どうすれば本は売れるのか。気楽でリーズナブルな娯楽に押される時代

文=地蔵重樹
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「Getty Images」より

 出版不況だという。本が売れないといわれている。確かに、電車の中や喫茶店など、以前は本を読んでいる人が多かったが、いつからかすっかり少数派になってしまった。

 今では多くの人がスマートフォンやタブレットを見ているか、ノートパソコンで何か(仕事とは限らない)をしている。あるいはゲーム機に夢中になっている人も多い。ちなみに筆者は電車の中や喫茶店ではもっぱら本を読んでいるので少数派、というか絶滅危惧種かもしれない。また、街からは行きつけだった小規模な書店が次々と閉店し、寂しい思いもしている。

 このような状況を見ていると、確かに本は売れなくなったのだなぁ、と実感する。一方で、大型ショッピングモール内で営業している大型書店に行くと、そのレジは本を購入するお客さんの対応に常に忙しそうだった。

 果たして本当に本は売れなくなっているのだろうか。

小規模店が減り、大型店が増える

 2019年5月1日時点での日本の書店数は1万1446店だという(※1)。この店舗数は、なんと前年より580店も少なくなっている。しかもこの減り方は前年比4.8%[y1] で、この10年間でも最も大きな減少幅となっているのだ。20年前は2万2296店あったため、半減してしまったことになる。

 ただ、この減り方には特徴がある。売り場面積が100坪以下の店舗の比率が減少し、300坪以上の店舗の比率は高まっているという。これは、冒頭で述べた筆者の実感を裏付けている。つまり、街の小規模書店は減り、大型書店は増えていたのだ。

※1『日本の書店、店舗数は1万174店 売場面積は126万872坪 – 文化通信デジタル文化通信デジタル

出版市場はわずかに成長したが

 それでは出版市場はどのようになっているのだろうか。公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所の調査(※2)によると、2019年(1月~12月末)の出版市場における推定販売額は1兆5432億円で、驚いたことに前年比0.2%増となっていた。といっても、同研究所が調査を始めた2014年から2018年までは前年を下回り続けており、2019年の販売増はある種の揺らぎとも考えられる。

 ただ、紙の出版物(書籍・雑誌合計)においては、やはり4.3%減少している。市場を牽引したのは23.9%増と大きく伸びた電子書籍だった。電子書籍が全体における占有率も、前年の16.1%から19.9%へと大きくなっている。

 紙の出版物で大きく減少しているのは、文庫本と文芸・生活実用書・学習参考書で、これらを支えたのが前年より伸びたビジネス書・新書だったという。このことから、楽しむための読書が減る一方で、仕事をする上での必要に迫られて、あるいはより良い働き方や稼ぎ方を模索するための実利を期待した読書が増えたとも想像できそうだ。

 筆者がブックライティングをした本の著者である某コンサルタント氏は、「コンサルタントとビジネス書は逆張りのビジネスですよ」と言っていた。それは、景気が悪いときのほうが両者とも必要とされるという意味だ。確かに景気が良く商売が順調な時であればコンサルタントに相談することはないし、ビジネス書に活路を見出そうとする気持ちも起きない。

 ただ、楽しむための読書がすべて減少したわけではない。「異世界」もののライトノベルの人気は高まったようだし、マンガでは特に電子コミックが伸びている。つまり、より気軽に楽しめる読み物は健闘しているのだ。

※2『2019年出版(紙+電子)市場を発表しました|公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所

1カ月間に1冊も本を読まない人は増加している

 電子書籍の伸びが、かろうじて出版市場の減少を踏みとどまらせている状況だが、巷間言われているように、そもそも本を読む人が減少しているのであれば、この先も出版業界は厳しい状況に置かれる。

 国立青少年教育振興機構が昨年12月に発表した調査結果(※3)によれば、全国の20~60代の男女5000人にインターネット調査をしたところ、1カ月間まったく本を読まなかった人が約半数の49.8%だったという。

  一方で、1カ月にまったく本を読まない人は、20代は確かに52.3%と高いが、30代でも54.4%と20代を上回っている。そして本を読みそうな60代でも44.1%はまったく読まなかったのだ。「若者の本離れ」ともいわれるが、そうとも限らない数字が出ている。

 つまり、本離れは若者に限った現象ではなさそうだ。

 ちなみに、同調査では他にも興味深い結果が出ている。紙・電子に関わらず、本を読む傾向がある人のほうが、読まない傾向がある人に対して自己理解力・批判的思考力・主体的行動力のいずれもが高かったという。

※3『国立青少年教育振興機構 子供の頃の読書活動の効果に関する調査研究報告書〔速報版〕

本を読むより無料動画を見たほうが気楽

 株式会社ぎょうせいが昨年10月に発表した調査結果(※4)によると、読書量が減った理由のトップは「仕事や勉強が忙しくて読む時間がない」が49.4%だった。しかし、では「昔の人はヒマだったから読書していた」のだろうか。忙しく仕事や勉強をする人は昔も今もおり、このような理由で読書をしない人も常に一定数いると思われ、ことさら近年の本離れの原因ではないと思われる。

 2位は「視力など健康上の理由」の37.2%、そして3位が「情報機器(携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、パソコン、ゲーム機等)で時間が取られる」の36.5%だ。同調査が注目したのは、この3位だった。というのも、この理由の割合が2008年度では14.8%、2013年度では26.3%と目立って増加していたためだ。

