パワハラを繰り返してしまう日本人の「仕事ができる人」という評価基軸

文=安藤俊介
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「Getty Images」より

 いわゆるパワハラ規制法がいよいよこの6月から大企業に適用され、2年後の2022年からは中小企業にも適用される。今年がパワハラ撲滅元年になることを祈るばかりであるが、それにしても日本にはこんなにもパワハラがあるのかというくらいパワハラという言葉をニュースで見ない日はない。この年末年始も三菱電機、電通といった大企業のパワハラが報じられた。

 電通にいたっては2015年冬に社員が過労自殺し、その要因にパワハラがあった。この件は大きな社会問題として議論されたにもかかわらず、またである。電通は労働基準法などに違反したとして三田労働基準監督署から是正勧告を受けているが、その後もずさんな労務管理が続いていたことになる

 なぜこうもパワハラは繰り返されるのだろうか。そこには日本において「仕事ができる」とはどういうことを指しているのかという価値観に大きな問題があると考える。

「仕事のできる優秀なパワハラ社員」

 筆者が代表を務める一般社団法人日本アンガーマネジメント協会には、パワハラ防止のためのアンガーマネジメント研修の依頼がこの数年急増している。多くの企業ではコンプライアンス強化として、すでにパワハラについて法律的な研修は行っているが、法律だけ学んでもパワハラの件数をなかなか減らすことができないという悩みがある。

 それは頭ではわかっているが、感情がついていかずについやってしまうケースのパワハラが多いからである。つまり、アンガーマネジメントで怒りの感情と上手に付き合えるようになることで、パワハラを予防できるのではないか――と、依頼企業は考えているのだ。

 こうしたご依頼を見ている中で、日本人は非常に問題ある価値観に囚われており、だからこそパワハラの横行を許してしまっているのではないかと筆者は考えている。

 弊会に研修の依頼をする際、「仕事は非常にできるのだが、パワハラをしてしまうので、彼/彼女にアンガーマネジメントを受講させたい」というケースが目につく。

 なかには、その人だけにアンガーマネジメントを受けてもらうとなると角が立つし、後で問題になりそうなので、まずはその部の社員全員で研修を受けることにして、後からランダムで選んだということにして、その人に個別のコーチングをお願いしたいというケースもある。

「仕事ができる」の意味に気づいていない人が多い

 筆者が気になるのは「仕事は非常にできるのだが」というくだりである。このくだりには、人間関係をもう少し上手にして、今のまま仕事をしてくれれば良いというニュアンスが多分に隠されている。つまり、会社はその人のやっている仕事については評価をしているのである。

 仕事ができる、いなくては困る人として評価されているから、先のような角が立たない方法で研修を受けたいと配慮される。しかしパワハラをしているようであれば、「仕事はできる」と評価してはいけないと思うのだが、いかがだろうか。

 そもそもここで言う「仕事ができる」は、業務遂行スキルが高いという意味であり、それのみをもって「仕事ができる」と指してはいけないことに気づいていない人が多いと思う。

 「仕事ができる」というのは、次の2つのスキルの総合力ではないだろうか。

1.業務遂行するスキル

2.人間関係スキル

 この2つのスキルで分ければ、会社には次の4つのタイプの人がいることになる。

1.業務遂行スキルも、人間関係スキルも高い人

2.業務遂行スキルは高いが、人間関係スキルは低い人

3.業務遂行スキルは低いが、人間関係スキルが高い人

4.業務遂行スキルも、人間関係スキルも低い人

 言わずもがな、業務遂行スキル、人間関係スキルの両方が高い人が企業では高い評価を得られるだろう。逆に業務遂行スキルも人間関係スキルも低い人は高い評価を得ることは難しい。

 問題は、「業務遂行スキルは高いが、人間関係スキルは低い人」と「業務遂行スキルは低いが、人間関係スキルが高い人」のどちらを企業が高く評価する傾向にあるかだ。

 非常に残念なことだが、日本では前者を評価する傾向が高いだろう。だからこそ、パワハラをしていても、業務遂行スキルが高ければ、そのままそこで仕事をさせているのである。「仕事はできるのだが……」という枕詞というか、言い訳の下に。

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