「給料の高い配送の仕事だったはずが…」労働者を搾取する反社会的勢力

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「Getty Images」より

業務委託の抜け穴に目をつける反社会的勢力

 この連載では、委託・請負という労働形態の落とし穴について繰り返し説明してきた。

 委託・請負とは、会社に雇われる形で働くのではなく、個人自業主となって働く方法である。委託とは、業務委託の略称であり、企業から仕事の委託を受け、業務が終了するまで行うというものだ。

 請負についてはさらに条件が嚴しい。単に業務を終わらせるだけでなく、あらかじめ契約で交わしたノルマをこなした時にはじめて報酬がもらえるというものである。

 たとえば、ダイレクトメールを発送する業務があったとする。指定された顧客にダイレクトメールを全て送るだけで報酬が支払われるのが業務委託契約だ

 一方、請負契約は、送ったダイレクトメールの中で、広告を見てくれた人が購入した商品のうち、数パーセントかの利益を支払うといった契約である

 いずれにせよ、会社に雇われて働く場合と違って、仕事が終わるまで報酬が得られないという厳しい労働形態である。ただし、委託・請負とも勤務時間の強制がない。仕事を期日までに終わらせることができれば、自由に休みが取れるというメリットがある。

 しかも総じて会社勤めより高い報酬が提示されることが多いため、これに飛びつく人は少なくない。ここを狙い、反社会的勢力が委託・請負という労働形態の悪用に手を伸ばしはじめているのだ。

反社会的勢力の洗脳に等しい奴隷労働

 委託・請負労働に反社会的勢力が目をつけ始めたといっても、ピンとこない方が多いだろう。少し説明を加えたい。

 先に説明したように、委託・請負労働は、業務を全て終わらせてはじめて報酬が発生するというデメリットがあるものの、自由に働く時間を決めてよいというメリットもある。

 委託・請負で働く人を時間拘束して働かせることは、偽装請負と呼ばれており、違法行為として取締の対象となる。

 だが、反社会的勢力は巧妙な手口を考えている。

 もし、自ら進んで休まずに働いている形にされてしまうとしたらどうだろうか。そう、報酬が得られないまま、延々と働かなければならなくなるのだ。そして、高い報酬を提示して若者を集め、委託・請負の仕事を行うには、機械や車を借りないと契約できない形にするのである。

 あとはご想像通り。報酬がまったく支払われず、借金だけが増えていく。加えて、恫喝や暴力によって半ば洗脳された形で働かされることになる。

労働相談にアクセスしてきた悲痛な声

 私が、反社会的勢力が委託・請負契約を悪用しているのを知ったのは、労働組合で若い人の労働相談を担当していた時だった。メールでの匿名相談だったが、極めて悲痛な声に息を飲んだのを覚えている。

 相談内容の概略はこうだ。

「会社から車を借りて、荷物を宅配する仕事をやっている。ところが、いつまでたっても報酬が支払われない。しかも、車のガソリン代なども払ってもらえないので、消費者金融から借金をしている。また、辞めるなら、違約金を支払えと脅かされている。怖くて辞められないのだがどうしたらいいだろうか」

 当初はあまりにも定形的な内容なので、いたずらメールの可能性を考えた。そもそも、荷物の宅配のような公益性が高い現場で、恫喝されたりするというのは考えにくい。

 「もう少し詳しく話を聞きたいから、時間がある時に電話をください」という回答をしたのだが、すぐにメールが返ってきた。内容を見て、相談者の若者が、緊急事態にあることが分かった。

「携帯電話は料金が支払えなくて、止められてしまっています。街中の無料Wifiがある場所に出かけてメールしているんです。大変申し訳ないですけど、そちらから電話をしていただければつながりますので、お電話いただけないでしょうか」

 メールで届いた電話番号に慌てて電話すると、20代前半くらいの男性が出た。

「こんばんは。メール見たけど、どうしたの?」

「実は、ヤバい人に脅かされてるんです。荷物を預かって宅配する仕事をしてるんですけど、給料を払ってくれないし、車のガソリン代すら払ってもらえなくて。お金が全然なくなっていて、アパートも追い出されてしまっていて」

「ちょっと待って。順を追って聞かせてくれるかな?」

「求人雑誌で、荷物の配送の仕事を募集してたんで応募したんです。車を貸してくれるってことだったんで。僕にもできそうだし、給料高かったから短期間でお金を貯められそうだったんですけど、全然お金を払ってもらってないんです」

