東京オリンピック2020がとどめを刺す日本の没落/本間龍・武田砂鉄対談(後編)

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本間龍(左)、武田砂鉄(右)

前編はこちら→https://wezz-y.com/archives/72567

 東京オリンピック・パラリンピックの開催が近づいてきた。夏にかけて日本は国をあげてのお祭り騒ぎに浮かれるだろうが、2020年東京オリンピックに関しては、招致段階からいまに至るまで数々の問題を抱えており、それらが解決される気配はない。

 そこで「WEZZY」で東京オリンピックの問題を指摘し続けている本間龍氏と、各媒体で厳しくオリンピック批判を行っている武田砂鉄氏が語り合った。

 前編では、東京オリンピックを主導する国が、人々の命や生活をないがしろにしている構造などについて聞いた。今回は、メディアの問題やオリンピック後の日本について考えていく。

オリンピックに率先して迎合する芸能界

──2019年大晦日の『第70回NHK紅白歌合戦』は、終始オリンピックとラグビーワールドカップの話題だらけでした。平均視聴率は過去最低だったようです。気の滅入った視聴者も多かったのでは。

武田砂鉄(以下、武田) とにかく「来年はいよいよオリンピック!」ムードでしたね。このテンションは、当然ながら今年のほうが強まります。『紅白歌合戦』はオリンピックムード一色でしょうね。

──芸能界の取り込まれ方はすさまじいですよね。つい先日には「がんばれ!ニッポン!全員団結プロジェクト!」というオリンピック応援企画が話題になりました。公式応援団長の松岡修造をはじめ、指原莉乃、博多華丸・大吉、羽生結弦選手、松岡茉優、山中伸弥教授など、錚々たる面々がスペシャル応援団員としてコメントを寄せています。

本間龍(以下、本間) そういったコンテンツに関しても、本格化するのは、むしろこれから。夏にかけて、きっとその手のものが大挙して出てきますよ。すでに電通が玉をたくさん仕込んでいるはずです。

武田 こういった流れに少しくらい抵抗しようと試みる芸能人・著名人たちの動きが極めて少ない。ミュージシャンでも俳優でも、表現をする人たちからのアンチテーゼが聞こえてこない。人間を軽視し、金儲けを優先していることがこれだけ明らかなオリンピックに、なぜ反抗・抵抗しないのか。自分は毎年のように、フジロックやサマーソニックという夏フェスに行ってきたので、これらの音楽フェスが、オリンピックの影響で日程が変わったり中止になったりしていることだけでも腹立たしく思う。だって、自分にとって、一年の真ん中付近で体を整えるような意味合いを持ってきたから。困ります、嫌です、と即物的に思い、その代わりに行われるものが問題を生み続けているとなれば、当然、指摘します。

本間 アメリカだったら、絶対に違った流れになっていたでしょうね。

武田 それどころか、日本の芸能界は、率先してオリンピックに巻き込まれています。率先して巻き込まれる、って変な言い方ですね。要するに迎合です。

本間 逆に言えば、こういった状況でオリンピックに反対の声をあげるというのは、目立つチャンスだったのかもしれない。にも関わらず、誰もそのチャンスを活かさなかった。

武田 その通りだと思います。そのことに、寂しさを覚えます。

メディアがオリンピック批判に及び腰な理由

──今回の東京オリンピックで特徴的なのは、スポンサー企業に関してこれまでの「1業種1社」の慣例が崩されたことです。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日経新聞が「オフィシャルパートナー」として、また、産経新聞、北海道新聞が「オフィシャルサポーター」としてスポンサー企業に名を連ねています。
 これはオリンピックに関する報道にどのような影響をおよぼしたのでしょうか?

本間 朝日新聞、毎日新聞、産経新聞には知り合いがいるので、社会部の人に取材してみたんです。そうしたら、「取材をすること、原稿にすることに関して特に制約はない。ただし、それが掲載されるかどうかはデスク判断」ということでした。
 つまり、取材はできるが、書けることには限度があるわけです。
 具体的に言うと、「酷暑の下で行われるオリンピックは大変です」といったところまでは書ける。ただ、「人の命がかかっているのだからきちんと対策すべきだ」「こういった対策ができないなら大会の開催そのものを止めるべきでは?」といったところまで踏み込んだ記事は書けない。ここに見えない壁のようなものがある。
 あと、テレビになったらもう大変です。スポンサーの問題も絡んでくるから。オリンピックのスポンサーには、コカ・コーラ、トヨタ自動車、インテル、パナソニック、アサヒビール、富士通など、テレビCMを盛んに打っているような名だたる大企業が軒並み入っている。そうなってくると、「オリンピック批判=スポンサー批判」にもつながってくるから、すごく難しい。
 オリンピック批判報道そのものを止められているわけではないけれど、スポンサーのコードに触れる可能性があるから自主規制が働くわけですね。

