
『それでも俺は、妻としたい』著者・足立紳さん
近年、夫婦間のセックスレスを題材にした作品が急増している。『夫のちんぽが入らない』『今日も拒まれてます~セックスレス・ハラスメント 嫁日記~』『あなたがしてくれなくても』……創作やエッセイ問わず、いつも主人公になるのは女性だ。
さらに2019年9月には、際立って拒絶の姿勢を示したエッセイ『夫のHがイヤだった。』(亜紀書房)が発売。夫との性生活が著者であるMioさんの体を蝕んでいく様子を、痛々しくも克明に描き話題となり、多くのメディアでも取り上げられた。
そんななか、ついに男性の口からセックスレスが語られる作品が登場したのだ。小説『それでも俺は、妻としたい』(新潮社)の著者である足立紳さんが描く主人公・豪太は、妻・チカから罵詈雑言を浴びせられても、めげずに妻とのセックスに挑んでゆく。
セックスを拒む女と、セックスを拒まれる男ーー。Mioさんと足立紳さんの、絶対に相容れない立場によるセックスレス対談をお届けします。
ーー足立さんは『夫のHがイヤだった。』を読んでどう思われましたか?
足立紳さん(以下、足立):タイトルにインパクトがありますよね。たいていの男性はまずそこに引っかかると思います。僕もすぐに表紙の写真を撮って、仕事仲間に「いまこういう本を読んでいるんだけど」ってメールをしたくらいです。
仲間のなかの結婚10年以上の男性たちは、みんな「うわー聞きたくない」といった反応を示していました。僕もプロローグから「これはヤバい……」と思いつつ、読むうちにわかるのは、夫とのセックスに肉体的な痛みがともなっていたのは、心身共に相当苦痛だっただろうなということ。
僕自身、妻をはじめ、人数は少ないですがこれまで付き合ってきた女性たちは、ガンガンいってくるタイプが多かったんです。Mioさんは夫にイヤなことをいわないタイプだったんですか?
Mioさん(以下、Mio):イヤなことがあったらそもそも付き合わないと思っていましたし、イヤな部分はあまりなかったんですよ。
足立:セックスときの痛みはイヤな部分ではなかったんですか? 「痛い」と伝えたりは?
Mio:「痛い」「気持ちよくない」といったことを少しはいいましたが、わたし自身が「やっているうちに痛くなくなる、気持ちよくなるんだろうな」と思っていたんです。
“いい人”の夫と、自分を責める妻
足立:「痛い」と伝えると、元夫さんはどんな反応を示すんですか?
Mio:耳に入っていないというか、「じゃあ痛くしないよ」でおしまいになってしまう。「どうして痛いんだろう」と寄り添うところまでは至らない感じでした。
足立:となると、「これ以上いっても無駄か」と思ってしまいそう。
Mio:そうですね。いってもわからないなら、「むしろわたしのほうが悪いんじゃないのか?」と思ってしまって、元夫が一方的に悪いとは思えませんでした。人間的にはすごくいい人で、自信を持って結婚しましたしね。
足立:たしかに、Mioさんのお父様が亡くなったとき、ひとりになったお母様の元へ「すぐに引っ越そう」という決断を下したところは、すごいと思いました。9割の男性はできませんよ。
Mio:そうなんです。いい人なんです。
足立:「セックスが痛い」ことで、どんどん関係が破綻してゆき、愛せなくなり、離婚するまでの経緯が描かれていますが、それでも離婚に至るまでは何年も要しているので、痛みがありながらも「それさえなければ最高の人だったんだろうな」というふうに読みました。僕が読んでいて気になったのは、Mioさんはあまりにも自分を責めすぎなのでは? というところです。