海外脱出する日本人の増加止まらず 「日本人がインドで就職する」ことのメリット

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「Getty Images」より

 日本人の海外脱出がこの10年で右肩上がりに増えている。外務省の調査統計によると、海外在住邦人の長期滞在者数は平成20年に75万5724人であったのが、平成30年には87万6620人となっている。

 閉塞感漂う日本を脱出したいと考える人は多いが、海外移住はそんなに簡単なものではない。そんな中、比較的安全安心であるのが日本企業の海外支社で働くという方法だ。

 外務省の「海外進出日系企業実態調査」によると、平成29年10月1日現在の日系企業の拠点数は、第1位が中国の3万2349拠点、第2位がアメリカの8606拠点、第3位がインドだ。インドの拠点数は、4805拠点で前年よりも6.4%増加した。

 人口13億人、平均年齢27歳のインド市場に、進出する日本企業が増加している。それに伴い、現地採用によりインドで就労する日本人が増えてきた。

インドの現地採用にあるチャンス

 海外での働き方には大まかに分けて2通りあり、現地採用と駐在だ。現地採用は、海外の現地法人に直接雇用される形態だ。駐在は、日本本社から海外の現地法人に派遣される形である。

 駐在による海外就労は、会社の意向が主である。それに対し、現地採用は働きたい国や時期も自分の意思で決められる。

 アジア諸国で人気の就労国のシンガポールやタイなどと比べて、インドは日本人の就労先としてはマイナーな国だ。しかし、インドの現地採用では未体験の分野にも就労するチャンスがあったり、裁量の大きい仕事を任されたりする可能性もある。

 日本人がインドで現地採用で就労する場合、就労ビザ取得のための最低賃金がインド政府により定められている。インドでの生活費は日本に比べて安いので、現地採用の給与でも工夫次第では貯金もできる。

 本稿では、インドにおける日本人の就職や生活事情を紹介したい。

インドで就労したら月給はどうなる?

 為替レートは、2019年12月現在、1インドルピー=1.5円前後で推移している。本稿では、1インドルピー=1.5円の計算で記述する。

 インドで日本人が現地採用で就労する際、就労ビザ取得のための最低賃金は年収で162万5000ルピー(約243万7500円)である。ここから税金など控除後の手取り年収は約180万円、月収にして約15万円ほどになる。

 インドは日本に比べて物価が安いものも多い。日本での月収15万円よりも余裕のある暮らしができる。専門職では、最低賃金よりも高い給与の求人もある。

現地での生活費の実態

 インドでの生活費の実態が、ニューデリーに本社を置く日系人材紹介会社のパソナインディアで紹介されている。

 首都ニューデリー在住で手取り12万ルピー(約18万円)の人と、南インドのチェンナイ在住で手取り11万ルピー(約16万5000円)の人、2つの例が紹介されている。両者とも29歳で女性だ。

 家賃は、両者ともに3万2000ルピー(約4万8000円)だ。立地やセキュリティを重視すると、家賃には3万ルピー(約4万5000円)程度の支出が必要になる。

 ガス、電気、交通費などで4000ルピー(約6000円)前後、交際費は5000ルピー(約7500円)前後、食費はチェンナイ在住の人が1万ルピー(約1万5000円)、ニューデリー在住の人は2万5000ルピー(約3万7500円)と記されている。

 ニューデリー在住の人は営業職で、昼食は日本食レストランなどの外食がメインだそうだ。雑費などを除き、貯金はそれぞれ月に5万ルピー(約7万5000円)、4万ルピー(約6万円)しているとあった。

 インドでの携帯電話の料金は、データ通信などほぼ使い放題で1カ月300ルピー(約450円)程度だ。野菜や乳製品などの食料品も、日本と比べてかなり安価である。

 実際に、4万ルピー(約6万円)や5万ルピー(約7万5000円)貯金することも、無駄遣いをせず食事を自炊中心にすれば可能であろう。そこまでストイックに生活しなくても、数万ルピー程度の貯金は可能だ。

現地採用でのメリット

 現地採用でも、会社によっては車で自宅と会社の送迎を行ってくれるところもある。送迎がなくてもウーバーなどの配車アプリでのタクシーは、30分ほど乗車しても275ルピー(約413円)程度とかなり安い。年1回の帰国費用を負担してくれる会社もある。

 休日もタクシーでの移動で普通の生活ができる。ヨガ教室やインドの伝承医学であるアーユルヴェーダ方式のマッサージなども、日本に比べ安価で行きやすい。

 日本に住んでいたら裕福な人しかできない暮らしが、インドだと現地採用でも可能なのが魅力である。

インドで働くなら英語は必須

 インドで就労するにあたり、向いているタイプは好奇心やチャレンジ精神が旺盛な人だ。とにかく飽きさせてくれないインドの毎日の生活を、ポジティブにとらえられる人ならなお良い。

 インドでは、業務を英語で行う会社が多い。とはいっても、職種次第では日常会話程度の英語力で就労できる会社もある。英語の文法的に多少の間違いがあっても、インドの人々は気にしない傾向にある。伝えることが重要と割り切り、どんどん話すうちに上達する人も多い。

