政治・社会

排外主義を煽るネット右翼コア層と、日本社会はどう向き合えばいいか?/古谷経衡インタビュー

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古谷経衡氏

 テレビやラジオでコメンテーターとしても多く目にする古谷経衡氏による処女小説『愛国奴』(2018年出版/駒草出版)が改題し、『愛国商売』(小学館)というタイトルで文庫化された。

 『愛国商売』は、保守論壇に入り込んだ主人公の青年・南部照一が、保守系雑誌・保守系ネット番組といったメディアの内部に入ることで、その世界に幻滅していく物語。

 小説のなかで、保守系論壇に入ったばかりの南部は発言の機会が与えられるたびに入念な準備をして望むが、そこでの主張は客に理解されることはなかった。なぜなら、彼らは真摯な言論など必要としていないからだ。

 読者・視聴者が求めているのは、中国や韓国に対するヘイト的な言説だけであった。メディア側にいる人間たちはそのことをよく理解しており、小遣い稼ぎのために客の望むような質の低いコンテンツを提供し続けていた。その状況に南部は幻滅を強めていく──。

 古谷氏のキャリアは南部に酷似している。古谷氏は過去、「WiLL」(ワック)、「Voice」(PHP研究所)、「歴史通」(ワック・マガジンズ)、「正論」(産業経済新聞社)といった保守系雑誌に寄稿を重ね、「日本文化チャンネル桜」にも多数出演した。

 しかし、現在の古谷氏はそういった場所とは距離を置き、排外主義的なネット右翼の発言に苦言を呈するようになった。

 『愛国商売』は古谷氏の自伝的小説と言うこともできるが、なぜこのような小説を書くにいたったのか。現在の保守論壇やメディアについて、思うところを聞いた。

古谷経衡
1982年、北海道生まれ。文筆家。主な著書に『愛国商売』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)、『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)など。

──古谷さんは現在の保守論壇に対してどのような思いを抱いていますか。

古谷経衡(以下、古谷) 「保守」とは、つまるところ、「反理性主義」のことです。
 「人間の理性なんてものは疑わしいのだから、そうではなくて、先人たちの考え・経験を踏まえたうえで、ゆっくりと物事を見定めていこう」という姿勢・態度のことを言うわけです。
 だから、いま排外主義を撒き散らしているネット右翼の連中は「保守」でもなんでもありません。
 実際、彼らはエドマンド・バークも、小林秀雄も、福田恆存も、三島由紀夫も、西部邁も、まったく読んでいない。名前すら知らないのではないか。単純に、無教養なのです。

──保守論壇における重鎮たちの残した知識が共有されていない。

古谷 僕が保守論壇に入ったのは27歳のときです。まわりを見れば、「若手」と言われている人でも40代とかだったので、若くていっぱしの右っぽい発言が出来る僕のような人間は重宝されました。
 でも、彼らを相手に言論活動を始めたのは誤算でした。あんなにバカだとは思わなかった。
 彼らはしっかりした言論には興味を示さず、ひたすら「韓国がどうこう」「中国が云々」と言っているばかり。あと、とにかく陰謀論が好きですね。「コミンテルンが世界を操っている」とか。
 戦争に関する美談も好物ですね。特攻隊の話とか。でも、だからといって、日中戦争や太平洋戦争のことをきちんと勉強しているかというと、まったくそんなことはない。
知覧の特攻隊の話は美談として凄く詳しいのに、盧溝橋やフィリピン戦線の話になるともう何も知らない。これだけ詳細な本が出ているのに一冊も読まない。
日本が東アジアの周辺国にどんな「加害」を行ってきたかという歴史的事実をまともに知らないどころか、それを「なかったこと」にしようとしている。
 しまいには、日韓併合は合法であり、内国化したので決して植民地支配では無かった、とかトンデモ論を延々と捲し立てる。
それをいったら、同じく合法的に内国化したフランス領アルジェリアはどうなるのか。アルジェリアはフランスの植民地では無かったとでも言うのか?と反駁すると、知識が無いから途端に無言になる。で、また10分くらいたったら「日本は朝鮮半島を植民地にしていない!」と同じことを同じ調子で言い出す。もう、聞いてるこっちの頭が爆発しそうですよ。
 どうして彼らがそんな状況にあるかというと、本を読まないから。知識を得るのはネット番組とかの動画ばかりです。
僕と同世代だったあるネット右翼は、櫻井よしこの熱烈なファンで、賛助活動をボランティアでやっていた。で、彼の部屋に入ると櫻井の本が所狭しと積まれている。「どれが一番おすすめ?」と聞くと、「これから読むところだから」と答える。ファン買い、積読ですね。このレベルが殆どです。
 だから僕はつまらなくなって、何年かしたらそこから抜け出しました。いたって仕方がないですよね。そんな読者を相手に本を書いても楽しくない。

──楽しくはありませんね。

古谷 そんなバカを相手にコンテンツを提供して儲けているのが「WiLL」、「月刊Hanada」(飛鳥新社)といった雑誌であり、『真相深入り! 虎ノ門ニュース』(DHCテレビ)のようなネット番組なわけです。
 『愛国商売』の舞台となっているのは、2011年前後の保守論壇ですけど、その構図の基本的な部分は現在も変わっていない。

