普通の母親が抱える「今、目の前にいる赤ちゃんとの暮らしが怖くて辛い」感情 弱さや危うさ、受け止めて

文=中崎亜衣
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「GettyImages」より

 親による子どもへの体罰禁止を明記した改正児童虐待防止法が来年4月に施行される。これに先立ち厚生労働省は12月3日、具体的にどのような行為が体罰にあたるのか、ガイドラインをまとめた。

 たとえば、以下の行為は体罰にあたる。

  • ・口で3回注意したけど言うことを聞かないので、頬を叩いた
  • ・大切なものにいたずらをしたので、長時間正座させた
  • ・友達を殴ってケガをさせたので、同じように子どもを殴った
  • ・他人のものを盗んだので、罰としてお尻を叩いた
  • ・宿題をしなかったので、夕ご飯を与えなかった

 また、暴言等、たとえば「お前なんか生まれてこなければよかった」など、 子どもの存在を否定するようなことを言ったり、やる気を出させるために、きょうだいを引き合いにしてダメ出しや無視をすることも、子どもの人権を侵害し、子どもの心を傷つける行為であると記載されている。

 しかし「体罰が法律で禁止される」ことについて、ネット上では否定的な声が目立つ。「体で教えないと子どもはわからない」と、“体罰は必要”とする意見も少なくないが、一方で「じゃあどうすればいいんだ」「言うことを聞かない子どもをしつける方法があるなら教えてほしい」という戸惑いの声も聞こえる。

 こうした声からわかるのは、体罰をなくすためには法律で禁止するだけではなく、子育てする親のフォローも同時にしていくことが不可欠ということだ。

 子どもを虐待から守ると同時に、親への支援も行っている社会福祉法人子どもの虐待防止センター(以下、CCAP)で相談員を務める広岡智子さんに、話を伺った。

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広岡智子
1980年代に、親の病気や虐待を理由に中学卒業と同時に自立を余儀なくされた子どもたちの暮らす「憩いの家」で寮母を務め、1991年に故広岡知彦(元憩いの家、子どもの虐待防止センター代表)が進めていた子どもの虐待防止センターの設立に電話相談員として参加。電話相談をきっかけに、自助的ケアグループMCG「母と子の関係を考える会」を子どもの虐待防止センターで始め、現在は研修会の講師を務めるとともに、母親たちに向けては「怒って、泣いて、時々笑って子育てを!」と講演活動を行っている。

「叩いちゃダメだ」ではなく、「なぜ叩いちゃうのかな?」

――CCAPでは子育ての悩みを受け付ける電話相談を実施しています。どのような親御さんが電話をかけてきますか。

広岡:このままだと虐待になってしまうという危機感を持って、電話をかけて来られる方が多いです。中にはお父さんからの電話もありますが、専業主婦や育休中のお母さんなど、子どもと24時間一緒にいる方からの相談が多いです。

保育園に子どもを預けることのできる共働き家庭やひとり親家庭は、子どもと離れる時間を確保されるという意味で、現実的な虐待予防になっていると思います。

――相談員の方たちはどのような言葉をかけているのでしょうか。

広岡:電話をかけてくる親たちは、子どもを叩くことは「よくない」と認識していますし、子どもにひどい態度を取ってしまった自分自身を責めています。

「私はダメな親だ。子どもを可愛く思えないし、叩いちゃうし、差別しちゃうし。昨日だって子どもを泣かせてしまった」と泣きながら電話かけてくるお母さんもいますから。

ストレスを抱えて子どもを叩いてしまったと苦しんでいるお母さんに対して、「子どもを叩くことは虐待だから許されない」と断罪したら、彼女を追い詰め、ますます子どもを叩くようになるかもしれません。

ですから、私たち相談員は「叩いちゃダメだ」ではなく、「なぜ叩いちゃうのかな?」と、まずは叩いてしまう理由を問いかけます。ダメだとわかっても叩かざるを得ないような現実があるわけで、その状況を理解し、叩かずに子育てをする方法を一緒に考えていくのです。

――叩いてしまう理由、どのようなものが多いですか。

広岡:子どもを叩いてしまう理由は、色々あるでしょう。子どもは一人一人生まれながらの気質もあるし、家庭環境も育休を取れるお父さんもいれば、帰りが遅く土日も仕事で忙しいお父さんもいるなど、一人一人違いますよね。

電話をかけてくる親たちは、本当は「悪いことをするけれど、この子は子どもで、私から叩かれてかわいそうなんだ」とわかっているし、葛藤しています。そのような葛藤は子育ての苦しみともいえ、子どもを守り育てていくためには「あり」なのです。

――電話相談を終える頃には、相談者さんの反応は変わりますか。

広岡:匿名の電話相談の場合、自分が子どもにしてしまった本当のことを言えるので、語った後はすごく楽になるようです。 

どうやって子どもをしつけければいいのかといった葛藤は、子どもを守り育てていくためには必要なことであり、子育てに悩むことは“当たり前”なんです。子育てに悩みを抱えることはとても自然なことであり、「ダメ親」ではありません。

――子どもはそうそう親の思い通りにはなりませんよね。

広岡:子育ては誰がやっても、子どもとの関係に多かれ少なかれ苦しくなります。もともと人間の子どもはとても手がかかる存在です。生理的早産といわれ、生まれて最初の1年はひと時も目が離せません。今は出産の疲れを抱えたまま、母親が寝る時間を削ってひとりで子育てを行う家庭も多く、肉体的にも精神的にもキツイですよね。

1年が経って、ようやく赤ちゃんとの生活に慣れ自信がついてくると、今度は凄まじいイヤイヤ期や反抗期が訪れ、特に初めて子育てをする親は戸惑ってしまいます。そのような状況であれば、誰だって悩みを抱えます。子どもと向き合おうとしている親ほど、追い詰められてしまうものです。

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