なぜ男性は、女性の「夫のHがイヤだった」を受け入れられないのか

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男性学研究者・田中俊之さん(奥)と、Mioさん(手前)

 『夫のHがイヤだった。』(亜紀書房)ーー衝撃的なタイトルと受け取られがちですが、これを最初に目にしたとき「よく聞く話だな」と思いました。

 筆者は女性の性体験やセックス観を取材することが多く、そのときに気持ちよくない、痛い、つらい、触れられるだけでイヤ……と打ち明ける女性はさほどめずらしくありません。

 この場合の最もシンプルな解決法は「セックスしない」です。それが理由で不仲、離婚へと発展することもありますが、セックスがないことでかえってライフパートナーとしてうまくいくこともあります。

 しかし同書の著者、Mioさんは痛い、つらい、したくないと夫にいっても伝わらず、「させてくれないと不機嫌になって当たり散らすぞ」という暗黙のプレッシャーをかけてくるため断ることもできませんでした。そんな毎日がMioさんの心身を蝕み、うつと摂食障害を患うことに……。

 これは「セックスがつらい妻の問題」ではなく「それを理解できない夫の問題」という側面が大きいのではないか?

 夫と離婚したあとは離婚業務に特化した行政書士、カウンセラとして活躍するMioさんと、男性学研究者である田中俊之さんとのクロストークにより、夫婦間のセックス、セックスレスに見る問題とその解決法を探ります。

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Mio
大阪府生まれ。大学で知り合った同級生の男性と二十二歳で結婚。夫との夫婦生活が苦痛で、自分はセックスができない身体なのではないかと悩み、摂食障害とうつ病に。その後セックスレスを理由に夫から離婚調停を申し立てられ別居を経て離婚。2017年の冬からアメブロに当時を振り返る手記を連載し、大きな話題を集める。現在は税理士・行政書士・カウンセラーとして、女性起業家のサポート・離婚業務を中心に活動している。

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田中俊之
大正大学心理社会学部人間科学科 准教授。内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員、厚生労働省イクメンプロジェクト推進委員会委員・渋谷区男女平等推進会議委員などを務める。著書に『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)『中年男ルネッサンス』(イースト・プレス)『男性学の新展開』(青弓社)など。

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田中:この本のタイトルを見たときに「こういう女性は多いだろう」と思いましたね。というのも、僕は大学生を対象に性についての聞き取り調査を実施したことがあるのですが、一番はメディア。次いで、友だちからです。

 性教育について聞くと、答えはばらばらです。先生が恥ずかしそうにしながら教科書を読んだだけ、ほとんどやらなかったというところもあれば、コンドームの着け方までしっかりならった、たまたま熱心な養護教諭がいたからいい教育を受けられたという人まで。

 前者に当たると、そりゃAVを筆頭に偏ったメディア情報に行かざるを得ないでしょう。友だちからの情報といいますが、その友だちもメディアから学んでいるわけで。

Mio:私の元夫も、そうだったと思います。AVの真似ごとのようなことを、よく要求されました。

 女性はさらに性について知る手立てがないと感じますね。私は行政書士やカウンセラーを仕事をとおして、クライエントの女性たちに性について何で知ったかと聞いています。「つき合った男性から」というのがいちばん多いです。彼と一緒にAVを観るとか。

 夫が初めての男性で、彼がAVと同じことをしようとする。でも女性はまったく気持ちよくない、AV女優さんみたいに感じることができない自分がおかしいのでは……と悩む女性もいます。愛しているのにセックスがイヤだということで、混乱してしまうんです。

田中:Mioさんは実際の女性からたくさんお話をうかがっていると思うので、僕は社会学的見地からお話ししましょう。

 ひとりの相手と出会い、結婚して、その人と生涯添い遂げるという“ロマンチックラブ”を信仰している人は少なくありませんが、そもそも愛ってとても不安定なものですよね。

 一目惚れのような瞬間的に燃え上がる愛は、パッションラブといいます。盲目的な情熱を体験したことのある人も少なくないですよね。そんなときは稚拙なセックスでも、盛り上がるものです。

 でも、それは長くはつづかない。生涯つづくことを目指すロマンチックラブと、一時的なパッションラブを混同していることで起きる問題が多いように思います。

Mio:私はふり返れば大学時代に交際がはじまったときから痛かったのに、「結婚すれば気持ちよくなるはず」となぜか思い込んでいたんですよね。

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