田中:愛とセックスが結びつくのは、恋愛結婚が一般的になる1970年代以降です。お見合い結婚が多かった時代は、そうではありませんでした。愛と結婚とセックスの三位一体が成立するようになったのは、せいぜいここ40年ぐらいのこと。
そうなった理由のひとつに、愛や性を結婚に封じ込めたほうが社会秩序を守りやすいという考えがあります。みんなが愛する人と結婚する、その家庭内でセックスすることで秩序が守られると考える人たちがいるわけですが、先ほどお話ししたとおり性も愛も不安定なものなので、無理があります。70年代、80年代からすでに、その結果としての家族の崩壊がドラマや映画でたくさん描かれています
Mio:女性はパッションラブが終わると、今度は子どもを育てるという現実を前にしてに、相手を人生のパートナーとみなしながら結婚という契約をしっかり守っていきましょうという考えにシフトするように感じます。私もセックスがつらかったのに別れなかった理由として、それがありました。でもそれって、男性にとっては窮屈みたいですね。
田中:そこで「俺が一生懸命働いて妻子を養っている」という意識になりがちですね。
いまの社会でいう“男らしさ”というのは、結局、競争に勝つことなんですよ。具体的には高校は進学校に行き、ランクの高い大学に行き、一流企業に就職すること。もちろんスポーツに秀でていてプロ選手になるなどの例外もありますが、そうでないかぎりはその後、会社員として立派になり、それがよき家庭人でもあるというモデルになっています。
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Mio:妻とのパートナーシップという考えは……?
田中:それよりも競争に勝つこと。勝てば多く稼げるようになるし、大黒柱としての強度が増す=いいお父さんになる、という発想です。だから多くの男性は、「俺は稼いでるから、家庭における責任も果たしている」となります。
これって、会社員のポイントカード1枚だけを持って、そこにポイントを貯めていくようなもの。地域のカードも育児関係のカードも趣味のカードもないから、定年後に居場所がなくなってしまうというのがひとつの典型です。急に地域のコミュニティに参加しても「元◯◯の専務だったんだが」と言い出してしまう。ヤマダ電機にビックカメラのポイントカードを持っていって、こんなにポイントあるから買わせろ、といっているようなものです。
といってもこれは男性ひとりひとりの問題ではなく、社会がそうさせてきたのです。

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Mio:私の両親はすごく仲がよくて、しかも自営業をしていたから、私は「お父さんだけが働く」というイメージをあまり持たずにきたのかもしれません。夫婦で助け合う姿を当たり前だと思っていたのが、逆に自分自身の結婚生活をがんじがらめにしていたのかも。
田中:自営だと、ふたりでひとつの事業を支えていくことになるので、養う/養われるという関係でなく運命共同体になりますよね。お金の出入りもよくわかります。夫婦仲が悪くなったらそれが壊れてしまうので、無理くりでも仲よくする(笑)。それが功を奏すことってあるんじゃないでしょうか。