
12/25まで上演中
劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンタテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。
年が明けた今年、2020年は、東京オリンピック・パラリンピックの開催が控えています。世界中からの来日客を迎えるに際し、舞台の世界でもインバウンド需要を見越した取り組みが多種企画されていますが、その最たるものが、日本の誇る伝統芸能の歌舞伎。
昨年末には、同じく日本が誇るコンテンツ産業のアニメで世界的に評価の高いジブリ映画の代表作「風の谷のナウシカ」が新作歌舞伎として上演されました。
主人公ナウシカ役を務めた歌舞伎界の御曹司、尾上菊之助は、同時期に放送されていたTBS系ドラマ『グランメゾン東京』で木村拓哉演じる主人公のライバル役でも強い印象を残し、また、開幕直後に公演中の事故で骨折しながらも翌日には復帰し出演を強行したガッツでも話題になりました。
「ナウシカ歌舞伎」事故・役者のケガによる公演中断で、松竹の対応が残念すぎる
東京・新橋演舞場で今月6日から上演中の新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」。世界的に評価されハリウッドからのオファーも蹴ったという、スタジオジブリの同名映画…
歌舞伎の懐深さを示す「風の谷のナウシカ」
ハリウッドからの実写化の要望や舞台化のオファーをことごとく遠ざけてきたというジブリの舞台化があえての歌舞伎、というインパクトの大きさはもちろんですが、純粋に演目として、歌舞伎の底力を見せつけた非常にエポックメイキングな作品になっていました。すでに確立された伝統芸能も令和の時代に挑戦しつづけていると実感できるナウシカ歌舞伎を振り返ってみたいと思います。
ジブリ映画「風の谷のナウシカ」は、監督の宮崎駿自身による同名の長編漫画が原作です。映画制作時にはまだ漫画は連載中だったため、途中までを再構成して作られましたが、歌舞伎版は映画では描かれていない原作全7巻をすべて舞台化。
歌舞伎は通常、1日に2回昼の部と夜の部の公演が行われ別々の演目が上演されますが、ナウシカ歌舞伎では昼と夜を通して、約8時間の通し狂言(一本の物語)になっています。
「仮名手本忠臣蔵」や「菅原伝授手習鑑」など歌舞伎の古典として有名な作品なども本来は非常に長い物語で、そのうちの名場面だけを抜き出して公演されることも多いのですが、物語として楽しむならば(座りっぱなしでお尻は痛くなりますが)通し狂言の上演は観客としてうれしいものです。
昼の部は3幕に分かれており、映画で描かれていた部分は最初の「序幕」のみ。2幕め以降は映画には登場しない、トルメキアと敵対する土鬼(ドルク)諸侯国連合帝国との戦いと、そこに巻き込まれながら人類が生き残れる未来へと奔走するナウシカの葛藤が描かれていきます。