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2024年に新紙幣が発行されるのはなぜ? 偽造防止、特需狙い…

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「GettyImages」より

 昨年4月9日の記者会見で、麻生太郎財務相が2024年度の上半期を目処に新紙幣を発行することを発表した。

 すでに新紙幣のデザインも発表され、1万円札には渋沢栄一、5千円札には津田梅子、そして千円札には北里柴三郎が使われることも話題になった。500円硬貨も偽造防止を目的に素材が変わり、二色三層構造となり、こちらは2021年度の上期の発行が見込まれている。

 なぜ今、新紙幣の発行なのか。あちこちで飛び交ったさまざまな憶測をまとめてみたい。

政府は偽造防止と言っているが…

 新紙幣の発行について、政府は偽造防止が理由であると述べている。ただ日本では偽札が少ないといわれており、警察庁の発表でも2018年の偽造銀行券は1,698枚だ(『偽造通貨の発見枚数-警察庁』より)。この枚数がかなり少ないことは、海外と比べればわかる。

 やや古いがCNBCの2015年9月3日の記事によれば、世界のドル紙幣の1億4700万ドルが偽札だという。仮にすべてが最も偽札が多いと言われている100ドル紙幣だとすれば、147万枚となる(『Can you find the forgery?』より)。また、欧州中央銀行の発表によれば、2015年の上期と下期に見つかったユーロの偽札は各45万4,000枚と44万5,000枚で、通年で89万9,000枚だったとしている(『Euro banknote counterfeiting declines slightly in second half of 2015』より)。

 さらに、「THE WALL STREET JOURNAL」の2015年8月10日の記事によれば、中国の元は2014年に5億3200万元の偽札を中国警察が押収している。偽札が多いとされる100元札に換算すれば、532万枚となる(『China Unveils New 100-Yuan Note in Bid to Stop Counterfeiters – China Real Time Report – WSJ』)。まるで桁が違うのだ。そのことから、巷では日本の今回の新札発行の理由が偽造防止というのは嘘ではないかと疑われているほどである。

 しかし、嘘とも言い切れない。麻生財務相は、紙幣は偽造防止のためにおおむね20年ごとに刷新していると言っているが、確かに1984年、2004年、そして次回は2024年だ。日本の紙幣は偽札を作るほうが割に合わないコストがかかるといわれるほどの精巧さを誇っているが、それに加えてこの頻度で刷新していることが、確かに偽造防止に貢献しているのだと思える。

 それでは、偽造防止という理由を疑っている人たちは、他にどのような理由があると考えているのだろうか。

新札発行特需狙いか?

 偽造防止以外の理由として多く取り上げられているのが、新札発行特需による景気対策だ。この根拠として引き合いに出されているのが2019年4月10日に衆院財務金融委員会で財務省が民間による試算として示した「日本自動販売システム機械工業会」である(『新紙幣・500円硬貨、改修需要1兆2600億円 ATMなど:日本経済新聞』より)。

 この試算では、ATMや自動販売機などの改修で、新紙幣への対応に7700億円、新500円硬貨への対応で4900億円、合計1兆2600億円の需要が見込まれるという。ただ、財務相はこの引き合いを出しながらも、新札発行の理由はあくまで偽造防止であると言っている。

 この前日の4月9日には、第一生命経済研究所も『新紙幣・硬貨発行で期待される特需』というレポートを公開している。このレポートによれば、新紙幣と新硬貨の発行による特需は1.3兆円と、日本自動販売システム機械工業会と似たような予測額を試算している。内訳は、新紙幣・硬貨の発行コスト6,114億円、ATMなどの回収・買い換えコスト3,709億円、自動販売機の改修・買い換えコスト6,064億円となっている。

 一方、2019年12月20日に閣議決定した2020年度の一般会計の歳出総額は102兆6580億円だ。つまり、新札・硬貨発行特需は、そのわずか1.2%である。もちろん、マイナスより良いのだが、あえてこの効果を狙っているようにも思えない。しかも、キャッシュレス化やコストダウンのため、逆に銀行はATMを一気に減らす機会と捉えるかもしれないのだ。

新時代到来の印象操作?

 いやいや、特需の期待も含めた印象操作だという意見もある。つまり、デフレ脱却を謳いながら、増税や規制緩和といったデフレ悪化政策を取ってきた政権が、人気回復のために新札発行をぶち上げたというのだ。確かに、前回2004年の新札発行発表は2002年と2年前だったが、今回は5年も前に発表しているのだ。

 今回の発表は、天皇即位と改元の祝賀ムードに便乗した人気取りだともいわれる。これに対し、麻生財務相は「たまたま改元とあわさった」と答えている(『紙幣刷新「たまたま改元と重なった」麻生財務相:日本経済新聞』より)。しかし、やはり発表が5年前とは早すぎることから、偽造防止サイクルはその通りなのだろうが、発表は人気取りのために急いだと思われても仕方がない。

タンス預金を動かしたい?

 政府の目的は印象操作ではなく、デフレで国民が消費を減らして貯め込んでいるタンス預金をはき出させることだ、という意見もある。

 しかし、それはどうだろうか。というのも、別に新札が発行されても、旧札が使えなくなることはない。

 実際、今でも聖徳太子のお札は使える。不安な人は、日本銀行のサイト『その他有効な銀行券・貨幣 : 日本銀行 Bank of Japan』をご覧いただきたい。ただ、このサイトをわざわざ確認する人もいないだろうし、ATMや自動販売機はどうなのか、という不安もある。特に高齢者の方々には、漠然と「そのうち旧札が使えなくなるかもしれない」という気持ちを起こさせる効果はあるかもしれない。

 しかも、前回の新札発行の際には、確かにタンス預金が減った(動いた)とされている。

 第一生命経済研究所が2019年4月10日に発表した調査によれば、現在のタンス預金は50兆円にも積み上がっているという。そして、この一部は、次回新札発行時に動くと予想している。それは、前回2004年の新札発行時にタンス預金が3%程減ったからだ。そのことから次回も50兆円の3%である1.5兆円が金や外貨投資に流れるとみているのだ(『新札発行でタンス預金も踊るか』(作品社)より)。

 実際には2024年のタンス預金は(相変わらずのデフレで)より増加しているだろうから、シフトする金額はさらに大きいのかもしれない。となれば、特需と同じ規模のお金が動くことになる。

結局、どうなのか

 以上、新札発行の理由に関する憶測を見てきた。新札発行特需は起きるだろうが、景気回復には力不足のようだし、タンス預金を吐き出させる効果も今ひとつぱっとしない。それに、現在よりもキャッシュレス化が進めば、特需やタンス預金による景気への影響は予測より小さくなる可能性もある。

 ということで、今回の新札発行の理由は、やはり偽造防止効果がそもそもの理由で、その発表を前倒ししたのは政府のイメージアップ狙いだったのではないかと思える。もちろん、期待していなかったのに、案外と景気刺激策になった、という結果になれば、それはそれで歓迎したい。

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