連載

占いを求める女性たちと、そこにつけ込む人たち、それぞれの悲喜こもごも。小説『占』

【この記事のキーワード】

「そうですか。この経験は、夫婦の絆を深めることになるのね」
 顔を上気させて女が言った。
「ええ。もちろん。人生に起こることに、無駄なことはひとつもないんですよ」
                       ーー「山伏村の千里眼」より

 死ぬこと以外かすり傷。すべてはベストタイミングで現れる。魂が成長するための試練。……スピ沼住民が耳にしがちな類似の甘言が、ドドドドっと頭に浮かびました。

 引用は、女たちが迷いの中で「占い」に救いを求める姿を描いた短編集『占(うら)』(木内昇著・新潮社)からです。男に仕事に凡庸さに惑う女たちの迷走に「あるよね~」と頷きながら、頭に浮かんでは消えるのは、リアルなエセスピ界隈の光景。これはその界隈のウォッチャーにとっても、たまらん小説ですね。女たちの焦燥感に胸をゆさぶられながら、記憶の蓋がパカパカ空いていく感覚。うほ、気持ちいい。

現実のスピリチュアル界を想起

 自分の望む鑑定結果を求めて占い師をジプシーする「時追町の卜い家(ときおいちょうのうらないや)」では、「金を返さなくてもいいよ」「子どもは叩いていいよ」と大胆なアドバイスでクライアントを喜ばせることだけに特化した某カウンセラーを思い出しました。

 この物語で描かれるのは、誰かにそう言ってほしくて必死になる女の心境。よくこんなものに、つけこむ商売ができるよなあ……と再認識。思いつきで始めた我流の鑑定法が巷で評判になり、悩める女たちからあがめられる「深山町の双六堂(みやままちのすごろくどう)」の結末には、恋愛や家族の在り方をレクチャーするわりに、ご自身たちの周囲が不幸にしか見えない子宮系女子たちを。嫌な感情を魔法のように消してくれる「宵待祠の喰い師(よいまちほこらのくいし)」には、一瞬はすっきりするけど結局何の解決にもならないデトックス療法やブロックバスターなんちゃらを。

 巷のなんちゃって教祖様(もしくはアドバイザー、ヒーラー、カウンセラー、セラピスト)爆誕も、実はこんな感じだったのだろうかと想像させられるエピソードもありました。相手によって答えを変えていくうちに、神通力があるような気がしてくる……あ~りそ~う。

 さてこう書くとまるで、闇を這いまわる女たちのドロドロ博覧会のようですが、そこはさすがの直木賞作家。こんなテーマを描きながらも、凛とした上品さ、格調の高さは健在です。また、大正時代が舞台となっているので、古めかしい女たちの言葉づかいやオカルト用語が素敵にノスタルジー。千里眼! 口寄せ! 声に出して読みたい日本語です(古い)。女たちの悩みというのは身に覚えがあるぶん生々しいものですが、そんなレトロな世界がオブラートとなり、心穏やかに物語にひたることができました。

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