K-POP女性アイドルがジェンダーレスな魅力を勝ち得たのはなぜか? 「ガールクラッシュ」の起源について

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 韓国の音楽シーンで吹き荒れているガールクラッシュ(女性が憧れる女性)旋風を紹介するこの連載も本稿で最後となる。締めくくりはそのオリジン、もしくはパイオニアと言えるふたつのグループを紹介したい。

両グループは理想の姿・あるべき姿を探していくうちにガールクラッシュ的なコンセプトにたどり着いた。しかしそこまでの道のりは平坦ではなく、苦労してようやく手に入れたという印象が強い。だからこそ彼女たちは偉大であり、後進もリスペクトしたのだろう。

f(x)

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f(x)『Pinocchio』

 2009年に音源デビューしたこのグループは、図らずも元メンバー・ソルリ(2015年脱退)の死去で再び注目を集めてしまった。それぞれが異なる環境で育ったメンバーで結成。アイドル的なビジュアルとマニアックなサウンドメイク、そこにミステリアスなイメージを加えて独自の世界を構築し、活動スタート後ほどなくして商業的な成功を収めている。

 メンバーはいずれも実力派だ。ビクトリアは10年ほど中国の伝統舞踊を習っていたおかげでダンスのキレが良く、ルナは声楽をやっていた母親の血を受け継いでホイットニー・ヒューストンのような力強い歌声を響かせる。前述のソルリは子役出身だけあって表現の豊かさと華やかさがあり、少女時代の元メンバー・ジェシカを姉に持つクリスタルはジャズダンスで鍛えたパフォーマンスに対する評価が高い。

 最も注目したいのはエンバである。彼女は台湾系のアメリカ人で、小学生になった頃から、カーティス・ブロウというヒップホップの創成期を支えた大物アーティストの指導を受けながらラップのスキルを磨いたそうだ。

 それだけで通常のアイドルとはひと味もふた味も違うのに、エンバはさらにビジュアル面でもライバルに差を付ける。ボーイッシュなヘアスタイル、腕にびっしりと彫られたタトゥー、スポーティーな服装――。それまでの女性アイドルでほとんどなかったこれらの要素で多くの同性の支持を集めた。

 コンサートやイベントでは、彼女のラップパートになると黄色い歓声が響き渡る。男尊女卑の傾向があると言われる韓国において、性別を超えた魅力を放ちながら勢いのあるパフォーマンスを繰り広げる姿は相当まぶしく見えたのだろう。

 とはいえ、韓国社会にすんなり受け入れられたというわけではない。エンバはデビュー直後から「なぜ男のような格好をするのか」「胸はどこへ行った?」といった、ネットでの心ない言葉に悩まされてきた。

 悪口のあまりの多さに「長い間、自分の身体を恥ずかしいと思っていた」(自身のインスタグラムより)彼女は、女性らしい髪型・服装を試したこともあったという。しかし、それは間違いだとすぐに気付く。

<人々の期待に応えて特定の姿を見せなければいけないというのは合わないみたいです。疲れるんですよ。他人に認められるために生きることは私にとって意味がありません>(BBCコリア 2017年12月8日付の記事より)

 このような考えがf(x)の活動に良い影響を与えたことは想像するに難くない。実際、新曲をリリースするたびに不安感は薄まっていったようで、最後のオリジナルアルバムとなった『4 Walls』(2015年)にともなう活動では、自分はオンリーワンの存在だという誇りが一挙手一投足から伝わってきた。

 彼女が精神的に強くなっていく過程は他のメンバーの刺激にもなったのではないだろうか。エンバの悪口を言う観客をステージ上でにらみつけたクリスタルを例にあげるまでもなく、アンチからエンバを守ることがグループの結束力を強め、結果的に実の姉妹のように仲良くなれたのだと思う。

 それゆえにソルリの脱退はショックだったに違いない。同じくネットでの誹謗中傷に悩まされ続けてきた彼女だが、他のメンバー4人は守ることができなかった。いや、おそらく守ろうとした矢先の離脱だったのだろう。

 f(x)はサウンドやビジュアルの特異性で語られることが多い。しかし、同性の人気を獲得できたのは前述した“姉妹のような仲の良さ”があったからこそだ。絶えずネットのコメントに左右されたグループだが、その後のガールズグループのコンセプト作りに大きなヒントを与えた存在であることは間違いない。

☆f(x)「4 Walls」

S.E.S.

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S.E.S.『S.E.S. 2』

 K-POPにおけるガールクラッシュのルーツを探っていくと、このグループにたどりつく。

 1997年末、韓国の経済はIMF(国際通貨基金)の援助を受けるほどに悪くなったが、そんな暗いムードを吹き飛ばしたのが、シュー、ユジン、パダの3人からなるS.E.S.であった。洗練された歌唱とダンス、TLCを意識したサウンドメイクなどが受けてデビュー直後に大ブレイク。以降はS.E.S.に続けと、ライバルが雨後の竹の子のごとく登場した。

 S.E.S.より前に登場したガールズグループは、日本のアイドルをお手本にしたとおぼしき可愛らしいタイプが多かった。だがそれだと男性ファンしか獲得できない。日本とは比べものにならないほど音楽市場が小さい韓国では、もっと幅広い層にアピールできる要素を身に付けなければ大きな成功を手に入れられないのだ。それにいちはやく気付いた大手の音楽会社・SMエンターテインメントは、性別・国籍を問わず支持されるグループ=S.E.S.を生み出した、というわけである。

 彼女たちは1998年に日本に進出したものの、残念ながらスターダムにのし上がることはできなかった。時代が早かったと言えばそれまでだ。なにしろ当時の日本では韓国の音楽の認知度が低く、K-POPに興味がないリスナーばかり。本国ではスーパースターであっても、受け入れられる余地はゼロに等しかったのである。

 この状況は3人にとってかなり辛かったはずだ。2001年頃、日本の雑誌のインタビューでユジンはこのように語っている。

<日本には留学のつもりで行きました。苦労はあったけど、もう本当にいろいろなことを学びました>

 日本の読者向けなので控えめな表現になっているが、楽しい思い出はほとんどなかったと推測できるコメントだ。2016年末に再結成コンサートを開いたときも日本活動時のエピソードを話さなかったほどである。プライドを傷つけられた出来事が多かったのだろう。

 それでもS.E.S.が果たした役割はあまりにも大きい。未開拓の市場に挑戦した3人に多くの後輩が勇気付けられて後に続いたからこそ、今日のK-POPブームが起きたのだ。

☆S.E.S.「一幅の絵(Paradise)」

 自国のマーケットの弱点をカバーするために国境を超えたサウンドを目指すようになったK-POPは、より多くの支持を獲得しようとジェンダーを意識しない方向へと進んだ。その第1歩がS.E.S.であり、さらに推し進めたのがf(x)だった。こうした流れがガールクラッシュというコンセプトに発展し、現在のK-POPに欠かせない要素となっている。

 ITZYやBLACKPINKの成功でクローズアップされたガールクラッシュ。2020年のK-POPシーンもこのキーワードが重要になるのは間違いないだろう。引き続き韓国の女性アーティストたちの熱き戦いを見守っていきたいと思う。

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