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後手にまわる環境政策、物価上昇による消費圧迫…変化についていけない日本

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「GettyImages」より

 1月21日からスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)。ここでは、気候変動と環境問題が大きく取り上げられました。その中で意図的に温暖化を否定するトランプ大統領を別にすれば、日本のこの問題に対する対応が遅れていると、批判の声が聞かれました。

 その前の昨年12月にスペインのマドリードで開かれた国連気候変動枠組条約第25回締約会議(COP25)でも、石炭火力依存度が32%と高い日本が、脱石炭の道筋を示せなかったため、国際環境NGOから2回も「化石賞」を授与される不名誉を受けています。

 小泉環境大臣もこの問題への取り組み姿勢を語る中での「セクシー」発言はともかく、CO2排出が問題視される肉食への批判が出ていることを知らずに、「ステーキを食べた」と発言してひんしゅくを買っています。日本の気候変動、CO2削減意識の低さが問われています。世界の関心が効率化、成長性から、地球環境を維持して生命の安全を守り、環境保全に向かっている潮流変化に、日本がついていけない現状を露呈したことになります。

 環境問題でも意識の低さが指摘されています。一昨年、訪日外国人は3000万人を超えましたが、日本でプラスチックのストローやポリ袋の利用が氾濫していることに驚きを隠せないようです。実際、三菱グループを中心に日本のプラスチック生産は盛んで、そのごみ処理が追いつかず、中国などに輸出していました。その中国も環境汚染を理由に、プラスチックごみの輸入を全面的に禁止しました。

 そうした中で、日本でもポリ袋の利用が抑制され、プラスチック製ストローの利用を回避する動きが見られます。これまで気候変動は政策の埒外としてきた日銀も、ダボス会議では「排出量削減に向け日本は一段と努力する必要がある」との認識を示しました。そして産業界でも分解可能なバイオプラスチックの開発、生産を始めました。遅ればせながら、現場は対応をはじめています。

 世界では西アフリカなどで干ばつの影響から、キリバスのように海抜の低い島国で海面の上昇から「環境難民」が増えています。もともとは貧しさからくる難民を救済していた国連の難民高等弁務官事務所が、いまではこうした「環境難民」の救済に動いています。日本でも環境変化への対応を民間任せにしてはいられません。

日本の貿易収支が2年連続の赤字に

 世界的な価値観が経済効率、成長性から地球環境の保全、温暖化阻止にシフトしている状況についていけない日本を紹介しましたが、このほかに、国内では2つの経済構造変化が静かに進んでいます。そのひとつが、長年黒字を続けてきた日本の貿易収支が2年続けて赤字になったことです。この変化にも日本は対応できていません。

 財務省の「貿易統計」によれば、日本の貿易収支は2018年に1兆2000億円余りの赤字に転じ、2019年は1兆6000億円余りに赤字が拡大しました。2011年の東日本大震災で津波の被害を受け、原発が止まった際に火力発電に戻らざるを得ず、石油や石炭の輸入が増加して一時的に貿易収支が赤字になったことがあります。しかし、今回は原油価格が下落し、エネルギー輸入が抑制されている中で貿易赤字になっています。輸出でかつてのようには稼げなくなったことが背景にあります。

 それでも日本は長年貿易黒字を続け、為替が変動相場制に移行した1973年以来、長い間円高傾向にありました。日本経済を支える輸出企業を守るために、何とか円高を回避しようとの意識が、政府日銀には深く浸透してきました。とりわけ、安倍政権が誕生してからは「円高デフレ」からの脱却が最重要課題とされ、日銀と一体となって大規模な金融緩和の下で円安誘導を進めました。

 ところが、前述のように状況が変わってきました。貿易収支が赤字になったということは、円安で輸出企業が得る利益より、円安で輸入企業が負担するコストの方が大きくなったことになります。貿易収支が黒字の時は、確かに円安の方が全体の利益になったのですが、貿易収支が赤字になると、これが逆転します。エネルギーや半導体などの輸入に際して、円安はそれだけ支払いコストを高めるためです。

 貿易収支が赤字になり、円安が日本経済にコスト高となる中で、無理に円安を求める必然性はなくなっています。円高にしたくないとの過去の「通念」にとらわれて副作用の大きくなった金融緩和を無理に続けることはない、ということです。

年金受給世帯が半分に 

 もうひとつの変化が物価上昇の影響を受ける年金受給者、年金受給世帯の増加です。厚生労働省の調査によると、公的年金・恩給の受給者が2018年で4000万人を超え、3人に1人が年金受給者となりました。これに伴って、年金に生活を依拠する世帯が全体の半分を占めるようになりました。

 政府は2019年度の年金額が0.1%増加したのに続き、2020年度も0.2%増加すると発表しました。これはマクロ経済スライド制度に基づくもので、この2年間で消費者物価が1.5%上昇したことを受けた対応です。年金受給額が2年連続で増加と報じる新聞もありましたが、実際は物価上昇で2年間で1.2%も実質的な年金の価値が目減りすることになります。

 今後物価が上昇した場合、勤労者は働いて物価上昇分を取り戻す余地はありますが、年金受給世帯は物価上昇で年金の実質価値が減少します。つまり、全体の半分の世帯が物価上昇で購買力を減じることになり、それだけ物価上昇が日本の消費を圧迫しやすい形になっています。

 政府日銀は依然として2%の物価目標を掲げ、これを目指しています。これに恐怖を覚える世帯が半分を占めるようになっていてもです。このインフレ目標は、物価上昇を高めることで、金利から物価上昇を差し引いた実質金利を引き下げ、投資を刺激することが狙いです。しかし、企業は金利が下がっても国内市場が弱いと投資できず、利益を「内部留保」に積み上げるばかりです。

 一方で、年金世帯は物価上昇で年金が目減りするだけでなく、「老後に2000万円が必要」と言われても、その貯えが金利を生まないばかりか、貯蓄自体も物価高で目減りし、さらに経営が苦しくなった銀行から各種の手数料を取られるようになって、貯えの実質価値はさらに減少します。

 マイナス金利など超低金利策で物価を押し上げ、その分実質金利を下げて投資や経済を拡大させる意図で行われた政策も、企業が利益を内部留保に積み上げ、投資を押し上げる効果が限られています。その一方で、全体の半分を占める年金世帯が、物価上昇で年金も金融資産も目減りし、消費が抑制されて景気全体が停滞する結果を招いています。

 気候変動に対する世界の価値観が変わり、日本経済の構造も静かに、しかし着実に変わっています。それに気づかず、変化に応じた政策対応ができないまま、日本を「ゆでガエル」にしてしまわないよう、願うばかりです。

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