「新型痴漢」の誤解 いきなり悪意を向けられる痴漢被害の恐怖は伝わっているか?

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「Getty Images」より

 1月7日放送の『グッとラック!』(TBS系)で「新型痴漢」について取り上げていた。

・匂いを嗅ぐ
・息を吹きかける
・直接は触らないがカバンを押し当てる
・エアドロップでわいせつ画像を送りつける

 こうした行為を「新型痴漢」と呼び、犯罪行為にあたる可能性を指摘した番組内容に、SNSでは「女次第で痴漢にされてしまう!」「これじゃ満員電車に乗れない」などという憤りや不満の声が溢れた。

 今回が初めてではない。一昨年の春、深夜番組『じっくり聞いタロウ』(テレビ東京系)に元埼玉県警鉄道警察隊長が出演し、「新型痴漢」を取り上げた際も同様の否定的な反応はあった。

 「新型痴漢」という名称や、上記のような痴漢行為の紹介の仕方が、痴漢認定の領域を一方的に拡大しているように見え、「こんなちょっとしたことでも、痴漢呼ばわりするなんて!?」という印象を与えてしまっているのかもしれない。

 痴漢被害の実情は広く誤って認識されている可能性がある。つまり、「ちょっとしたこと」や「不可抗力」なのに、「女の気持ち次第で男を犯罪者に仕立てあげることができる」と。

 しかし実際には、痴漢被害者の恐怖や苦痛は、決して「ちょっとしたこと」で生じているものではない。偶然に顔が近づいてしまっただけ、鼻息が荒いだけ、満員電車ゆえに体や手荷物が密着してしまっただけ、という状況ではないからこそ問題化しているのだ。

 「女のさじ加減で男が犯罪者にされる時代か」などと嘆く声が溢れる同じTwitterで、痴漢被害を捉えた動画もまた拡散されている。それを見れば、「ちょっとしたこと」とはとても言えない。

 その動画は電車内ではなく駅構内のエスカレーターで撮られたもののようだ。男が近すぎる距離で女性の後ろを尾いていき、エスカレーターに乗ると女性の長い髪に鼻をうずめるようにして匂いを嗅いでいる。明らかに故意で、周囲も異常性に気がつくレベルだ。

 筑波大学人間系教授で、臨床心理学と犯罪心理学を専門とする原田隆之さんは著書『痴漢外来-性犯罪と闘う科学』(ちくま新書)において、性犯罪の予防と再犯抑制のための分析と対策を綴っている。その中に、性犯罪被害者の現実を扱う章がある。

 痴漢被害はとりわけ軽く考えられがちである。しかし程度の差こそあれど、「自分がそのターゲットにされた」という恐怖は大きい。抵抗が不可能になるほどの恐怖やパニックがそこにある。

 同書にはスカートを切られた女性を例に、「スカートが切られていたということは、加害者は刃物を手にしていたということだ。日常の通勤途中に、見知らぬ誰かから、このような悪意に満ちた攻撃を向けられるとは想像もできないことだ」とあるが、まさにそうだ。

 痴漢は満員電車でのみ起こる犯罪ではない。車内は空いているのに、至近距離に陣取られて避けても執拗に追いかけられ執着される恐怖。電車という公共の場でインモラルな行動を取る相手にターゲットにされている恐怖。そうした状況を、想像してみてほしい。

 「息をしただけで痴漢呼ばわりされる」わけでも、「ちょっとカバンが触れただけで逮捕される」わけでもない。それでも「新型痴漢なんて言いがかりだ」「痴漢より冤罪が問題」と言えるだろうか。

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