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排外主義が日本を覆った2019年、ヘイトが蔓延する社会の片隅で見えた希望

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Getty Imagesより

厚労省キャリア官僚や年金機構職員までもが差別感情をあらわに

 今年3月のことだ。韓国・ソウルの金浦空港で酒に酔った日本人男性が叫んだ。

「アイ・ヘイト・コリアン!(韓国人が嫌いだ!)」

 この様子を撮影した動画には、空港職員に物を投げつけながらローキックを浴びせる男性の醜態がはっきりと映っていた。

 暴行容疑で韓国警察に現行犯逮捕されたのは、なんと厚生労働省のキャリア官僚だった。しかもこの人物、 逮捕当日の夜にはフェイスブックで「 なぜか警察に拘束されています」「変な国です」などと投稿。 反省どころか、居直ったのである。

 同じ頃、日本年金機構の世田谷年金事務所の所長が、匿名のツイッターアカウントで差別的な投稿を繰り返していたことが発覚した。

 韓国人を「卑怯な食糞民族」「属国根性」と中傷、さらには在日コリアンを「新規入国拒否」すると息巻いた上に、国会議員の実名を挙げて「帰化議員」といったデマ情報も流していた。

 差別書き込みの常態化、ヘイトの暴走、そして官民挙げての嫌韓感情。ここに記した二つの「風景」は、まさに2019年の”ヘイト模様”を如実に表したものだった。

底が抜けたワイドショーの「嫌韓」報道

 「戦後最悪」の更新を続ける日韓関係を材料に、メディアも悪乗りを繰り返した。特に日本が韓国を「輸出優遇国(ホワイト国)」から外すことを決めた夏以降、テレビのワイドショーは「嫌韓報道」で染まった。

 8月27日放送のTBS系『ゴゴスマ〜GOGO!Smile!〜』(CBCテレビ制作)では、コメンテーターの武田邦彦・中部大特任教授が「路上で日本人の女性観光客を襲うなんていうのは、世界で韓国しかありませんよ」「日本男子も韓国女性が入ってきたら暴行しないといかん」などと発言。

 これは韓国で起きた日本人女性への暴行事件を報じるなかで飛び出した発言だったが、「世界でも韓国しかありませんよ」といった物言いから浮かび上がるのは、韓国と韓国人に対する差別と偏見のまなざしだ。結局、番組は謝罪に追い込まれた。

 7月19日のテレビ朝日系『大下容子ワイド!スクランブル』で、日韓の国交断絶を呼びかけたのは、同番組のコメンテーター・黒鉄ヒロシ氏(漫画家)である。フリップに朝鮮出兵した豊臣秀吉のイラストを描き、その横に「断韓」と大書した。

 「断韓」は、街頭におけるヘイトデモではおなじみの文言だ。「韓国人追放」などを訴えるデモでは、これを記したプラカードが林立することもある。以前はヘイトデモやネットの差別書き込みに限定されていた言葉が、堂々とテレビの地上波に乗せられる時代になった。

 韓国について「手首切るブスみたいなもん」と表現したのは作家の岩井志麻子氏だ。これは、関西テレビ(大阪市)制作のバラエティー番組『胸いっぱいサミット!』のなかで飛び出した。韓国人の気質を問われたことに対して答えたものだった。

 韓国人だけでなく、自殺を図る女性をも揶揄したもので、典型的な複合差別といえよう。しかも番組は生放送ではなく、事前収録。当然、番組考査を経たうえでの放送だった。

 放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、この発言を「放送倫理に抵触する疑いが大きい」として、現在審議中である。

 まさに「底が抜けた」といってもよいだろう。これら発言が、隣国への差別と偏見を煽るだけでなく、在日コリアンにも向けられてしまうといった”被害”に対して、いかに無頓着、無神経であるのか、おそらく制作者にはその自覚がない。いや、それとも、自らがヘイトの片棒を担いでいることに自覚的であるからこそ、こうした番組をつくり続けてきたのだろうか。

 あるテレビマンは私の取材に対してこう答えている。

「(嫌韓報道は)視聴者が望んだものだ」

 それが正しいものかどうかを論じる必要はないだろう。問題は、こうした時代だからこそ、憎悪の抑制に努めるべきメディアが、結果的にそれを扇動していることなのだ。

「売れればそれでいい」メディアが憎悪を煽る

 私が属する出版界も同様だ。保守系雑誌は毎号、「反日」糾弾記事を掲載し、大手週刊誌「週刊ポスト」(小学館・9月13日号)までもが、「韓国なんて要らない」と銘打った巻頭特集を組んだ。

 記事の中身も、韓国と比較して日本がいかに優れているのかといったお粗末なものだったが、新聞各紙に掲載された同誌広告だけでも、在日コリアンの多くに恐怖を与えたことは間違いない。

 作家の柳美里氏は、自身のツイッターに次のように書き込んだ。

<日本で暮らす韓国・朝鮮籍の子どもたち、日本国籍を有しているが朝鮮半島にルーツを持つ人たちが、この新聞広告を目にして何を感じるか、想像してみなかったのだろうか? 想像出来ても、少数だから売れ行きには響かないと考えたのか? 売れれば、いいのか、何をしても。>

 そう、売れればよかった。数字が取れればよかった。一部の人に強いられる”被害”など念頭になかった。テレビも活字も、差別される側には興味も関心もなかった。

 そうした回路でメディアは動く。回る。

 だが、想像してほしい。メディアが差別を煽ることで、負の歴史がどれだけ積み上げられてきたのかを。

 1990年代半ば、ルワンダで起きた民族対立は、ラジオ放送が「敵を殺せ」と煽ったことで、大量虐殺につながった。

 日本も例外ではない。1923年、関東大震災直後には、朝鮮人であることだけが理由で、多くの人が殺された。新聞はガセ情報に基づき、裏どりもせずに記事を書き、虐殺の片棒を担いだ。

