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週末プチ移住に憧れる若者と、田舎暮らしを断念する中高年

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「Getty Images」より

 このところ、複数の拠点を渡り歩く「多拠点生活」について耳にする機会が増えている。週末だけ田舎に行くという「週末プチ移住」も、多拠点生活のひとつといってよいだろう。

 場所が変わるとよい刺激になるし、各地域の良いところをうまくミックスした生活が可能となる。ただ、場所を移動するというのは想像以上に負荷がかかるものであり、かなりのバイタリティがないと、そのメリットを生かせないことも多い。多拠点生活に向く人と向かない人ははっきり分かれそうだ。

多拠点生活といってもやり方はさまざま

 ひとくちに多拠点生活といっても、そのやり方はさまざまである。もっとも先鋭的な人の場合には、特定の住所を持たず、各地のシェアハウスなどを転々としながら生活するという、いわゆる「アドレスホッパー」になっている。だが現実的には、住民票を頻繁に変更するとさまざまな問題が発生するし、何より完全にフリーランスの立場でなければ、住所が特定されていないことは仕事に差し支えるだろう。

 多くの人がイメージしている多拠点生活とは、都市部に通常の拠点を構え、郊外や田舎などに別の拠点を持ち、状況に応じて移動するというものだろう。とりあえず本拠地が一カ所決まっていれば、仕事上の制約もかなり緩くなる。毎日出社しなければならないサラリーマンの場合には無理だろうが、ある程度、自由がきく仕事であれば、日程をうまく調整しながら、週の半分を田舎で、週の半分を都会でといった暮らしをするのは不可能ではない。

 毎日定時の出社が求められている大半のサラリーマンにとっては、週末プチ移住といったあたりが現実的だろう。週末は田舎の家で過ごし、リフレッシュして職場に戻れば、仕事の効率も上がるかもしれない。ここからもう一歩踏み込めば、逆に田舎を拠点にするというやり方も見えてくる。

 田舎の家を基本拠点とし、平日は職場の近くのゲストハウスなどに泊まって過ごす。移動は週末だけになるので、通勤ラッシュとも無縁になるし、田舎の家は家賃も安いので、それほど大きな経済的負担にはならない。その場所が気に入れば、本格的な移住を視野に入れるというのもアリだろう。

家のメンテナンスの負荷は大きい

 だが現実には多拠点生活、あるいは週末プチ移住を実現するのは簡単ではない。場所が変化することによる肉体的、精神的負荷はかなりの水準であり、継続するには相当なバイタリティが必要となるからだ。

 都市部と田舎に2つの家を構えた場合、掃除や修理といった家のメンテナンス負荷は単純計算で2倍になる。1980年代、バブル経済の進展とともに別荘ブームになったことがある。かつて別荘を持つのは富裕層の特権だったが、リゾート地などに庶民向けの安価な別荘がたくさん建設され、バブル期には週末を別荘で過ごそうと多くの人が購入に走った。

 ところが現実は甘くなかった。

 1週間ごとの利用であっても、その間は窓を閉め切っているので、別荘に到着すると、まずは窓を開けて空気を入れ換え、水やガスなどが問題なく使えるかチェックし、ある程度の掃除をしなければならない。忙しくなり、1カ月程度期間が空いた場合には、さらにその掃除の負荷が大きくなる。

 夏になると、家の周辺にはすさまじい量の雑草が生えるので草刈りという重労働も待っている。冬には積雪で屋根が壊れるといったトラブルも発生するので、こうした事態への対処も必要だ。

 ようやく掃除が終わると、土曜日の半分は使い果たしており、すぐに夜の食事を準備しなければならない。その夜は食事を楽しめるかもしれないが、翌日は帰宅に備えてキッチンなどを掃除する必要に迫られる。毎日、生活しているのであればそこまでやらなくてもよいだろうが、最低でも1週間、家を空けるとなると、何もせずに帰るわけにはいかない。結局、ヘトヘトになって日曜日の午前中に掃除をし、午後に都市の家に戻る。