「アパートを追い出されたっていうのは、その仕事のせいだよね。ふだんはどうやって過ごしてるの?」

「車の中で寝泊りしています。というか、仕事が終わるまで帰らせてもらえないんで。そもそも、アパートがあっても帰る暇なんてない状態です。しかも荷物を夜の12時まで配り負えないと、違約金を取られるんですよ。それがどんどん増えていっていて、消費者金融から借金もしてるんですけど、もうすぐお金を借りられなくなります。そうなったら本当に終わりなんです」

 この時点では私はまだ、いわゆる手配師まがいの悪質な偽装請負を行う人材会社に引っかかったのではないかと考えていた。だが、実態はさらに悪質だった。反社会的勢力が裏で糸を引いていたのである。

憔悴した様子の青年

「携帯の電池は大丈夫? そっちに向かうから。連絡が取れなくなるから、そのままその場所を動かないで」

 メールをくれた青年は、東京にほど近い埼玉県の街で働いていた。最寄駅から歩きながら探したが、案外簡単に見つかった。宅配便などを配達するワゴン車が不自然な形で停まっていたからだ。

 礼儀正しい挨拶をするものの、相談してきた若者はひどく痩せていた。おそらく食事も睡眠も満足に取れない状態の中で働くことを強いられているのだろう。典型的な洗脳の手段だ。

 近くのファミリーレストランに移動して、彼に食事をとらせながら、ヒアリングを行った。

「今の働いてるところは、どうやって知ったの?」

「ネットの求人で見つけました。高収入やる気重視。休みを自由に決められるって書いてあったんで、面接に行ったんですよ。そしたら車は無料で貸してもらえるって説明されたんですね。だったら、僕にもできるんじゃないかと思って」

「それで、埼玉で働くことになったの?」

「いえ、社長が新宿の歌舞伎町にオフィスを持っているんで、東京近辺で働くことになると思っていたんですけど、名古屋に研修に行けって言われたんです」

「名古屋?」

「はい。研修といっても何もなくて。毎日配達だけです。名古屋へ行く時の交通費はもらったんですけど、食事代だとかガソリン代とか、車のレンタル料を引くとか言われて。会長って言われている人が名古屋の繁華街に住んでたんですけど、その人の家に住み込みさせられてました」

 「東京の歌舞伎町」「名古屋」このワードを聞いた時点で、私は、ある暴力団が関与していることを悟った。彼が契約書を持っているというので慌てて確認させてもらうことにしたが、やはり間違いがなかった。

 その時に撮影した契約書の写真が以下の通りである。相談者の安全を守るために、画像にぼかしをいれてあるが、その点はご容赦いただきたい。

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理不尽な雇用契約書

 相談してきた彼が「給料」といっていたから、雇用されて給料制で働くことを錯誤していた可能性もある。それは彼にも非があるかもしれないが、契約内容の条文を見て呆れてしまった。

 契約書の第15条には、報酬は委託料金の90パーセントと書いてあるが、その前の第14条-1では、「委託料金の設定は、甲が甲の顧客先から収受する金額をもとに甲が決定し、乙は意義を挟まない」とある。

 つまり、委託した会社が、「客からもらう配達の委託料金が変わったから」といえば、いくらでも報酬が切り下げられるわけである。一応、体裁が整った契約書だが、法律家ならここまで悪辣な契約書は作らないだろう。

 そもそも、どのような会社が委託業務を行っているのか。委託主の「甲」欄に署名されている名前を見て、思わず息を飲んだ。以前、歌舞伎町のホストクラブを経営していて、女性客を恫喝して逮捕された人物である。

 帝国データバンクの情報と、会社の登記簿を調べてみた。やはり相談してきた彼の証言は正しい。登記簿上の会社住所は、東京都新宿区歌舞伎町二丁目となっている。

 また、登記簿には会社代表の住所が記載されているが、やはり住所は東京都新宿区西新宿となっている。間違いなく同一人物である。

 つまり、この若者は、新宿・歌舞伎町を根城にする名古屋の暴力団のフロント企業に引っかかったということになる。こうなると、事態は一刻を争う。私は、まずはファミリーレストランの駐車場に車を放置して、私の自宅へ相談してきた彼をかくまうことにした。

(監修/山岸純)
(執筆/松沢直樹)

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