日本の幸福度は下がり続けている 「幸せ」感じられない相対的貧困

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「GettyImages」より

 日本は不名誉なことに、幸福度の低い国として知られている。

 国連の発表する国別の幸福度ランキング(世界幸福度報告)では2019年58位と過去最低を記録。2012年は44位だったが、2017年の51位から3年連続で順位は降下中だ。

 このような状況を受け、近年の研究では「自尊心」であったり、「自己肯定感」であったり、個人の考え方を変えれば幸せになれるかのような議論が進められている。

 ほとんどの日本人は義務教育を受け、食べ物はそこらじゅうで売られており、困窮しても最低限の生活を国が保障することになっている。けれども私たちが幸せだと思えない理由を考えたとき、やはり一番に浮かぶのはお金の問題ではないだろうか。

 お金があれば、やりたいことができる。ほしいものを買って、おいしいものを食べて、行きたいところに行く。そんな生活ができれば幸福に決まっている、と多くの人が思うはずだ。

 そこで疑問なのは、「貧困は不幸なのか」ということだ。

日本では相対的貧困が問題

 そもそも、どの程度お金があれば「お金がある」ことになるのだろう。「貧困」というのも、なんだか曖昧な表現だ。 

 貧困は2種類に分けられる。枯れた大地で食料に苦しむような「絶対的貧困」、金銭的な余裕がなく毎日に追われるような「相対的貧困」。日本で問題視されているのは、後者の「相対的貧困」だ。

 「相対的貧困」の定義は、所得の中央値の半分以下にあたる世帯である。とりわけ子どもの貧困率が高く、厚生労働省が2016年に行った調査では、18歳未満の子どもの13.9%が相対的貧困といわれている。

 では、相対的貧困の何が悪いというのだろう。そもそも相対的貧困の最初の概念は、「剥奪」だった。タウンゼントというイギリスの社会学者は、社会で普通に手に入れられること、一般に経験される社会活動や社会関係に参加できないことを「相対的剥奪」という言葉を用いて述べた。

 日本でも剥奪に着目した調査が実施された。世田谷区での調査でわかったのは、スマホの普及や最新ゲームの所持は、貧困には関係ないということ。

 そして、貧困によって家族との時間や部活動の時間など、人とのかかわりが犠牲になっているということ。つまり貧困は、社会とつながる機会を奪ってしまうのだ。

 精神科医で心理学者のアドラーは、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」という。それが真実かはさておき、そんなことがいわれるような世の中で、社会とのつながりが薄れることの重要性を考えてほしい。いうなれば、トランプの7並べで4~10をひとつも持っていないみたいなものだ。誰かが優しく札を出してくれないと、先には進めない。手札によって見える世界が違うのは、ご承知の通りというわけだ。貧困の中で幸福になるためには、人と関わり、手を差し伸べあう機会が必要だといえる。

アメリカの心理学者による「The All Stars Project」

 アメリカで行われている面白い取り組みがある。その名も「The All Stars Project(ASP)」。5歳から25歳の若者がヒップホップのタレントショーを行う「The All Stars Talent Show Network (ASTSN)」がメインの活動だ。

 なにが面白いかというと、オーディションを受けた「全員」がステージに上がるということ。まさに機会の提供といえるだろう。

 このプロジェクトの目的は、パフォーマンスの力で若者や貧しい地域の生活を変えること。ASPは、街の中にいる若者とその家族の生活を豊かにするための、ひとつの成功体験を作る非営利団体だ。

 冒頭でも書いたように、最近の研究では「自尊心」や「肯定感」が足りないと幸せになれないと言われている。これだけみると「幸せな環境にいるのに満足できないお前が悪い」みたいな印象を受けるが、決してそうじゃない。幸せを幸せだと言える、認められる勇気がないだけなのだ。

 幸せだと言える環境が整っていないことは、その個人ではなく社会に責任がある。じゃあ、思い出せば勇気が出るような体験をしてみないか、と立ち上がったのが、2人の心理学者だった。

 一人はフレデリック・デラノ・ニューマン博士。心理セラピストであり、哲学者であり、劇作家でもあったこのひとは、ソーシャル・セラピーの創始者でもある。

 彼は、苦しみの原因は、そのひとの社会的な経験とそれをどう理解するかの関係であるという。簡単にいうと、社会と本人の考えが違うと苦しくなるよね、ということ。そこで、青少年プログラムで知られるレノラ・フラニ博士とともに、受容的な社会コミュニティの開発としてこのプロジェクトを始めた。

 ここに参加する多くの若者は、人生で初めて成功という体験をする。そして、家族、地域の人、ボランティアや寄付者など、多くの人に応援される体験も得る。

 このイベント自体が支え合えるコミュニティを作り、参加した若者は「挑戦」や「可能性」、「自分を気にかけてもらう」ことを知る。つまり、人に支えられ、そして次世代を支えるという人との関わりを作っているのだ。そういった取り組みの積み重ねで、ASPは貧困層と中間層の格差を埋めようとしている。

 アメリカには民間企業の寄付などに支えられた大規模なプロジェクトがあることが魅力だ。日本では、一つひとつの課題に小さなNPO法人がある、というケースが多い。日本で幸せになりたいと機会やつながりを求める場合、規模が小さい分、自分から情報を獲得していく必要がある。

 貧困によって社会とのつながりが薄くなっていると自覚することがまず第一歩、さらにインターネットでも窓口でもいい、どこかに相談することでやっと歩き始めることができる。日本で幸せになるために意図的に機会を作るのは決して不可能ではないが、ハードルが高い。

これからの日本と幸福度

 幸福を考えるとき、貧困はひとつのキーワードである。貧困は不幸と関係しているし、貧困は世代を超えて悪循環を起こしてしまう。貧困家庭に育った子がお金に困ったまま子育てをすることで、また幸せになる機会に触れられないまま子どもが育ってしまうという負の連鎖がある。もちろん全員ではないそれが、日本の幸福度が向上しない要因のひとつであると考えれる。

 内閣府で2010年から行われていた「幸福度に関する研究会」は、2012年9月に行われた第7回以降、開催されていない。子育てや教育、地域づくり、そして貧困という議論の続く問題にも関係する「人の関わりと幸福」ついて、今一度議論する必要があるのではないだろうか。

 

松本雪

得意科目は心理学。幸福感や地域づくりに関心があります。好きな食べ物は鶏そぼろ丼。

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