 このことから、本が読まれなくなった理由に、それまで読書に費やされていた時間や予算が、情報機器の利用に取って代わられたと見ることができる。

 一方、日本人の本離れは、実質賃金が下がったことで経済的余裕がなくなり、緊急性の低い「本の購入」が節約されたから、という意見もある。確かに全労連の「実質賃金指数の推移の国際比較(1997年=100)」のグラフを見ると、1997年を100として、2016年の実質賃金は89.7と下がっている。これは、下記の通り実質賃金が軒並み上昇した先進国の中で日本だけの現象だ。

スウェーデン:138.4

オーストラリア:131.8

フランス:126.4

イギリス(製造業):125.3

デンマーク:123.4

ドイツ:116.3

アメリカ:115.3

日本:89.7

 確かに本は、緊急性や必要性のわりには高く感じられるかもしれない。日々ブックライターとして本作りの現場に身を置く筆者からすれば、一冊の本ができるまでの労力を知っているので、本の値段が高いとは感じないが、読者にそんな背景は関係ないだろう。

 たとえばAmazon Primeが年会費4900円(税込)で、コンテンツに制限があるとはいえ映画見放題、音楽聴き放題、電子書籍読み放題であることを体験すると、同じ金額でビジネス書であれば3~4冊しか買えない書籍の単価は高く感じるかもしれない。

 そのうえ、実質賃金が下がっている中でも、人々は高額なスマートフォンを購入し、インターネット手数料を毎月支払い、アプリやサブスクリプションにお金を使っている。そう考えると、やはり本離れの原因は実質賃金の低下ではなく、そのサービス形態やコンテンツに原因があるように思える。多様なメディアを利用できるようになったため、本を購入する動機が弱まっているのだ。

 しかも、SNSやTwitterは文字数が極端に少ないので読みやすいし、ニュースも有料の新聞・雑誌を購入しなくても無料のWebサイトで読める。ネット上のコンテンツは文字が少なめで読み切るのが楽だし、動画であればより気楽に視聴できる。

 それに比べて6万~10万文字が1冊に印刷されている本は、読むことに努力を強いられる傾向が強い媒体だといえる。人は、楽で低価格なメディアやコンテンツに流れていくものだろう。

※4『「平成30年度 国語に関する世論調査」の調査結果発表を受けて ―我が国の読書の現状 | ぎょうせい教育ライブラリ

本の売り方を変える

 本よりもリーズナブルで手軽に楽しめるメディアやコンテンツが普及した今、書籍や出版社が生き残るにはどうすればいいか。手軽さという意味では紙の本を電子書籍にシフトしていく方法が考えられるが、では紙の本の市場を維持するには?

 実は紙の本には独特な流通形態がある。それは再販売価格維持制度(再販制度)だ。他の商品とは異なり、本はどの店で購入しても同じ価格である。地方だから高いとか、大型店だから安いといったことはない。一定期間が過ぎると安くなるという仕組みもない。

 また、本は書店が出版社から直接仕入れているのではなく、取次会社を通している。そして、最も大きな特徴は、書店で売れなかった本は取次店経由で出版社に返品できるということだ。

 このような独自の再販制度が存在している理由については、以前当サイトで『本も売れなければ安くなる? アマゾンの「買い切り」が「再販制度」に投じる大きな一石』という記事で一般社団法人日本書籍出版協会の見解を紹介したが、もう一度引用すると以下の通りになる。

 出版物には一般商品と著しく異なる特性があります。

 ①個々の出版物が他にとってかわることのできない内容をもち、

 ②種類がきわめて多く(現在流通している書籍は約60万点)、

 ③新刊発行点数も膨大(新刊書籍だけで、年間約65、000点)、などです。

 このような特性をもつ出版物を読者の皆さんにお届けする最良の方法は、書店での陳列販売です。”

 そして再販制度がなければ以下の不具合が生じるとしている。

 ①本の種類が少なくなり、

 ②本の内容が偏り、

 ③価格が高くなり、

 ④遠隔地は都市部より本の価格が上昇し、

 ⑤町の本屋さんが減る、という事態になります。”

 これに対して、再販制度を取り払おうとしているのがAmazonだ。Amazonは、取次を通さず出版社から直接仕入れ、しかも買い切りで返品しないという一般的な商品と同じ方法で本を販売する方針であることを昨年の2月に発表した。そして買い切りにすることで、出版社が返品リスクから解放される交換条件として、一定期間が過ぎた後はAmazonが販売価格を自由に変えても良いという契約を出版社ごとに結ぶという。

 つまり、売れない本は安くしたり、バーゲンセールなどのイベントを行うことで、本にも特売の機会を設けられるということだ。すでに多くの出版社がこのオファーを受け入れている。6月になると、大手書店のTSUTAYAも本の買い切り方式を採用する方針を発表した。同社はすでに2017年から約170タイトルの月刊誌を買い切りで仕入れ、発売後の一定期間が過ぎると値下げした。

 一方、以前『泊まれる本屋や入場料を払ってでも入りたい本屋。出版不況にあらがうユニークな書店の奮闘』という記事で、ユニークな工夫で本を売ろうとしている書店が現れていることを紹介した。しかし、いずれもレアな店舗レベルでの工夫であり、出版業界全体の底上げになるほどのインパクトはない。

 しかし、AmazonやTSUTAYAの試みは、出版業界に大きなインパクトを与えるのではないか。もしかすると、このあたりから出版市場を活性化させる方法が出てくるかもしれない。いずれにせよ、本でなければできない体験もあるので、出版業界が元気になることを願ってやまない。

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