空気清浄機が子供の学力を引き上げる

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「GettyImages」より

 グレタ・トゥーンベリの国連スピーチ以降、環境問題へのますます注目が集まっている。かつて日本でも大きな社会問題となっていた大気汚染は、現在、中国やインドなどでも同様に問題となり、世界的な課題のひとつだ。

 教育政策などを専門とする畠山勝太さんは、子供の教育にとっても、空気の良し悪しが学力に対して影響を与えると指摘をする。しかもアメリカの研究では、教室に空気清浄機を設置するだけでも、その効果が出ているそうだ。

空気と学力の関係

 空気は大事ですよね。というわけで今回は空気の話をしたいと思います。

 空気といっても、「空気を読む」の空気ではなく、呼吸に必要な、無いと死んでしまう方の空気のことを指します、そもそも私は空気を読むのが苦手なので、そんなものの解説などできません。

 かつて日本でも大気汚染に拠る公害が大きな社会的問題でしたが、現在、世界的に大気汚染が大きな問題となっています。北京オリンピック・パラリンピックが開催される前の中国で、大気汚染が酷くて1m先も見えないといったニュースは大々的に報道されていましたし、今ではインドの大気汚染もよくニュースで見かけます。最近は環境問題への世界的な関心も高まっており、きっと読者の皆さんも大気汚染が問題となっていることはご存知だと思います。

 大気汚染のインパクトは大きく、WHOの推計によると、毎年60万人の子供が大気汚染が原因で亡くなっており、これは世界中で一時間で70人弱の子供が大気汚染が原因で死んでいるということになります。やや古いデータになりますが、2004年に交通事故で死亡した子供の人数が世界で26万人だったことを考えると、いかに多くの子供が大気汚染に殺されているのかが分かるかと思います。

 とはいえ私の専門は公衆衛生ではないので、話を本題に戻しましょう。

 「勉強中は換気が大事だよ」と言われたことがあるかと思います。勉強に集中するためには空気がいかに大事かは直感的に理解している人も多いでしょう。しかし、実際に空気が悪いと本当に学力に負の影響が出るのでしょうか?そして反対に空気を改善できると、どの程度学力向上が見込めるのでしょうか?

 今回は、空気と学力の関係についてお話をしようと思います。

空気が悪いと、学力は下がる

 大気汚染と学力の関係を分析するのは、実はそんなに簡単ではありません。これは富裕層の人達がどういった所に家を構えているかを考えると理解がしやすくなります。

 日本は地震に拠る被害が多く、大きい国なので、近年のタワーマンションなどの例外はもちろんありますが、富裕層が住む地域は地盤が強い・高台という傾向があります。

 恐らく大気汚染についても同様のことがあてはまり、富裕層はわざわざ健康被害の大きい大気汚染地域に好んで住むことはなく、そういった地域を避ける傾向があるはずです。そうなると、大気汚染地域に取り残されるのは、他の地価が高く衛生的で安全な所に引っ越すことができない貧困層ということになります。

 このような状況下で、大気汚染の酷いところとそうではないところの子供の学力を単純に比較すると、大気汚染が子供の学力を引き下げたのか、それともただ単純に大気汚染がひどい地域に低学力の子供が集中しているだけなのかの識別ができません。

 では、どうすればこれを区別できるか……を説明しだすと長くなるので、この問題をクリアするための因果推論を用いた研究結果を紹介しようと思います。

 イスラエルのデータを用いた研究によると、試験の当日にCOやPM2.5の濃度が高いと顕著に試験の成績が落ちるようです。しかも、COとPM2.5それぞれが独自に試験の成績に対して負の影響を与えるので、汚染物質の濃度が上がるのが良くないだけでなく、汚染物質の種類が多岐に渡ってしまうのも良くないようです。

 知識やスキルの蓄積は日々の鍛錬の賜物ですから、テストの当日に大気汚染がひどいと試験の成績が悪くなる→大気汚染がひどい日には学習してもその効果が下がる→大気汚染が子供の学力を引き下げる、という三段論法も出来そうな感じがしますが、アメリカのデータを用いた研究はもう少しダイレクトに大気汚染と学力の関係を見ています。

 この米国の研究もイスラエルでの研究と同様に、まずはテスト当日の大気汚染の影響について分析し、似たような結論を導き出しています。一点付け加えると、喘息持ちの子供とそうでない子供を比較すると、テスト当日の大気汚染の負の影響は前者の方で圧倒的に大きく出てしまうという点が挙げられます。

 先に述べたように大気汚染の子供の学力への影響の分析はなかなか難しいので、それを回避するための因果推論の手法の関係で、この研究は子供が生まれてからしばらくの間(長くとも1歳未満)の大気汚染が幼稚園・保育園での子供の学力に影響を与えているのか否かを分析しています。

 分析の結果、生まれてからしばらくの間の大気汚染の度合いによって、幼稚園・保育園での試験の成績が多少上下することが示唆されました。生まれてからしばらくの間の大気汚染の影響が幼稚園でも見られるということは、やはり大気汚染がひどいと子供の学力が低下してしまうことが考えられます。

空気清浄機が子供の学力を引き上げる

 よほどの根性論者でない限り、大気汚染が子供の学力を引き下げるのであれば、空気清浄機を設置すればいいじゃないかと考えるのが普通だと思います。ランダムに空気清浄機を配るのはなかなか倫理的に難しい所ですが、偶然それに近い状況が発生したことを利用して、空気清浄機の子供の学力へのインパクトを分析したワーキングペーパーが発表されていました。

 この疑似的に空気清浄機をランダムに教室に設置された状況では、予想通り空気清浄機が子供の学力を向上させました。しかし、驚きなのはその効果量の大きさとそれによる費用対効果の高さです。なんと空気清浄機が設置された教室で学んだ子供はそうでない子供よりも、学力が標準偏差0.2分上昇したのです。これは米国の教育政策としては大きな効果量になっています。

 例えば、テネシーSTARプロジェクトという、子供を22人と17人の学級にランダムに割り振って、少人数学級によって子供の学力がどれだけ向上するかを計測した大規模な実験では、空気清浄機の設置とほぼ同じだけの効果量が出ました。

 学級規模を1/3減少させるということは、裏を返せばより多くの教員が必要になり、教員の人件費が約30%増加するということになります。教員給与や引退後の年金負担を含めた福利厚生費用を考えると、この少人数学級の導入にかかるコストは数百万円になるはずです。

 それに対して、空気清浄機の設置は10万円程度ですし、一年間使用し続けてもランニングコストは数万円程度で済みます。少人数学級の効果・費用対効果と比較すると、いかにきれいな空気が子供の学習にとって重要であるかがよく分かるかと思います。

まとめ

 子供の学習にとっていかにきれいな空気が重要か理解してもらえたかと思います。これは何もこれは子供に限った話ではなく、大人だって、きれいな空気の中で仕事をした方がきっと効率が上がるはずです。そう考えると、きれいな空気を維持することは大きな経済効果を持つことが推測されます。

 確かに空気清浄機を設置するという小手先の対処策も魅力的ですが、大気汚染を広げない、というのがより大事なことになるはずです。もちろん日本国内で大気汚染を起こさせないことも重要ですが、大気汚染は国境を越えてもやってくるものなので、多くの国々と連携して大気汚染を無くせると良いですね。

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