
マスクも品薄状態に。(著者撮影)
中国の武漢で最初の感染者が確認された「新型コロナウイルス」は、日本や韓国、台湾などアジアを中心に、さらにはヨーロッパや北米でも感染者が確認されるなど広がり続けている。
韓国においては武漢からの旅行者が1月20日に感染が確認されて以降、「新型コロナウイルス」に関連した報道が一気に過熱した。2月3日現在まで15名の感染者が確認されている。
中国は隣国であり、また中国の「春節」と同じく韓国でも旧正月の連休も重なったことから多くの観光客が中国から訪れていたという状況下で感染者の発見、拡大へとつながっているといえる。
5年前の苦い記憶
今回「新型コロナウイルス」という新たな伝染病の流行の兆しに直面し、韓国内でも不安や危機感が日に日に高まっている中で思い出されるのは、2015年5月に韓国で発生したMERS(中東呼吸器症候群)での混乱である。
MERSの際は中東から帰国した男性が韓国で最初の感染者となり、男性が入院していたソウル近郊の病院から各地に広がりを見せた。6月に感染はピークに達し、死亡者は38名、感染者は186名で最終的な終息宣言が出されたのは12月で沈静化までに半年以上を要した。
MERS流行時の韓国内の混乱の引き金となったのは、当時の政府の対応が後手に回ったからであった。朴槿恵大統領(当時)は前年のセウォル号の沈没事故でも対応の遅れに国民からの非難にさらされ、支持率も低迷を続けていた。当時の政府の発表やマスコミの報道を回想すると、政府が現状の把握から発表を行うまでに時間がかかっていた上、感染者数や動向についても内容が二転三転することを繰り返していた。
また、政府の初動対応の遅れに加えて、韓国の医療施設の環境が感染を加速させたとも指摘されていた。韓国の病院は、入院患者に対する看護ケアは24時間の完全看護ではない。看護師が対応するのは日中のみで、夜間は(ナースステーションに待機している夜勤の看護師は1、2名程度いるものの)入院患者の家族または「看病人」と呼ばれる患者の付添をする人を雇うなどする。このため、病院の出入りも実質上、24時間自由にできるというわけである。
つまり、不特定多数の人がいつでも出入りできてしまう状態であることが感染を広げた、という見方が容易にできる。こうした要因が重なり、国民の不安や政府に対する不信感が高まり、一種の「集団ヒステリー」のような状況になった。人々が消毒液やマスク、ハンドソープを買い漁ったり、真偽不明の内容がSNSなどを通じて広まったりと、さらに混乱に陥ったのだ。
積極的な情報開示をアピールした韓国政府
そんな当時の苦い記憶があってか、今回の新型コロナウイルスに対する政府や国民の反応は敏感であったという印象だ。
まず、1月20日に最初の感染が確認されると同時に政府は国民に向け発表し、速報を流した。その後、韓国に旅行に来ていた中国人観光客の感染にとどまらず、24日に武漢から帰国した50代の韓国人男性の感染を確認、さらに30日には武漢または中国に渡航歴のない同じく50代の韓国人男性も確認され、保健福祉部(日本の厚生労働省に相当)は「3次感染の可能性が高い」と発表した。
また、武漢に在留している韓国人の帰国のために、現地にチャーター機を派遣する方針を1月25日に発表、大韓航空がフライトを受託することになった。中国側や帰国者との調整に時間を要したが、武漢に向けて30日、31日の2便に分けて運行し、計701人の帰国者をソウルに連れ帰った。
このチャーター機の派遣にあたって外交部(日本の外務省に相当)は、搭乗者に対して搭乗費の負担や搭乗における条件や注意事項を具体的に案内。外交部の資料によると搭乗費の負担は大人30万ウォン(日本円で約27,000円)、小人は22万5,000ウォン(同約20,000円)となっていた。
SNSや公共交通機関での呼びかけも活発化
自治体の情報発信も活発化している。例えば南部の都市・釜山市では市役所だけではなく、警察署、保健所、教育庁などがSNS等を通じての情報発信を行っている。
1月27日に武漢から釜山に滞在していた女性に発熱の症状があり、新型コロナウイルス感染の疑いがあるため女性が検査中であること、検査結果が出る時間といった詳細を保健所が市民へメールで一斉に送信した。結果的にこの女性は陰性が確認されたものの、以後もSNSだけでなく公共交通機関でも感染の予防としてマスクの着用、手洗い、うがいの励行を呼びかけたり、地下鉄やバスの車両の消毒を行っていることなども伝えている。
ここまでの動きを見ると、5年前の不手際とは対照的に政府と関係機関、及び自治体が連携し、国民に積極的に情報提供や呼びかけを行っているという印象を受ける。
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