『チャーリーズ・エンジェル』は「フェミニズム的に問題がある」の問題

文=北村紗衣
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新しいエンジェルたちは?

 2019年版のリブートは女性であるエリザベス・バンクスが監督し、エンジェルたちの人種もサビナ(クリステン・スチュワート)が白人女性、ジェーン(エラ・バリンスカ)が黒人女性、エレナ(ナオミ・スコット)が南アジア系で、多様性のあるものになっています。

 新任のボスのひとりについてもバンクス監督が演じている他、ヘイリー・スタインフェルドやラヴァーン・コックスなど、若い女性に人気のありそうな女性スターが大挙カメオ出演していたり、性差別と戦ってきた最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグが昔エンジェルだったという話が出てきたり、フェミニズムを意識しているところがあります。公開前なのでネタバレは避けますが、お話のほうも男性の横暴な振る舞いにエンジェルたちが対抗するというような要素が多くなっています。

 そんな新作ですが、先述の通りフェミニズム的メッセージに問題があるとしてしばしば批判されています。

 上のレビューでは‘corporate feminism’「コーポレート・フェミニズム」という言葉が使われていますが、これは仕事での成功を目指しているミドルクラスの白人女性の価値観に迎合するようなフェミニズムに対する俗称で、企業が女性の歓心を買うためマーケティングに採用するようなタイプの、穏健で資本主義と矛盾をきたさないアプローチを指します。つまり新『チャーリーズ・エンジェル』の内容は、女の子は何でもできる、誰でも頑張れば成功できる、的な上っ面のメッセージだけだということです。

 『チャーリーズ・エンジェル』はもちろんそういう大変軽薄な映画で、女性が労働において直面する問題とか人種差別とかは全く掘り下げていません。しかしながら、私が指摘したいのは、そもそもこの手のもとからアホっぽいことを想定して作られているアクションコメディ映画でそれ以上のことができるのか、ということです。

 『チャーリーズ・エンジェル』はもともと仕事で成功している優秀な女性たちが大暴れするのを見てスカッとするための映画で、たぶんどんなに頑張っても「女の子は何でもできる」「誰でも頑張れば成功できる」的な軽薄な励まし以上に深いメッセージは表現できません。

 このように、フェミニズム的要素を取り入れたものはなぜか(本来ではターゲットではないはずの)全ての層の要求にかなうものであることを求められる、というのはよくある話です。

 『バッド・フェミニスト』の著者であるロクサーヌ・ゲイは、コーポレート・フェミニズムの代表例としてしばしば批判されるシェリル・サンドバーグの『リーン・イン』について、批判はしつつも「フェミニズムやフェミニストを理にかなってない基準で考える傾向があると思うんです。ジャック・ウェルチ[訳注:ジェネラル・エレクトリックの伝説的経営者]に、労働者階級の男性に向けてCEO啓発本を書いたほうがいいなんて誰も言わないでしょう」と述べています。

 つまりゲイは、『リーン・イン』はものすごく特定の層に特定のやり方でアピールすることだけを考えて書かれたビジネス書なのでたぶん偏っていて当然なのだが、フェミニズムの本だというだけで全女性の問題をカバーしていないという批判にさらされており、これはそんなに生産的ではないだろうということを言っています。

 おそらく『チャーリーズ・エンジェル』にもこれは言える……というか、この映画は現実逃避のためにカッコいいスターの活躍を見たい女性客を楽しませるためだけに作られた作品で、それ以外の目的はおそらく一切、ありません。

 たとえば『ワイルド・スピード』シリーズについて、協力して頑張ればうまくいくというメッセージを軽薄に発しており、お客さんを安直にいい気分にさせるだけの映画だという批判は可能ではあるものの、いやまあそういうことを目的に作っている映画だし、この手のアクションフランチャイズはほとんどそうなので……ということになってしまうと思います。

 これはジャンル自体に内在している問題なので、ジャンルを問い直すような極めて革新的で独創的な作品を作らないかぎり、たぶんこの限界は突破できません。そして、たいして革新的でも独創的でもないしょうもない映画でちょっとずつ新しいことが試されることの繰り返しにより、ジャンルが少しずつ変わっていくのです。

 『チャーリーズ・エンジェル』新作は、全然革新的なところはない映画です。半端にフェミニズムを盛り込んだせいでアホさが足りなくなったというような評価も可能だと思います(私はそう思っています)。しかしながら、もともと軽薄きわまりない映画に軽薄だという批判をしてもそんなに意味はないでしょう。もともとこのフランチャイズはアホなシリーズであり、アホな映画にはアホなりの評価の仕方があります。

参考文献

ロクサーヌ・ゲイ『バッド・フェミニスト』野中モモ訳、亜紀書房、2017。
シェリル・サンドバーグ『リーン・イン:女性、仕事、リーダーへの意欲』川本裕子、村井章子訳、日本経済新聞出版社、2018。

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