新型肺炎のデマ・陰謀論が拡散する背景にある「不安」

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「GettyImages」より

 中国・武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の流行に対する日本国内の懸念は、刻々と高まっているようだ。ネット上では不安を煽るような情報がすでに複数飛び交っている。

 「関西空港から入国した発熱症状のある中国人観光客が逃走した」「コロナウイルスの致死率は15%」「人類史上最凶のウイルス」……さらに、「コロナウイルスは武漢ウイルス学研究所で人工的に作られた生物兵器」「ワクチンを売りつけるための陰謀」といった陰謀論まで。いたずらに恐怖心を煽るようなものもあり、惑わされないよう注意が必要だ。

ネットに蔓延する新型肺炎のデマ

 23日、「関西空港から入国した発熱症状のある中国人観光客が逃走した」「病院へ搬送されたがUSJと京都へ遊びに行きたいから検査前に逃げた」とのデマ情報がSNSで拡散。関西エアポートは24日、公式サイト上で「このような事実はございません」「関係機関からの正式な発表に基づかない不確かな情報にはご注意ください」と声明を出している。

 26日には、Twitter上に「コロナウイルスの致死率は15%」「人類史上最凶のウイルス」というツイートが広まり、人々に不安を与えた。ツイートは1.2万件のリツイートと1.5万件の「いいね!」を獲得(29日正午時点)しているが、「BuzzFeed News」によるとツイート内容は台湾のニュースサイトをソースとしたもので、<「死亡率15%」とは武漢で2020年1月2日までに入院した重症患者41人の間での死亡率のことだ。感染者全体の死亡率ではない>。「致死率15%」は誤りだと判明している。

 新型肺炎をめぐるネット上のデマに右往左往しているのはもちろん日本に限定したことではない。今まさに危機に陥っている中国国内では「バナナを食べると感染する」などといった誤情報が大量に出回っているという。

 AFP通信は29日、新型コロナウイルスにまつわる世界中のデマを検証する記事をアップ。それによれば、オーストラリアでは新型コロナウイルス株に汚染された食品がシドニー市内で発見されたとして、その住所がFacebookで拡散。しかし、AFPの取材を受けた地元の保健当局はこれを否定しているという。

 フランスでは、複数の県で新型肺炎の感染者が出たことを仏メディアが報じる場面のスクリーンショットが拡散。しかしそれは既存の画像をデジタル加工したものであり、実際にはそれらの県で感染例は確認されていない。

 根拠のない陰謀論も盛んだ。コロナウイルスは武漢ウイルス学研究所で人工的に作られた生物兵器だという説や、ワクチンを売りつけるための陰謀説、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が関わっているという説まで飛び交っているが、もちろんどれも信じるに値する内容ではない。

 特に懸念があるのは、こうしたデマが人種差別、そして特定の人々への迫害につながりかねないことである。デマ情報は場合によってはウイルス以上に危険なものとなり得るのだ。

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新型肺炎のデマ・陰謀論が拡散する背景にある「不安」の画像2 ウェジー 2019.10.17

ヒト-ヒト感染の「濃厚接触」とは

 こうした情報の拡散は、多くのネットユーザーにとって有益とは言えない。ただ、根拠なき噂話が広まる背景には、やはり「不安」という感情があるだろう。デマや流言は社会や人々の不安が高いときほど広まりやすい。

 世界保健機構(WHO)によると、新型肺炎はこれまでに中国本土以外で17の国と地域で感染が報告されており、中国本土の死者は132人、感染者は6,000人近くにのぼっている。

 日本国内では28日までに7人目の感染者が確認され、29日に武漢からチャーター機で退避した日本人206人のうち、少なくとも5人が体調不良を訴え病院に搬送されたと報じられている。

 厚労省は「ヒトからヒトへの感染の可能性は高い」と発表。コロナウイルスは潜伏期間が長いため、28日に新型肺炎の感染が確認された奈良県のバス運転手男性の家族や医療関係者を「濃厚接触者」として経過を観察しているという。

 「濃厚接触」とはどのような接触か。国立感染症研究所HPによれば、「医療従事者や家族、または同様な状況で症例の世話をした者や、症状があった時期に同じ場所に滞在(同居、訪問等)した者」を示す。また朝日新聞記事によれば、「濃厚接触」は1~1.5メートル以内の距離で感染者と相対し、目安として30分以上共に過ごした場合が当てはまるという。
(参考:「朝日新聞」1月16日「国内で新型肺炎、濃厚接触とは 口や鼻から吸い感染か」)

 しかし日常生活を営む中で、このような「濃厚接触」を避けることは難しいとの声もある。手洗いやうがいなど基本的な感染症予防は欠かせないが、それだけでは不安だという市民感情もわかる。ただ「絶対安全」などという確約は誰も出来ないものである。よく言われることだが、リスクを理解し「正しく恐れる」ことが重要だ。

 ウイルスの発生源とされる中国の医療系ウェブサイト「丁香園」の速報サイトでは、新型コロナウイルスに関する巷の噂ついてのページが設けられ、「お灸でウイルスを防げるか」「電子レンジでマスクを消毒できるか」などの質問に医学的な観点から回答。正しい情報の発信につとめている。

■厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A」

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