暴力と言葉の洗脳で「ハーレム」を築き、その罪を女性になすりつけた男

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「Getty Images」より

 筆者は2005年(平成17年)から、主に刑事裁判を見つめ続け、傍聴ライターとして稼働してきた。平成の終わりに、これまで傍聴してきた刑事裁判を紹介したが、令和二年の幕開けにも、すでに忘れられかけている過去の事件を振り返りたい。

【NHK地域スタッフによる傷害致死事件】

<2007〜2008年傍聴@東京地裁>

 2007年6月上旬、男と同居人の女が、同居していた前妻・志賀美穂さんを殺害してバラバラにした、と東京都竹ノ塚署に出頭した。

 男はNHK地域スタッフ志賀耕二(47=逮捕当時)、女はA(34=同)。のちに東京地裁で別々に行われたふたりの公判で、複数の女性たちを“洗脳”しての奇妙な同居生活や、過去の重大事件を手本にしようとした形跡が明らかになった。

 志賀は大学を中退したのち、北朝鮮籍の女性と結婚するが、すぐに離婚。1992年からNHKの委託業務を行い、翌年に美穂さんと結婚、さらにその翌年からOさんと不倫をはじめ、ほどなくしてOさんに暴力をふるうようになる。のちに、立ち寄った居酒屋で働いていたAとも親しい仲に。ふたりで接骨院を開業した。

 2000年、事件の現場となった家を購入したが、接骨院の経営に行き詰まったため、自分は役員となり、NHK集金業務との二足のわらじを履く生活を続けていた。美穂さんとの間には2人の子をもうけるも、2002年に離婚。その2日後に別の中国人女性と再々婚する。だが美穂さんとは、その後も同居を続けていた。

 接骨院はのちに辞めることとなったが、自宅には自分の両親と美穂さんとの子供だけでなく、AやOさんも住まわせ、志賀は、当時の妻の家と自宅とを行き来していた。

 前妻、そしてA、さらに愛人Oさんとの奇妙な同居生活、そして新しい妻宅への通い婚を続けていた志賀については、当時の報道でも「ハーレム状態」など報じられている。そんな状況下で、同居直後からAに対して志賀による洗脳が始まる。

「前世からの因縁で殺した」と説き伏せ

 まず志賀はAに法華経を読ませ「お前らは俺が死体置き場から拾ってきたんだ」「俺は王様だ」など奇想天外な自己流の教えを説くようになる。暴力も加わり、精神的にも肉体的にもAは志賀の奴隷となっていった。

 Aにだけではなく、美穂さんにも日頃から暴力を振るっていた志賀は、事件の日、美穂さんが自分を起こさなかったことに立腹。殴る蹴るの暴行を加え、その結果死亡させた。

 志賀はAを主犯にしようと思い立ち、再び奇想天外な“前世の因縁”を持ち出し始める。

「美穂とお前は前世からの因縁がある。前世では美穂がお前を殺した。今回はお前が裏でやったんだ。裏の出来事が強いから裏で処理しなければいけない」

 これは志賀による遠回しな証拠隠滅の指示だった。Aに遺体の処理を強要、2人で美穂さんの遺体をバラバラにした。

 志賀は『北九州連続監禁殺害事件』をヒントにし、完全犯罪を目論む。美穂さんの肉をミキサーにかけ、下水に流す計画を立てた志賀は、ラブホテルで作業の続きを行おうとしていた。ところが自分の車の車検が切れていたと思い出し「これじゃ検問につかまる」と遺体を持ち出すことを断念。数日間遺体とともに暮らしたが精神的に疲弊し、自首に至った。

洗脳され「志賀の言う事が第一」に

 ハーレム状態の生活を続けていたと当時大きく報じられていたが、法廷で見た志賀は、様々な色で編み上げられたセーターを着込み、紺色のスラックスを履く小太りの中年男性だった。

 志賀は美穂さんに対する傷害致死、死体損壊のほか、もう一人の愛人・Oさんに対する傷害罪でも起訴されていた。ところが傷害致死のみ否認する。

「最終的に、志賀美穂が死んだのは、私の傷害(の影響)とは違うと思っています。頭に対して叩いたり、ぶったりはない。はげしく揺する感じ……。自分のした暴行で死亡させたのではないという趣旨です」