──これまで受け継がれてきた「保守」の姿勢が、残念な方向に大きく変化したのは、いつごろなのでしょうか。

古谷 雑誌「諸君!」(文藝春秋)が休刊し、民主党政権が誕生した2009年。このあたりが変わり目だったと思います。
 それまでは、保守論壇にいた人たちには、保守としての矜持みたいなものがあったと思うんです。実際、櫻井よしこですら「SAPIO」(小学館)にネット右翼たちの排外主義的なナショナリズムの在り方に苦言を呈する原稿を書いていました。
 でも、2009年以降の「保守バブル」期に出てきた人たちは違う。三橋貴明、渡邉哲也、上念司、百田尚樹、ケント・ギルバート、田母神俊雄その他もろもろ。こういった人たちと彼らのファンは、それまでの保守論壇にあった知的な姿勢を受け継いでいません。ファクトなんてまるで大事にせず、伝統や歴史への敬意もなく、勉強もしていない。
 民主党と中国・韓国が憎ければどんな低レベルの「自称論客」でも参入できる状態となり、こうした人材の繁茂で保守論壇の空気は完全に変わってしまいました。
保阪正康氏、半藤一利氏などは保守論壇の伝統的重鎮ですけれども、もう今のネット右翼は一冊も読んでいない。読解できるだけの基礎的教養がない。名前すら知らないと思う。そして、保守界隈のアカデミズム側にいた人の一部すらネット右翼の濁流に流された。それはいまでも続いています。

──なにがそうさせたのでしょうか。

古谷 要するに、ネットの反応に影響されたんです。いまは往時の見るかげもないですけど、「日本文化チャンネル桜」の影響は大きかった。
 インターネットというのは、上位数パーセントの意見だけが目立つ世界。でも彼らにはリテラシーがないから、そんな構造があることは知らず、ネットの反応が世論だと思い込んでしまった。
 正直、「正論」に寄稿したって反応なんかないんですよ。お便りが来ても、多くてせいぜい数通でしょう。
 でも、ネットでは反響の数字のケタが違う。ネット番組のスタッフとか担当編集者から「先生の番組が10万回再生です」とか言われて、コメント欄には2000件ぐらい投稿があったりすると、有頂天になってこれが世論だと思ってしまう。
 それで、どんどんネット右翼たちの論調に流されてしまったわけです。

古谷経衡『愛国商売』(小学館)

テレビの「空気」はコロコロ変わる

──2019年は「排外主義の底が抜けた年」というか、地上波キー局のワイドショーでも、ネトウヨメディア並みに韓国への敵愾心を煽るような放送が爆発的に増えました。

古谷 テレビに対する危惧の声はよく聞きますけど、個人的にはそこまで重い事態だとは見てないです。
 テレビには主義・主張はまったくありませんから、世間の空気次第で姿勢なんてどんどん変わっていく。まあ、だからこそ厄介だとも言えるんですけど。
 とはいえ、テレビが嫌韓ネタを続けているのは、確固たる意思があるからではなく、ただ、「視聴率が落ちにくい」から。ただそれだけです。業界内的には今後淘汰されていく運命にあるネタだと思いますよ。

──それは珍しい意見です。

古谷 だって、テレビ番組をつくっている人が嫌韓なわけではないし、視聴者だって、みんな韓国ドラマやK-POPが好きで、飛行機代やホテル代が安いから韓国旅行にもガンガン行くじゃないですか。
 テレビで嫌韓ネタが一番すごかったのは2019年の夏ごろだと思いますけど、その流れも行き過ぎる前に止まった。
 武田邦彦(中部大学総合工学研究所特任教授)が『ゴゴスマ〜GOGO!Smile!〜』(2019年8月27日放送分)で、日本人女性が韓国で現地の男性から暴行されたニュースに対して「これは日本男児も韓国女性が入ってきたら暴行せにゃいかんのやけどね」と発言したのが原因で大炎上したときは、番組から事実上降板させられましたよね。
 それ以降は、「ここまでは言っちゃいけない」という自制がきくようになったと思います。

──確かにあれ以降、各局のワイドショーが「どこまでひどい言葉で韓国を痛罵できるか」を競い合うような状況はいくらか鳴りを潜めたように思います。

古谷 北朝鮮が核実験なんかしたら報道は「ワーッ」とそっちに行くだろうし、2020年後半にはアメリカでは大統領選挙がある。状況が変わる可能性の方が高いでしょう。
 テレビなんて良い意味でそんなもんですよ。あんなに延々とやっていた日本大学ラグビー部の不祥事の続報なんてやらないし。号泣議員、佐村河内守氏、スタップ細胞もその後どうなったかなんて詳報は無い。だから、もうみんな忘れてるじゃないですか。でもテレビのこういう傾向は、今始まったことではなく何十年も前から一緒です。特段驚くに値しない。