武田 マラソンの会場が札幌に変更になるときにはテレビニュースやワイドショーでもしきりに取り上げていましたが、会場変更にまつわる話は取り上げても、「そもそも、暑さの厳しい夏に日本でオリンピックを行うこと自体どうなんだろう」という根本のところは掘り下げようとしない。
マラソン会場変更の話を突き詰めて考えていけば、すぐにその点に辿り着くはずなのですが。

本間 その話はしたくないんです。この酷暑のなかでマラソンのような競技を行えば、選手の生命や健康に危険がおよぶという話はしても、「それなら別の競技も同じだし、大会自体に問題があるのでは?」という議論にはならない。

武田 これまでも、オリンピックは、大きなスポンサーがつき、大きなお金が動いて運営されてきた。メディアがある種、そこに向けた提灯記事を出したりするのは百歩譲って理解できるとしても、たとえば新聞ならば、それと同時に、別の場所で、冷徹に考察する記事を載せるべきだと思います。

東京オリンピックの真の姿を「記録」することが大事

──問題を多く抱えながらも、今年の7月には東京オリンピックが始まります。大会中、また、大会後の日本はどうなっていくのでしょうか?

武田 自分たちのような物書きやメディアの姿勢が問われてくるのは、これからだと思います。
 1964年にも、著名な物書きがオリンピックを持ち上げた。今回だって、手短に取材して、「いよいよ五輪。この新しいスタジアムに射し込む光を私たちは待っていた」などと、それらしくバンザイ記事を書く人も出てくるかもしれない。

本間 あり得るでしょうね。

武田 でも、それではいけません。
 東京オリンピックは必ず「成功」という評価で終わります。というのも、裏でどんな問題が起きていても、表でトラブルが明らかになっても、為政者やメディアが「大成功でした」と言えば、大成功になるんです。つまりもう、オリンピックの大成功は決まっているんです。
 そんな状況下で私たちのような物書きにできることはなにかといえば、きちんと記録して、「オリンピックとはこうだったんだ」と残していくことです。

本間 僕もまったく同じです。
 少し話が広がってしまうかもしれないけれど、自分が20代、30代のときは、日本の没落がこんなにも早く訪れるとは想像もしていなかった。でも、ここ20年ぐらいの日本を思うと、本当にダメな国になってしまったなという感じがする。
 そのとどめを刺しに東京オリンピックがやって来たと思うわけですよ。
 メディアの連中だって分かっている。予算が膨れ上がるオリンピックが税金の無駄遣いでしかないことにも、酷暑で大会を開くことが危険なことにも、オリンピック後の日本の景気がひどいことになることにも、全部気がついている。
 でも、そのことは口にしないで、祭りが終わるまでは馬鹿騒ぎを続ける。この状況は、日本の悪いところをかき集めたものであるような気がしてならないわけですよ。
 書き手の端くれとしては、このことを全部記録に残して、後世に伝えていきたい。次の世代にとって役に立つ情報なのかは分からないけれども、とにかくそういうことはやりたいと思っています。

武田 大会が終わったら、表で語ろうとしなかった人たちが一斉に前に出てきて、「オリンピックは大成功でした!」と言い出します。
 そのとき僕らは指を差して言わなければいけない。「そういえば、竹田恆和JOC元会長の贈収賄容疑はどうなったんでしたっけ。ほら、シンガポールのペーパーカンパニーの件です」と。
 みんながハッピーな気持ちになっているときに、水を差すのは意地悪いと思われるかもしれないけれど、これからの日本社会を考えたときには、クラッカーを鳴らしてはしゃいでいるよりも、そういう視点の方が絶対に必要です。意地悪いのは、バカ騒ぎで忘却してしまうほうです。
 日頃は使わない言葉を敢えて使うと、こちらの方が「国益」にかなっていると思うんです。

本間 だからこそ、オリンピック推進派の人と議論をして、意見を聞いてみたい。
 以前、インターネットテレビの報道番組で田原総一朗さんとご一緒したことがあって、そのときに、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)でオリンピックの話をしてみませんかと話したことがあったんです。
 そのとき田原さんは、「おお! いいね! 面白いじゃないか」と言ってくれたんですけど、あれからもう1年近く経つからね(笑)。まあ、田原さんが企画に前向きでも、テレビ朝日は絶対にやりたくないだろうから……。

武田 自分で自分のことを、皮肉を好む人間だなと思ってきたんですが、オリンピックに関しては、どっちがピュアな人間か見てくれと思う。絶対的にこっちの方がピュアなんです。

(取材、構成:編集部)

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