『キャッツ』演者が猫そのものの恰好をしないからこその魅力

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 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンタテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 日本で舞台やミュージカルといえば、劇団四季が連想されることが多いと思います。その劇団四季にとって代表作のひとつである作品が、ミュージカル「キャッツ」。1月24日にはハリウッド実写映画が公開され、昨今のミュージカル映画の人気により(に加え、全米公開されたものの、批評家からの評価がかなりキビしいものであることも)話題になっています。

 30年以上もロングランされ愛される名作ですが、実は「キャッツ」は、ほかの映画化されたミュージカルとは少し違って、“予習”していかないと「???」となってしまうひともいる作品。そこで映画公開にあわせ、「キャッツ」の魅力を振り返りたいと思います。

劇団四季の出世作品「キャッツ」

 「キャッツ」の登場人物は、作品名どおり猫たち。飼い猫になることを拒んだ24匹の猫たち「ジェリクルキャッツ」のなかから、最も純粋な一匹を選ぶため、年に一度、満月の夜に催される大舞踏会の物語です。

 原作は、ノーベル文学賞受賞者で、20世紀を代表する詩人で哲学者のT.S.エリオットが、子どものために記した詩集「ポッサムおじさんの猫とつき合う法』」。猫好きであったエリオットの詩をそのままにミュージカルとして仕立てられた奇抜な作品ですが、明確なあらすじがあるわけでなく、ミュージカルというよりも猫そのもののような動きを取りこんだダンスの技術がすばらしい、ショーのような作品といったほうがいいかもしれません。

 「キャッツ」の初演は1981年、「ジーザス・クライスト=スーパースター」「エビータ」「オペラ座の怪人」などの音楽も手掛けているアンドリュー・ロイド=ウェバー作曲・作詞、トレバー・ナンの演出で、ロンドン・ウエストエンドで上演されました。翌年にはブロードウェイに上陸し、83年のトニー賞で作品、作詞・作曲、演出、脚本、助演女優、衣裳、照明賞の7部門を受賞。ハイテク技術を駆使した大型ミュージカルの先駆けであり、わかりやすい主人公をおかないことでアンサンブルの価値を再認識させ、ミュージカル史上の転機となったといえる作品です。

 日本では同年に劇団四季が、東京・西新宿に仮設したテント劇場で初演し、12カ月もの間ロングラン。これが日本で初めての本格的なロングラン公演で、そこから積み重なり昨年3月には通算公演が1万回を超えています。「キャッツ」の成功により、劇団四季は海外の大作ミュージカルの全国各地での上演や年単位のロングランを行える日本トップの興行集団へと飛躍していきます。

 逆境に負けずみずからの人生を強く生き抜いていくジェリクルキャッツたちは、やんちゃなラム・タム・タガーや長老のオールドデュトロノミ―、年老いた娼婦のグリザベラ、鉄道好きなスキンブルシャンクスのほか、犯罪王に魔術師、元役者など、個性豊かな面々。それぞれの生きてきた人生が展開され、人間はひとりも登場しません。劇場のセットは猫の目線から見た大きさで、客席の後ろや天井まで巨大なゴミの大道具が配置。劇団四季の地方公演では地元のプロ野球球団のヘルメットがセットに混ざりこんでいるなど、ご当地ならではの楽しみがあることはよく知られています。

※以下、ストーリーの詳細な内容を含みます。ご承知ください。

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