本当に問題なのは少数のネット右翼コア層

──テレビは世の中の空気次第なのですね。

古谷 それよりも問題なのは、ネット右翼のコアな層です。先ほど話したような「WiLL」、「月刊Hanada」、『虎ノ門ニュース』のようなメディアを嬉々として視聴している層ですよ。
 僕の見立てではネット右翼は日本全国で200万人ほどだと思いますが、彼らはいまの嫌韓ムードがなくなったとしても、絶対に変わらない。昔からずっとネット右翼をやって来た人たちです。

──日本の人口のうち、200万人といえばそこまで多数はではありません。

古谷 しかしこのコア層がネットの中でリーダーとなり、問題を起こすんです。差別に関する問題は、ほぼ必ずこの層を起点に発生します。
 彼らの特徴は、50代とか60代の中高年男性で、中産階級以上で小金があって暇もあるということ。私を含めた複数の調査の結果、零細自営業者が圧倒的に多い。まさに丸山眞男いわく、日本型ファシズムを支えた中間階級第一類です。彼らは実行力があるから、どんどんコメントを書き込むわけです。それで存在感を示す。
 ネットの世界だけではない。あいちトリエンナーレで激しいクレーム電話を入れていたのも、この連中。
 この中にはもちろん、在日特権を許さない市民の会(在特会)のメンバー、日本第一党の支持者、NHKから国民を守る党の信者なんかも含まれます。
 彼らは「ヘイトスピーチ」を最も好む層です。まあ、彼らは自分たちの発言を「差別ではなく区別」と、訳の分からない理屈をこねて差別感情を否定しますが。
 常に問題の発信源となっているこの層をなんとかしないといけない。

──行動力があるので、実際以上に大きい存在に見えるわけですね。

古谷 彼らの行動はメディアに影響をおよぼし、その結果、社会全体にもその力を発揮します。
 たとえば、某ネット番組の話ですが、上念司のようなタイプのコメンテーターが出たらコメント率が突出して良いんですって。
 番組首脳は番組を評価するときにコメント数も気にしますから、大量のコメントを引き出してくれる出演者の存在はありがたい。それで、定期的に出演を依頼することになる。
 そうなると、デマや差別的な発言がメディアに垂れ流され、排外主義的な空気が社会を覆っているかのように見えてしまう。

──そういった負のスパイラルが起こるわけですね。彼らを変える方法はないのでしょうか。

古谷 それについては僕も考えてきましたが、正直、もうなにをしても変わらんと思います。彼らが「ヘイトはなぜいけないか?」を理解することはない。だって根本的に、人権意識というものが無いから。教養が無いからそうなるんです。教養というのは学歴ではなく、人文科学系等の知識の重層的積み重ねです。
 「歴史は雑学だと思って切り捨てた」発言でお馴染みの、大澤昇平という東京大学「特任」准教授のヘイトツイートが大問題になってますが、まさに歴史的教養、民主的自意識が欠如している連中に何を言っても無駄でしょう。だから、『愛国商売』でやったように、せせら笑ってやればいいと思いますよ。
 僕は韓国の人と話すときは必ず言っているんです。「日本のネット右翼はバカだから気にしないでいいですよ。ああいうのが日本国の代表だと思われたら我が国の恥ですので、どうか気にしないでください」って。
 そして、私たちも気にせずに、徹底的に嘲笑していればいい。

──ひとりひとりの行動力があるから数が多く見えるだけで、本当は多数派ではないのだということを、改めて再確認しておく必要があるのですね。

古谷 みんな、彼らのことをちょっと大きく見過ぎという感じがします。だから、クレームの電話で必要以上に動揺してしまう。
 僕はずっとネット右翼ビジネスの中にいたし、彼らに向けて仕事をしていた時期もあった。なので、彼らの数の少なさと、取るに足らなさがよくわかっている。
 彼らはノイジーマイノリティーであって、真面目に取り合う必要なんてない。マジョリティーではないのだということをちゃんと認識していかないと。

──彼らの実像がよく分からないがゆえに、怯えてしまう側面はあると思います。実際、古谷さんのように保守論壇の中にいた経験のある人が、外の世界に出てこのような発言をすることは稀なわけで。

古谷 『愛国商売』で書きたかったのは、その構造です。
 一度村社会のヒエラルキーの中にスポッと入り込んでしまったら、出て行くことはなかなか容易ではない。やっぱり楽に小銭が儲かるので。
 でも、僕は途中でバカバカしくなった。
 僕は自分のことを腐っても文筆家・表現者の末端だと思っていますけど、そうであれば、どんどん新しい表現・新しいジャンルに挑戦していきたいじゃないですか。
 しかし、彼ら相手ではそれが出来ない。まず、安倍政権徹底擁護、野党批判、嫌韓、反中、反朝日新聞以外何にも興味がないから、必ず「韓国はダメ、韓国人は哀れ」とかそういう文言を入れないと書籍の企画が通らない時代があったんです。そんな本を書いて原稿料もらったって意味がありません。
そんな愛国商売の小銭稼ぎが人生の何になりますか? バカらしくてやっていられない。人生は一度きりしかない。バカに媚びる文章を書くのは金輪際やめようと思った。
 小説『愛国商売』を通じて、もっと彼らの小ささが外の世界に伝わればいいと思っています。

(取材、構成、撮影:編集部)

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