 ちなみに第二次世界大戦における日米開戦時、在米日本人、日系人が強制収容所送りとなった際、日本人への憎悪を煽ったのも米国の新聞だった。

 メディアの体質は、社会が危機に陥った時にこそ明らかとなる。

名古屋市長の扇動であいちトリエンナーレへの抗議は激化した

 今年は「ヘイトと表現の自由」に関しても議論が白熱した。

 話題となったのはあいちトリエンナーレの「表現の不自由展」。慰安婦をイメージした平和の少女像が出品されたことなどで抗議が殺到。なかにはテロまがいの脅迫もあったことから、開幕からわずか3日で一度は中止に追い込まれた。

 トリエンナ ーレ実行委員会事務局によると、開幕からの1カ月か月間だけで、 同事務局と愛知県庁が受けた抗議は11万379件にも及ぶ。

 抗議の9割は匿名で、そのうちの半数が少女像を問題としたものだったという。「電凸」と呼ばれる電話による抗議に関しては悪質なものが多く、「サリンをまく」「高性能な爆弾を仕掛けた」「愛知県職員を射殺する」といった殺戮予告もあった。

 逮捕者も出ている。「ガソリン携行缶持って館にお邪魔する」などと書いた書面を事務局にファックスで流した男性は、威力業務妨害の容疑で愛知県警に逮捕された。この男性が利用していたと思われるツイッターでは、フォロー先のなかに、人種差別団体として知られる「在特会」(在日特権を許さない市民の会)元幹部などの名前を見ることができた。

 かつてはその在特会とも連携し、地元愛知県で差別扇動活動を展開してきた右派グループも、閉幕まで連日、「不自由展」に対する抗議を続けた。

 よりにもよってそのような差別集団の隊列に加わってしまったのが、名古屋市の河村たかし市長だった。

 「不自由展」再開に抗議するため現地を訪ねた河村市長は、同集団メンバーらと一緒に座り込み、「公金不正使用を認めるな」とスピーチ。メンバーらが繰り返す「大村(愛知県知事)やめろ」のシュプレヒコールに合わせてこぶしを突き上げた。

 河村市長はこの集団が、これまで名古屋駅前などで”日韓断行”を訴える街頭宣伝を繰り返してきた他、地元在住の中国人が旧正月を祝う「春節祭」や、「韓国フェスティバル」の会場近くにも押し掛け、差別プラカードを掲げた妨害活動をおこなってきたことなどを知らなかったのだろうか。

 そもそも、トリエンナーレ開幕直後に少女像の展示が中止となった流れをつくったのも、河村市長だった。8月2日に「表現の不自由展」を視察した直後に、市長は「日本人の心を踏みにじるものだ。税金を使っているから、あたかも日本国全体がこれを認めたようにみえる」と発言。この犬笛に呼応したかのように、世間の一部は一斉に飛び掛かった。

 枯草に火を放ったようなものだった。抗議電話やメールが事務局に相次ぎ、ネット上では影響力のある著名人をも巻き込んで憎悪の書き込みが増えていく。

川崎市はヘイトを許さない姿勢を明確に示した

 一方、日本人(日本国)を貶める表現など許されないと積極的に行動した者たちの多くは、川崎市議会で年末に成立した「反ヘイトスピーチ条例」に関しては、「表現の自由の危機」だとして強く反発した。

 同条例は、市内の公共空間におけるヘイトスピーチを禁じたもの。警告などを無視して繰り返した場合には罰金(最大50万円)が科せられる。全国で初めて、ヘイトスピーチに刑事罰を適用した条例だ。

 市の担当部局には「表現が制限されてもいいのか」「日本人に対する差別は許されるのか」といった抗議が殺到した。

 では、 ヘイトは野放しでよいのか。被害が積み重なることを、傍観していてもよいのか。そもそも特定の人々を、その属性だけを理由に排除、抹殺しようとする言動が許されたままでよいのか。人間の尊厳を傷つけ、奪い取るような行為を、「表現」 として放置してもよいのか。

 外国籍住民の多い川崎ではこの数年間、 ヘイトデモが幾度も繰り返されてきた。市の選択は、ヘイターたちによって蹂躙された結果を踏まえての回答でもある。

 私は繰り返し主張してきた。ヘイトスピーチは、人間と、地域と、社会を壊していく。だからこそ、人間と地域と社会を守るためにこそ、ヘイトスピーチをなくしていかなければならないのだ。

 競うように差別と偏見、憎悪を扇動する者たちを許さない、そして、負けない。その意志を私は来年の希望につなげたい。

 なお、私がフリー編集者の野間易通氏と一緒にMCを務めるネット番組「NO HATE TV」では、今年最後の放送で恒例の「今年度ヘイトトップ10」を発表した。視聴者のネット投票などをもとに、ヘイト関連ニュースの上位10件を選定した。「令和」で浮かれた今年のもうひとつの「風景」である。参考にしていただきたい。

1. 川崎反ヘイト条例成立
2. 対韓輸出規制などによる韓国ヘイト
3. あいちトリエンナーレ「表現の不自由展」におけるヘイト騒動
4. 入国管理局による外国人収容者に対する人権無視の施策
5. ヘイト選挙(選挙に名を借りたヘイトスピーチ)
6. 『ゴゴスマ』放送事件
7. ミルクシェイク・チャレンジ(欧州でヘイト政治家に対してミルクシェイクを投げつける者が続出)
8. アイヌ新法成立(初めてアイヌ民族が日本の先住民族であると明記された)
9. 厚生労働ヘイト省(金浦空港事件など)
10. 令和ナショナリズム

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