タガメサイダー」480円、「スーパーワームチョコレート」10g1180円(いずれも税込)といった加工品も取り扱っている。「ヴィレッジヴァンガード」のネット通販サイトでも購入可能なものもある。
同社では「昆虫が精肉、鮮魚、青果と同じように家庭の食卓で楽しまれる社会」をめざして、神奈川県厚木市の養殖施設で、食用昆虫を生産している。
昆虫は食糧危機を救う救世主となるか
昆虫養殖は穀物飼料を使用し、管理された工場で食用昆虫を養殖する方法が一般的だが、ここでは昆虫に与える食草などエサは100%自社農園で栽培されたもの使い、飼育方法も放牧のように、自然に近い形で行っている。
世界の食糧危機を救う救世主となるかもしれない昆虫食。まだまだ、日本ではなじみが薄いが、今回、無印良品がコオロギせんべいを発売することで、さらに注目が集まることが予想される。
日本でも一部の伝統的な昆虫食や面白半分のゲテモノ食いではなく、オーソドックスな食事のひとつとして昆虫食がレストランのメニューに載り家庭の食卓にも上る時代が到来するかもしれない。