 堂々とこう述べる志賀。彼の弁護人はさらに踏み込んで「Aの行為が介在するのではないかという疑念を抱いております」と、“法華経で支配下においていた”Aが、これらの犯行を行ったという旨の主張を行った。 

 さて、傷害の被害者Oさんの調書から、志賀が女性を操るために、洗脳と暴力のほか、違法薬物を用いたセックスを行っていたことも明かされた。そして、これに“被害妄想”めいた思考が加わり、最悪の事態を招く。以下はOさんの調書からの引用だ。

「耕二とは中学生からの知り合いで、愛人になった翌年くらいから、ささいなことで怒って暴力をふるうようになり、2005年頃から、セックス前やセックスの時に覚せい剤を使うようになりました。

 浮気を疑われるようにもなり、耕二が心臓発作で入院し、退院後にセックスをしていたら、『お前はセックスの時間を延ばしてオレを殺そうとしているだろう』と言われました。そのうち家から出してもらえなくなりました。

 5月に電話がかかり、耕二の父親の家に呼び出されました。美穂さん、Aさん、私とで耕二を出迎えると、誰とホテルに行ったか書けと言われました。行ってないので書けない、というと、いいかげんにしろよ、と言われ、左目付近を強く蹴られました。お腹も蹴られ、顎も蹴り上げられました。『殺しちゃおうよ』と言われました。

 そのうちデイサービスの人が来たのでその隙に逃げ、ファミレスの店員に警察を呼ぶよう頼みましたが、耕二が追いかけて来て連れ戻そうとされたところ、警察が来ました。私の事を『サタンの娘』だと言ってましたが、耕二こそ悪魔のような人間です。『お前はヤマンバだ。オレが念じればお前を殺す事は簡単なんだ』といつも言われ、そう思い込むようになりました」(Oさんの調書)

 美穂さんへ暴行をふるったことについて、志賀自身も調書でこう述べる。

「私を起こさなかった事に腹を立てたことがきっかけです。美穂が浮気をしているのではないかと疑い、美穂の浮気相手が、美穂から、私がSMや女装好きなことが知られたのではないかと思い、それで首になったのではないかと思って追及した。一度は認めたが、また否定するのでさらに追及した」

 どうやら志賀は、美穂さんが浮気をしており、その浮気相手に志賀の性癖や覚せい剤使用について“密告”しているために自分は接骨院をクビになった……と思い込んでいたようだ。そうして激しい暴力を振るい美穂さんを死なせてしまうが、洗脳済みのAに、自分の罪をなすりつけようと目論む。志賀の公判に出廷したAが明かした。

「志賀から、裏で、私が美穂さんを殺したと告げられました。『裏』というのは、現在ではなくて、前世での因縁、輪廻……因縁のもので、美穂さんと私は敵同士で、ずっときてる、ってこと、言ってました。ずっと、因縁関係のことを言われて、『裏ではお前が殺したんだ』と、色々なことを話しながら、告げられて、常日頃、志賀の言う事が第一で、受け入れなければいけないという私なりの構造ができあがってて、それをきちんと認めなきゃと思い、自首しました」

 実はこの様子は志賀により録音されており「やりました」という趣旨の音声が記録されていた。そのため、Aは「(逮捕当初は)自分が殺したって言えばいいと、自暴自棄になった時期もありました」と振り返る。しかし思い直し、取り調べでこの録音された会話がどのようになされたものかを告白したのだという。

 志賀の洗脳めいた行為は認定され、「志賀に時に暴力をふるわれ、つけこまれる形で犯罪を持ちかけられた従属的立場であった」と、Aには懲役1年6月、執行猶予3年が言い渡された。

 すべてをAの仕業にしようと目論んだ志賀は、法廷でも「Aが美穂を殴った。彼女は私の事を憎んでたからです」と繰り返していたが「被告人の主張は到底信用できず、被告人の暴行により美穂さんが死んだと考えざるを得ない」として、のちに懲役10年の判決が言い渡されている。

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