
(左)業務スーパー(画像はWikipedia/阪神強いな)/(右)成城石井(画像は公式Instagramより)
近年のネットスーパーの台頭や、昨年の消費増税による消費の冷え込みによって逆風が吹くスーパーマーケット業界。そんな中、独自の存在感を発揮して売り上げを伸ばしているのが「業務スーパー」と「成城石井」だ。
格安・大容量で進化を遂げる庶民向け「業務スーパー」と、高級路線で躍進する「成城石井」。真逆の方向性に舵を振り切る2ブランドは、どんな生存戦略で成功しているのだろうか。中小企業診断士で日本経営コンサルタント株式会社・商人ねっと株式会社の代表をつとめる水元仁志氏に分析してもらった。

水元 仁志(みずもと・ひとし)
経済産業大臣登録 中小企業診断士。日本経営コンサルタント株式会社・商人ねっと株式会社 代表取締役。日本コトPOPマイスター協会会長。スーパーマーケットのコンサルティングの他、“小売業の縁の下の力持ち企業”を目指し、流通業専門インターネット教育サイト「商人ねっと(あきんどねっと)」を企画、運営している。主な著作に『スーパーマーケットの新常識2』、『スーパーマーケット近未来戦略』などがある。商人ねっと
「業務スーパー」と「成城石井」の独特な立ち位置
まずは、競合ひしめくスーパーマーケット業界の勢力図を整理してもらおう。
「業界の最大手は『イオン』をはじめ『マックスバリュ』や『ダイエー』などを擁するイオングループですね。次点が『イトーヨーカドー』や『ヨークベニマル』などを運営するセブン&アイ・ホールディングスです。ここが二大巨頭といっていいでしょう。
その後に続く企業は、2018年に『ドン・キホーテ』の親会社に買収された『ユニー』、次に『ライフ』が続くという構図です。こうした大勢力が陣取るスーパー業界のなかで、売上規模は及ばないながらも着実に成長してブランドイメージを浸透させているのが『業務スーパー』と『成城石井』です」(水元氏)
業務スーパーは“食料品のユニクロ”
続いて、「業務スーパー」の意外と知られていない戦略について聞いた。
「特徴は“製販一体のビジネスモデル”でしょうね。スーパーマーケットという業態は、基本的に“メーカーが作ったものを、卸売業者を通じて販売する”というスタイルですが、業務スーパーはこの仕組みを全て自社で行っています。商品をかなりの低価格で提供できるのもそのため。いわば“食料品のユニクロ”のようなイメージを持っていただくとわかりやすいでしょう。さらに業務スーパーは、中国の内地や東南アジアといった人件費の安い地域で製品を製造しているため、人件費の面でもかなりコストを抑えられているのです」(水元氏)
水元氏は「業務スーパーにはもうひとつ、『EDLP』という特徴もあります」と続ける。
「『EDLP』とは『Everyday Low Price』の略。これは、スーパーの目玉イベントである“特売日”を設けずに、年間を通して商品を低価格で提供するスタイルのことです。業務スーパーのブランドイメージとしても定着していますよね。メリットは、特売日にいちいち値段を張り替えたり、チラシを作ったりする手間が要らないので、ここでも人件や販促費といったコストを抑えられること。商品を安く提供することができる要因のひとつにもなっています。
そもそも業務スーパーは“業務”と名がつくように、飲食店の買い出し需要などに向けていた業態ですので、既存のスーパーとは異なる戦略を早い段階で構築できていたんだと思います」(水元氏)
そんな業務スーパーは今、主婦層だけでなく若い世代にも受けているという。
「タピオカドリンクの大ブームの際に、業務スーパーの『タピオカミルクティー』(321円、税込)がSNSで大人気になりました。これはタピオカミルクティーの素が入った袋と専用の太いストローが入った商品で、湯煎して牛乳や氷と混ぜるだけで出来上がるというインスタント商品。別売りの牛乳を含めても一杯たった110円程度という驚異的な安さで、気軽にいつでもタピオカが飲めると評判になったのです。
また、テレビで紹介された『リッチチーズケーキ』も爆発的な売れ行きです。500gという大容量で味もいいのに299円(税込)というコスパの良さが人気です。格安かつキャッチーな商品を少しずつ増やしているのも若い世代を狙った戦略と言えるでしょう」(水元氏)
「成城石井で買っている」というステータス感
一方で、ちょっとお高めの良いスーパーといったイメージがある「成城石井」。こちらにはどのような戦略があるのだろうか。
「まず特徴的なのは、“他のスーパーマーケットにはない高品質”を意識した商品ラインナップでしょうね。それが消費者にとって『成城石井に行かなきゃ買えない』という心理をもたらし、集客につながっているのだと思います。また、多少値が張っても『成城石井で買っている』というステータス感が得られるのも人気の秘密なのではないでしょうか。
店舗の立地にも大きな秘密があります。成城石井は、他のスーパーのようにロードサイドや駅前に大きな店を構えず、むしろ主要な路線の駅ナカや駅ビルを中心に小規模店舗を出店しています。駅を毎日利用する人の大半は会社勤めの方。つまり、比較的安定した収入がある層をピンポイントでターゲットにしているというわけですね。
ですから価格帯は少し高めにしつつ、最寄り駅以外で購入してもかさばらないよう野菜や肉・魚などの生鮮食品は少なくして、代わりに自慢のお惣菜やデザート類を充実させています。生鮮食品が少ないからこそ店舗も駅ナカサイズに収まっているわけで、競合相手と同じ土俵に立たない戦略ですね」(水元氏)
では、成城石井の“自慢のお惣菜”にもなにか秘密があるのだろうか。
「成城石井は、東京郊外の南町田に自社製品を製造する工場を二つ持っています。ひとつがパンとスイーツを製造する工場、もうひとつが自家製のお惣菜を製造する工場です。その工程のほとんどが、手間を惜しまぬ手作業。メニューの開発や調理指導を担当するのは有名ホテルやパティスリーで修行を積んだ職人たちです。成城石井はデパ地下を競合相手に想定しており、そんなこだわりが“成城石井のお惣菜は高いけどおいしい”というイメージをもたらしているのでしょう」(水元氏)
“隙間”をついて生き残る
格安・大容量の「業務スーパー」と、割高・高品質の「成城石井」。真逆の路線を歩む2ブランドだが、実は共通する部分もあるという。
「業務スーパーは飲食業者向けからスタートして低価格を実現。成城石井はデパ地下ほど高くないけれど高級感のある商品を揃えている。どちらも大手とは微妙に競合しない、いわば“隙間”をうまく突いていると言えます。また、バイヤーが海外の商品を多く仕入れていることも共通していますね。といっても国は違っていて、業務スーパーはアジアの珍しい商品を多く買い付けて、成城石井はヨーロッパ系の食材やワインなどを数多く取り揃えています」(水元氏)
では最後に、水元氏は今後のスーパー業界をどう見るか。
「大手が生き残っていくのは当然として、そこまで規模が及ばずとも生き残っていくスーパーには“自ら商品を開発・調達する”ことが求められます。それが独自のブランドイメージに直結しますし、他店がメーカーに価格のイニシアチブを取られている今の状況において、価格競争に乗り出しやすいからです。他にも、ネット販売に対抗するために、あえてイートインコーナーを充実させるなど“実際に店舗に行かないと味わえない魅力”に力を入れていくことも肝要になってくるのではないでしょうか」(水元氏)
移りゆく時代のなかで、独自の地位を確立した「業務スーパー」と「成城石井」。どの業界においても、生き残るためには彼らのような生存戦略が大切になっていくのかも知れない。
(文・取材=A4studio)