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ディズニー嫌いが知れ渡ってしまっている私ですが、今回は私がけっこう好きなディズニープリンセス映画について書きたいと思います。ケヴィン・リマ監督、エイミー・アダムズ主演で2007年に作られた『魔法にかけられて』です。
この映画は本格的なディズニープリンセス映画としては初めて実写(一部はアニメ)で作られたものです。プリンセスであるジゼルがデフォルメされたアニメの世界を飛び出し、ごみごみした実写のニューヨークを動き回るというヴィジュアルだけでもかなりの新しい作品でした。ディズニーの過去のプリンセス映画のパロディや、それまでの伝統的なプロットを裏返した展開がたくさんあり、革新的な作品だと言われています。
こういう過去の古典を研究し尽くした作品というのは、オタク心をくすぐるところが多いにあります。古典をふまえた上でひっくり返すというのは個人的には私の趣味にピッタリで、『魔法にかけられて』には2007年時点では相当に新しいと思われるような試みがたくさんあり、今見てもいろいろ魅力のある作品です。
しかしながらチャーミングである一方、ディズニー映画としての限界もある……ということで、この映画の独創的で面白いところと昔ながらのところを指摘していきたいと思います。
なお、これ以降はネタバレがたくさんありますので、『魔法にかけられて』を見ていない方はできるだけ見てから読んでくださいね。
プリンセスと意地悪な女王のラブライフ
『魔法にかけられて』は、アニメの王国アンダレーシアに住む純朴で愛らしいヒロインのジゼルが、悪い女王ナリッサ(スーザン・サランドン)の陰謀で実写のニューヨークに送り出されてしまうところから始まります。
ナリッサは継子エドワード王子(ジェームズ・マースデン)がジゼルと結婚すると自らの王位が揺らぐので、結婚を阻止するつもりです。ジゼルはニューヨークで離婚弁護士のロバート(パトリック・デンプシー)と出会い、だんだんお互いに好意を抱くようになります。
まずこの作品で面白いのは、『白雪姫』や『シンデレラ』に比べるとルッキズムの要素が薄まっているというところです。この作品に出てくる主要な女性登場人物たちは、それぞれ魅力がありますが典型的な美人というわけではありません。また、女性が他の女性の美貌に嫉妬して嫌がらせをするというような要素がなくなっています。
ジゼルを演じるエイミー・アダムズはチャーミングですが、出演当時32歳で、見た目はかなり大人の女性なのに言動がいちいちアニメのお姫さまらしく破天荒だというギャップがあり、理想化された美人ではありません。
ジゼルはニューヨークで人々の信頼を獲得し、仕事も得て、最後は悪役にとらえられたロバートを救います。最初に恋をしたエドワード王子が運命の人ではなく、本当にジゼルにふさわしいのは二人目の恋人ロバートだった……という展開は、一目惚れで最初の恋人とくっつく展開が多いディズニープリンセス映画としてはなかなか攻めていますし、お姫様が男性の恋人を救いに行くというのもこの頃としては斬新でした。ジゼルは美貌よりもセンスや機転で勝負するタイプのプリンセスなのです。
悪い女王ナリッサを演じているのはスーザン・サランドンで、こちらも美女というわけではないのですが、カリスマと成熟した妖艶さがある大人の女性です(それ以前のディズニーヴィランだと『リトル・マーメイド』(1989)のアースラに近いでしょう)。
ナリッサは白雪姫の女王とは違って自分のゴージャスさに自信があり、小娘っぽいジゼルの容姿などは眼中にないようです。ひたすら自分の王位を確固たるものにしたいという権力欲でジゼルとエドワードを妨害します。
このナリッサの自信には、部下であるナサニエル(ティモシー・スポール)が自分に惚れているということが原因のひとつとしてあります。ナサニエルは古典的な悪役描写をいろいろとひっくり返すような面白い存在です。高圧的な女性上司に夢中で悪質な職務命令に逆らえなくなっており、どう見ても不適切な職場恋愛に悩んでいる、という大人の共感を呼びそうなキャラで、子供向けのディズニーファンタジーよりはちょっとブラックなロマンティックコメディに出てきてもおかしくないような人物です。
ナサニエルがニューヨークでこっそりラジオの恋愛相談番組にナリッサのことを相談する展開は大変笑えます。ナリッサが打ち倒されたおかげでナサニエルは自分にふさわしくない相手を愛するつらい生活から抜け出すことができ、回顧録を書いて人気作家になるのですが、恋愛依存や封建的な忠誠、生きがい搾取的なひどい職場から抜け出せたナサニエルはラストシーンですごく晴れやかな顔をしています。おそらく、この映画で一番それまでの人生から爽やかに解放された登場人物がナサニエルです。
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