
「Getty Images」より
本当の年金未納率は、約2.3%
公的年金を払っていない、いわゆる“未納”の人が4割もいる、ということが報道されることがあります。この表現だけを見ると、日本人の4割が年金保険料を納めていないと勘違いしてしまいますが、それは明らかに間違いです。これは日本人の4割ではなく、第1号被保険者、すなわち自営業やフリーランス、無職、学生といった人たちのうち、納めるべき月数の6割しか納められていないことを「4割未納」と称しているのです。
そもそも年金保険料を納付すべき対象者は日本全体では6731万人いますが、このうち、第1号被保険者は1505万人です。このうち、完全にきちんと保険料を納めている人は774万人です。さらに残りのうち、何らかの事情(所得が少なくて余裕がない、あるいは震災等の被害で財産の多くを失ってしまった等々)によって保険料を払うことができない人は、申請することで免除者や特例猶予者になることができます。これらの人は払わなくてもいいと認められた人で、その数は574万人います。
ということは、すなわち第1号被保険者全体の1505万人から納付している774万人と免除されている人の574万人を引けば、残りの数は157万人ということになります。つまり、払わないといけないにもかかわらず、確信犯的に払っていない人は157万人です。
したがって、本当の未納率は157万人÷6731万人ですから、約2.3%ということになります。よく「4割も未納の人がいるから日本の年金制度は破綻する」という人がいますが、この数字を見れば、いくら何でもそれは言い過ぎだということがわかるでしょう。
それでも未納の人はいないほうが良いに決まっているのですが、仮にこの人たちが今後も保険料を払わなかったとしても年金制度が破綻することはありません。なぜなら、保険料を払わなかった人には年金を支給することはなく、年金の財政にとってはほとんど影響がないからです。それどころか、年金保険料を払わない人は明らかに損をすることになります。なぜそうなるのか、その理由は年金制度全体の仕組みを考えればよくわかります。
保険料を払っていない人は年金を受け取る権利もない
第1号被保険者はサラリーマンと違って基礎年金しかありませんが、この基礎年金は半分が保険料、そして残りの半分が国庫負担となっています。国庫負担ということは、すなわち税金でまかなわれているということです。年金保険料を払わない人はいたとしても税金を払わない人はいないでしょう。なぜならそれは脱税行為で、納めなければ処罰されるからです。
年金保険料を払わなかった人に年金は一円も支給されないのです。「年金保険料は払わなくても税金は払ったのだから半分は支給してほしい」と思うかもしれませんが、そうはなりません。そもそも年金は社会保険制度であり、賦課方式ですから、保険料を払うという行為は、将来年金を受け取る権利を購入していると考えていいのです。その保険料を払っていないわけですから、年金を受け取る権利もありません。ということは、年金保険料を払わなかった人は自分が払った税金の分について、まるまる損するということになってしまうのです。
サラリーマンであれば、こういう心配はありません。なぜなら、年金保険料は給料から天引きされていて未納になることはありえないからです。ところが自営業やフリーランスの人の場合は、自分で保険料を納めなければなりません。だから157万人の人が未納になってしまっているのです。
しかもサラリーマンに比べると自営業の人たちの年金は、厚生年金がありませんから非常に少なくなっています。とはいえ、やはり老後の生活のベースになるのは公的年金です。公的年金は終身、すなわち死ぬまで支給されるからです。だからこそ余計に自営業の人は意識して年金保険料を払っておかないと、明らかに損をすることになりかねません。
もちろん自営業の場合は厚生年金がない分、サラリーマンには利用できない「小規模企業共済」や「国民年金基金」、あるいは「個人型確定拠出年金」といった税制優遇の手厚い制度が多くあるので、それはおおいに利用すべきです。ところがこの「国民年金基金」や「個人型確定拠出年金」も、国民年金の年金保険料をきちんと払っておかないと利用できません。せっかく所得控除が使えて掛け金によっては毎年何十万円も戻ってくる制度が年金保険料を払っていないことで使えないというのは残念な話です。
本来、公的年金制度の役割は「防貧機能」にあります。すなわち、その本質は「貯蓄」ではなく「保険」なのです。貯蓄が将来の楽しみに備えて自分で準備するものであるのに対し、保険は将来のリスクに備えてみんなで支えるものです。この場合のリスクとは年を取って働けなくなるリスクであり、その時は必ずやってきます。だからこそ年金制度は多くの人によって支えていく必要があるのです。国の年金だけには頼らない、自助努力が大切だというのは心構えとしては必要ですが、まずベースとなる国の年金制度をフルに利用することから始めるべきではないでしょうか。