 毎週末、この繰り返しということになると、掃除をするために別荘に行くようなものだ。この負荷に耐えられず、別荘を手放した人が多いというのが現実であり、その結果、多くの庶民向け別荘地の不動産価格は暴落した。掃除や移動も含めて、すべてに対してアグレッシブに楽しめる人でなければ、こうした生活を満喫するのは難しいだろう。

田舎暮らしを望む人の年齢構成が変化している理由

 田舎を拠点にして平日を都会で過ごすパターンであれば、状況は変わってくるが、家族構成によっては似たような結果になる。

 単身者や専業主婦(最近はほとんどいないと思われるが)、どちらかがフリーランスで家にいられるという状態であればよいが、夫婦共に都市部での出勤が必要という場合には、田舎の家は基本的に誰もいない状態になる。子どもができた場合には、子育てをどうするのかという問題も発生するだろう。

 国土交通省の調査によると、20代の4人に1人、それ以外の年齢層の6人に1人が地方移住について関心を持っているという。近年、顕著な傾向としては、地方移住に関心を持つ人の年齢層が若くなっていることである。

 地方移住を支援している、ふるさと回帰支援センター利用者の年齢構成は、2008年には50代が27.9%、60代が35.1%と圧倒的に中高年が多かったが、2017年では20代が21.4%、30代が28.9%と若年層と高齢者が完全に入れ替わっている。

 移住に関心を持つ層が定期的に入れ替わること自体は不思議なことではない。その理由は、昭和の時代からずっと、多拠点生活がブームとなり、一部の人が実施するものの、マスには拡大せずブームが終わるというサイクルを繰り返しているからである。

 10年前に高齢者が移住に関心を持ったのは、会社での仕事にそろそろ限界が見え始め、田舎での生活に生き甲斐を見いだそうとしたことが理由と考えられる。だが40代、50代のうちはよいのだが、60代が近づいてくると、体力的な問題が一気に現実化し、一部の人は慢性疾患を抱え、日常的に病院にお世話になる。高齢ドライバーによる事故も社会問題化しており、自動運転システムが普及するまでは、いつまでクルマに乗れるのかも分からない。

 また50代に入ると自身の親の介護を迫られる人も多く、両親と離れて暮らしている場合には、都市部に住んでいないと、すぐに実家に移動できないといった問題も発生する。現実的な課題が山のように押し寄せ、その結果、多くの人が田舎暮らしを断念した可能性が高い。

バイタリティがある人にとっては最高のライフスタイル

 一方、若年層は、賃金が大きく低下しており、生活が苦しいという人が増えている。日本の企業社会は停滞が続いており、多くの会社員が仕事に対してやりがいを見いだせずにいる。こうした状況下では、思い切って田舎に移住し、地に足がついた生活をしたいと考える人が増えても不思議ではない。

 ただ、この動きは今の時代に特徴的なものであるとは認識しないほうがよい。1980年代には、先ほどの別荘ブームに加え、いわゆる田舎暮らしを求める動きもあった。何らかの理由で現状の生活に疑問を持ち、拠点を変えようと試みるのは、すべての時代に共通していると考えた方がよいだろう。

 過去もそうだったが、多拠点生活に向く人と向かない人は、ハッキリと分かれる。

 体力や気力に自信があり、拠点が複数になることの負荷を楽しみながらこなせる人にとっては絶好のライフスタイルとなる。だが、バイタリティがなく、現状に対する不満から生活を変えたいと考えているだけという場合には、少し慎重になったほうがよい。

 料理や掃除、DIYなどの各種工作、ガーデニング、車いじりなど、家のことに取り組むのが好きかどうかは有力な試金石である。これらのいずれかが好きであればよいが、そうでない場合には、一度、落ち着いて考え直したほうがよいかもしれない。

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