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『VERY』はなぜDVを見過ごしたのか…夫の暴力、妊娠中の浮気も「やりすごす」企画へのモヤモヤ

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『VERY』2020年1月号(光文社)

 カバーモデルがタキマキこと滝沢眞規子から、矢野未希子にバトンタッチして注目を浴びた『VERY』2020年1月号(2019年12月7日発売)。3児の母でセレブ主婦である滝沢から、子どものいない既婚の矢野への交代は、VERYに化学変化が起こることを期待させるものだ。

 しかし新鮮な期待とは裏腹に、同号では一昔前にタイムスリップさせるような特集記事も掲載されていた。タイトルこそ「30代『突発的離婚クライシス』のやりすごしかた」とVERYらしい骨太感なのだが、肝心の中身はといえば、DVや妊娠中の浮気(それも複数名との!)を「いかにしてやりすごすか」だった。

職場復帰したら「家族を犠牲にするな!」

 なかなか表立っては言えない読者の体験談を複数並べ、「大変なのは私だけじゃない」「わかる、わかる」と読者を安心させるのは、VERYの十八番だ。今号においても、読者たちの声はあまりに赤裸々だった。

 たとえば、ある女性(34歳)の夫(43)は、家族が増えても「生活レベルは下げたくない」と話していたそうだ。妻はそんな年上夫の意をくんだのだろう。子が1歳になってすぐ時短勤務で復帰するが、夫は「自分が外に出たいから働いてるんでしょ? 家事もしっかりやって当然」「そんなはした金稼ぐために家族を犠牲にするな!」などと育児や家事の負担を押しつけてくる。しかし女性は時短勤務で収入が減少しており、強くは言い返せない。

 働く妻の嘆きは、別の女性(37)のケースでも。仕事の都合などでお願いごとをすると、夫は「そんなに働きたいなら、僕が仕事を辞めるから君が稼いできてよ」と言い出すそうだ。この女性たちはともに職場でワーママとしての辛酸をなめているはずで、家庭内でもこんな具合では休まらないだろう。

夫の浮気や暴力に耐えて、「回復」

 そんな現役苦悩妻の声に続いて、次の頁には「ちょっと先輩」たちの体験談が並ぶ。離婚クライシスから抜け出したサバイバーたちの声だから、期待は高まる。ところが……だった。

 「第1子の妊娠中に夫の浮気が発覚(同時に何人も)」という女性(36)は、夫(42)を「気持ち悪い、汚い」と忌み嫌いながらも「2人目欲しさに、目を瞑って頑張りました」。めでたく二児の母になると、生活に余裕ができたこともあり「海外旅行先で手を繋げるほどに回復しました」という。ゴールはそこでいいのだろうか。

 さらなる衝撃は、結婚歴13年、3児の母という女性(37)の話だった。第2子が1歳の頃、仕事に復帰した彼女は、「仕事と育児の疲れがピークで二人揃って極限状態に。些細な喧嘩から、私も憎たらしい反抗的な言葉を返してしまい、一度だけ、殴られました」。

 驚くべきはその後の展開だ。

「憎くて憎くて仕方なかったけど、私はこの家族を継続させたかった。考え抜いた末、これをきっかけに仕事を辞めました」

 DV被害者が暴力だけでなく、経済力や社会との接点を奪われることは珍しくない。この女性は子どもが成長してもなお、「この家族を継続させたい」と思えるのだろうか。それともVERY妻なら長い結婚生活の中で怒りがグツグツと煮えたぎり爆発することはないのだろうか。

まさかのアンサー「解決を夫に求めず、外に発散を!」

 現役苦悩妻とサバイバーの声を読み、深いため息をつきながら、次のページをめくった。するとそこには、『夫は犬だと思えばいい。』(集英社)の著者で、「花まる学習会」設立者の高濱正伸氏のトンデモ助言が炸裂していた。

「夫を変えるより、環境を変えることより、自分が笑顔でいることならできる」

「子育て中の夫婦が目指すところはただひとつ。子どもがちゃんと育つこと。そのためには、母親がニコニコしていることが最高なんだということを自覚してください」

 高濱氏は何もVERYで突然変異してしまったわけではない。常にこの手の主張をしてきた人だから、「解決を夫に求めず、外に発散を!」(高濱氏)という解決方法は、高濱氏を識者枠で登場させた編集部の意思でもあるのだろう。

産後クライシス、0−2歳児を抱えた離婚は多い

 理不尽な目に遭っても「この家族を継続させたい」と願うこと、そのために耐えるという女性たちの選択を責めるつもりはない。「私も耐えたら、許せるようになるかもしれない」「関係を修復できるかもしれない」と希望を抱きたいし、後押ししてほしいVERY読者もいるのかもしれない。

 だが、モラハラ、DV、浮気を「やり過ごせ」「気の持ちよう」「妻が変われ」と読めてしまうような記事であることも確かだ。なぜVERYはこうした形で記事を掲載したのか。

 数年前に話題になった「産後クライシス」で明らかになったように、子育て世代の離婚率は低くはない。シングルマザーになった時点の子どもの年齢では、0歳~2歳が最も多く(34.2%)、次点は3歳~5歳(20.4%)となっている(厚生労働省の平成23年度全国母子世帯等調査の「母子世帯になった時の末子の年齢階級別状況」)。高齢出産が多くなった今、一概には言えないが、当事者の多くは30代といってよいはずだ。

 一方で、日本のシングルマザーが置かれた状況は厳しいものだ。養育費をもらっているのは一説で20%超。子持ち女性の就労の難しさもあって、VERY妻のような暮らしをできるシングルマザーはごくごく少数でもある。

 VERYが企画した理由もこのあたりにあるだろう。読者へのヒアリングを欠かさず、誌面にはリアルな声を反映させ、女性の葛藤についても包み隠さず(実際には美しくラッピングされてはいるが)掲載してきた。前号で連載コラムが終了した小島慶子氏は舌鋒鋭く社会に吠え続け、桐野夏生氏は連載小説『ハピネス』(続編『ロンリネス』)で、豊洲に暮らす妻たちの虚像を描いてみせた。

 ひとつの雑誌の中に、きらびやかな世界とままならない現実とを映してきたVERYだ。どんな夫婦でも波風はたつものだから、離婚せずに「やり過ごす」ことで、読者が夢見る世界に近づけると言いたいのかもしれない。現実の世界をみれば、嘘とも言い切れないもどかしさもある。

 ただ、本当に読者を思うならばせめて、「やり過ごしていい」ケースだけでなく、そうではないケースについても書くべきだったのではないか。DVやモラハラで命を奪われたり、精神的な傷を受けたりする女性は後を絶たない。常に女性の苦悩に寄り添ってきたVERYだからこそ、その見極めは出来たはずだ。

 VERYのキャッチコピーは「基盤のある人は、強く優しく美しい」。その「基盤」とは、臭いものに蓋をし、誰かが犠牲になってでも、本当に維持するべきものなのか。家庭の問題を「女性の強さ、優しさ」に甘え、女性に責任を押し付ける時代ではない。

 子育て中の女性たちに一定の影響力がある雑誌だからこそ、問題の根本にまで踏み込んでほしかった。

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