ーー映画監督になる前はどうでした？
吉田：上下をつけちゃダメなんだけど、女性は自分より圧倒的に上の存在だと思ってました。僕は童貞を捨てるのが24歳くらいで、めっちゃ遅かったんです。なので、女性がちょっと怖いくらいだったんですよ。
ーーいまだとぜんぜん遅くない、普通だと思います。
吉田：そうなんだ（笑）。当時、僕たちの世代では遅いくらいだった。女性を見下したことが一度もないから、女性をそういう感覚で見ている人のことが正直分からない。
ーー童貞を捨てるのが遅くて、それを女を見下す理由にする人もいるんですよ。「自分にそういう機会を与えてくれなかった女が悪い」って。それが女性への暴力や犯罪になることもありますからね。
吉田：それは教育が関係しているんじゃないかな。僕は高校卒業後に１年間イギリスに留学したんですよ。親に「狭い世界でいるな」とわれたのが大きかったですね。自分のなかで「セックスできねーな」ということだけにとらわれていたら、ダメだったかもしれない。
ーーこの日本だけで生きていると、気がつけないままなのかなと思います。
吉田：それは本当にあると思います。基本的にエロはタブーとされていて、表立ってはみんな口をつぐんでいるんだけど、ネットを開いたらすごいじゃないですか。なんでもあり。たぶん、こんな国は日本だけだと思う。裏表がありすぎて、健全じゃないと思います。これも教育の問題だと思うんですが、本当に歪んでますよね。これが嫌でしょうがないです。
メディアが植え付けた“エロス”
ーー私も、エロ＝間違っているもの、いけないものみたいな社会の価値観に、すごく違和感があります。グラビアをやっていても、強要的なものは別の問題として、自分で選んでやったものもあるわけです。だけど、それらをすべてひとまとめにして「こういう仕事をしている女」みたいにいわれるのって、なんなんだろう……。「だってあんたたちこれで抜いてるんでしょ？」「なのにこれを“悪”とするって意味がわからん」と思ってたし。『女の穴』で脱いだのは、自分でそうしたいと思ったからなんですけど、「脱ぐしかなくなったんだね」「堕ちた」と取られることが多くて。エロの表現をしたり脱いだりすると、本意ではないことをやっているかのように決めつけられます。それを求める社会があるのに、「堕ちた」とみなすのはすごく矛盾しているし、ひどい話だなって思います。
吉田：本当にひどいですよね。とにかく女性を見下し、下の立場に置いておきたいんでしょうね。
ーーそういう願望があるにはあると思うんですけど、みんな「それだけがエロだ！」ってのをメディアから植え付けられちゃっているんじゃないかな。だから全部を変えろではもちろんなくて、吉田さんの作品みたいな「女性を見下さなくてもエロいもの」の割合が増えれば、「見下す＝エロ」という価値観が変化すると思います。
吉田：エロに限らず、日本ってメディアがニーズを作り出しすぎじゃないですか？ それがエロにもすごく影響している。男性に対して「こういうのがエロいんでしょ？」というのを提示して、それにを男性が疑問を抱かずに受け取ってしまうから、余計に悪循環になっている。
私が社会に対して感じている違和感は、吉田監督が映画を作って世に出していく際に思うことと遠くはないように感じます。後篇ではこの違和感、吉田監督の思う「エロ」の世の中の扱われ方についてもっと深く聞き、フェミニズムとの親和性を探っていきたいと思います。
▼後篇はこちら
女性の主体的な性行動を描くフェミニズム映画を撮りたい／石川優実☓吉田浩太監督インタビュー
こんにちは。グラビア女優でライターの石川優実です。2017年に#MeTooをしてからこの連載を通してジェンダーやフェミニズムについて学んでいます。今回…
Information
吉田浩太 1978年生まれ。早稲田大学中退。映像制作会社シャイカー所属。「ユリ子のアロマ」(10)で劇場デビュー。制作した映画は国内外で高い評価を受けており、『ソーローなんてくだらない』（2011年）ではイギリス・レインダンス映画祭でベストインターナショナルコンペティションにノミネート、『愛の病』（2017年）でローマアジアンフェスティバルで最優秀主演男優賞（岡山天音）を受賞した。
今後の活動（新作告知）
連作短編シリーズ「納豆」（出演：池田良、芹澤興人、橋本マナミ）「麻婆豆腐」（出演：さとうほなみ、芹澤興人）「背脂大蒜増々」（出演：武田梨奈、尚玄）を現在仕上げ中。人間の秘めた欲求を食を通じて表現するオリジナルシリーズ。今年度中に劇場公開予定。
『麻婆豆腐』
『背脂大蒜増々』