 筆者の知人は英語が流暢ではなかったが、現地採用で就労しながら夜間、英語を習っていた。その後、だいぶ上達していたので、大事なのはやる気であろう。独特のアクセントのインド英語が聞き取りにくいと言う人も多いが、そのうち慣れていく。

 インドではスタートアップやまだ進出して年月がたっていない会社も多く、裁量の大きい仕事のポストの募集もある。日本の会社で分業で取り組む業務の範囲が狭く、そこから抜け出して成長したい人にとっては、インドでの就労はチャンスになるだろう。

 また、一度はインドを訪れて、インドに馴染めるかどうかという確認は大事だ。アジア諸国への旅行経験があれば、だいたいの想像はつくであろう。しかし、欧米諸国しかないのなら、まずは旅行で行ってみるのをおすすめしたい。というのは、インドは好き嫌いが分かれる傾向にあるからである。

インドで求人がある地域と特徴

 インドでは主にいくつかの地域で求人があるので、各地域の特徴を紹介しよう。

 まず、日本人の求人の大半を占めるのが、首都のニューデリーと隣接するハリヤナ州のグルガオンだ。

 日本企業の現地法人の大半がこの地区にある。日本人経営の日本食レストランも多く、日本式パンやケーキも食べられる。大規模なショッピングモールも点在し、おしゃれなカフェ、映画館など休日のエンターテイメントにも事欠かない。この地区には在留邦人も多いので、日本人の友人も作りやすい。

 大都市ゆえに大気汚染、渋滞などはかなり激しいのが現状だ。気候は夏は40度を超える日もあり、過酷だ。冬は最低気温が10度以下まで下がるが昼間は20度近くまで温度が上がり、日本の冬ほど寒くは感じない。

 次にニムラナだ。ニムラナは北西部のラジャスタン州にあり、ニューデリーから車で約3時間ほどに位置する。ここには日本企業専用工業団地があり、日本人の就労者も多い。

 気候はニューデリー地区と同様だが、大気汚染はニューデリーほどひどくはない。狭い団地内のコミュニティーなので、少し寂しくなる可能性はあるだろう。

 次に南インドのチェンナイだ。求人は多くはないが、日本企業が進出しているので時期によりポストに空きが出る。2019年10月からANAの成田―チェンナイ間の直行便の就航も始まり、便利になった。

 気候は夏には35度以上になり湿度が高いが、冬でも最低気温が20度、最高気温が30度程度だ。ニューデリーと比べて、だいぶ過ごしやすい気候である。大気汚染や渋滞などは都市なので若干はあるが、気になるほどではない。

 大型ショッピングモールもいくつかあり、映画館やスターバックスなども入っている。おしゃれなカフェもあり、休日をのんびり過ごせる。

 次に、西部に位置する海に面した都市ムンバイだ。ムンバイはチェンナイよりもさらに求人は少ない傾向ではあるが、日本企業が進出しているので時期によりポストに空きが出る。ANAで成田―ムンバイ間の直行便が就航している。

 気候は1年を通じて最高気温は30度から35度前後、最低気温は17度から27度程度だ。湿度が高く、雨季には激しい雨が降る。大気汚染や渋滞はあるが、ニューデリーほどではない。

 日本でも最近人気になっているボリウッド映画の拠点地だけあり、おしゃれなカフェやレストランも多い。他の州と比べて、お酒を提供するレストランも多くお肉料理も豊富だ。

 最後は南インドに位置するバンガロールだ。インドのシリコンバレーとも称されるIT都市のバンガロールは、気候が温暖で過ごしやすい。1年の大半は、最高気温28度、最低気温20度程度だ。2020年3月下旬からは、JALで成田―バンガロール間の直行便の就航がスタートする。

 最近は日本企業も進出し求人は増えてはいるが、少ないのが現状である。おしゃれなカフェもたくさんあり、お酒の提供をするレストランも比較的多い。大気汚染もあまり感じられず緑も多く、人気の都市である。

インドでの仕事を探すには

 インドでの就労に興味を持ったら、まずはインドにある日系の派遣会社に登録するのが良い。首都のニューデリーには、いくつかの日系の派遣会社がある。実際に派遣会社まで足を運ばなくても、メールでのやりとりで登録できる。

 派遣会社に登録した後は、自分が希望する職種や地域の求人を紹介してくれる。履歴書や職務経歴書はメールで送付し、面接はたいていスカイプで行われる。

 筆者は、インド在住時にニューデリーの日系の派遣会社に登録した。在住していたラジャスタン州の気候が厳しいため、バンガロールに引っ越そうと思ったのだ。しかし、バンガロールでの求人は非常に少なく、ニューデリー近郊の求人で時々声をかけてもらうこともあった。結局、筆者は就職はしなかったが、ニューデリー近郊の営業や事務などの求人情報はたくさんあった。

 現地採用での給与や厳しい気候条件などを考えると、インドは楽な就労国ではない。しかし、そんな状況だからこそ、裁量の大きい仕事につけるチャンスもあり、帰国後にキャリアアップの転職をしている人もいる。

 日本では、英語による外国人マネージメントの経験は重要視される。インドで現地採用で数年働いた後、日本の企業で外国人をマネージメントするポストに就いている人もいる。若いうちの人生の数年をインドで就労し経験を積み、キャリアアップの一歩として生かすのもひとつの手である。

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