昭和的な成功体験が手放せない人たち
パワハラの相談件数は右肩上がりに増えているが、昔はパワハラが少なく、現在増えているとは言い切れない。パワハラという言葉や概念が社会に浸透し、また相談窓口の設置などが周知されることで、相談件数が増えているとも言える。
その昔、今では到底許されるようなものではないパワハラが横行していた。いわゆる昭和の働き方を知っている人であれば、上司が怒鳴る、暴言を吐くなどは日常茶飯事だった。
しかし、幸か不幸か、日本はそのやり方で経済発展を遂げることができたのである。その成功体験を手放せぬまま、次の時代に入り、平成の30年間は停滞し続けた。なぜここまで停滞してしまったのかについてはさまざまな要因があるが、「仕事ができる」とは一体どういうことなのか、価値観をアップデートすることができなかった点もその要因のひとつであろう。
どのような人材を「仕事ができる」とみなすか、その価値観を大きく変えない限り、法制度をいくら整えてもパワハラを予防することは困難なのではないかと危惧する。
その昭和的な働き方、過去の成功体験が手放せないからこそ、多少の横暴さは成果を上げるためには仕方のないことどこかで思い、企業はパワハラを許容してしまっているのではないだろうか。
だが、こうした価値観で働いても、平成の30年間、日本経済が浮上できなかったのは厳然とした事実なのだ。
見直されるべき「仕事ができる人」の指標
働き方改革が叫ばれているが、「仕事ができる人」の定義については議論が十分になされていない。日本で「仕事ができる人」というのは、相変わらず業務遂行スキルの高い人である。「あの人がいるから周りが楽しくなる人」というのは、企業では評価されにくい。なぜなら、それは業務ができるということよりも、間接的すぎて評価が難しいからである。
今はいろいろな業務がAIに置き換えられている。その置き換えられるものは、今後は加速度的に増えていくだろう。極端な話、業務遂行スキルだけであれば、多くの業務においてAIに置き換えがきく世界がすぐそこまでやってきている。すでにある部分では、AIのほうが圧倒的に人よりも優れている。
そうなった時、果たして業務遂行スキルが高い人が「仕事ができる」という評価を今と同じように得ることができるだろうか。人間関係スキルはAIに置き換えることはできない。そうなると、これからの時代、どちらの方が人として評価されることになるのだろうか。
業務遂行スキルが高く、人間関係スキルの低い人の問題は、短期的にはそういう人のほうが企業では便利だという点だ。実際、日本はそういう価値観の下に高度経済成長を遂げることができた。ただ、こういう人は長期的に見た時に、企業にとってプラスに働かないということである。だから、高度経済成長は短命に終わり、その後に長い停滞がやってきているのである。
人間関係スキルが低く、パワハラをしてしまうような人は、周りの人の熱量を奪い、そこで働きたいと思う意欲を削いでいってしまうのである。本人は仕事はできて、成果を上げているつもりでも、周りの人の意欲を削ぎ、成果を出す可能性を奪うようなものであれば、長期的に見れば良いことはない。
あなたが働いている企業では、先の4つのタイプにどのような優先順位をつけているだろうか。1番目と4番目は多くの企業で似た結果だと思うが、2番目、3番目についてどう評価しているかによって、その企業でパワハラがあり続けるのか、パワハラを防止できるのか大きな差になると考える。そして、あなた自身はどういう優先順位で評価してくれる会社で働きたいだろうか。
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