ジェニファー・ロペスがトランプの蛮行に物申す!〜スーパーボウル/ハーフタイム・ショー

文=堂本かおる
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写真:AP/アフロ

 アメリカがカオスである。大統領選が近づき、政界も一般市民も毎日が感情のジェットコースターである。特に2月の第1週は正気の沙汰ではなかった。

 全米を賑わすスーパーボウルとアカデミー賞、そして大統領による一般教書演説は毎年この時期の恒例だが、今年は同時期に4年に1度の大統領選の予備選がスタートし、さらに米国史上3度目の大統領弾劾裁判も加わってしまったのだった。

2/2(日)スーパーボウル
2/3(月)大統領選:アイオワ州党員集会
2/4(火)大統領一般教書演説
2/5(水)大統領弾劾裁判投票
2/7(金)大統領選:民主党ディベート
2/9(日)アカデミー賞

 2日にスーパーボウルがあり、全米がビールとピザを片手にアメフトと、ハーフタイム・ショーでのジェニファー・ロペスとシャキーラのヒップに熱狂した。

 翌3日、2020大統領選の予備選の幕が切って落とされた。長いキャンペーン期間を経て、ついにアイオワ州にて第一弾が行われたのだ。ところが集計アプリの不調によって結果が出ないという、思わぬ惨事となった。

 翌4日は毎年恒例の一般教書演説だった。大統領が政策と展望を語る演説のはずが、トランプは自身の選挙キャンペーン・イヴェントのごとき茶番劇としてしまった。

 その翌日、トランプ弾劾裁判の最終日であった5日には、上院議員による投票が行われた。上院は共和党多数であるため、トランプは「無罪」となった。

 中一日空けた7日、次のニューハンプシャー州での予備選に向けての民主党候補者のディベートが開催された。これまではお互いにフレンドリーだった候補者たちが、いよいよ牙をむき出し、出し抜き合いを開始した。

 9日はアカデミー賞、またもやエンタメ・ナイトである。そもそもスーパーボウルの前週にはグラミー賞もあった。華々しいセレブ・イヴェントとアメリカの未来を左右する政治イヴェントが連続し、もはや全米を挙げての躁状態である。

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 今年のスーパーボウルのハーフタイム・ショーに抜擢されたのは、ジェニファー・ロペスとシャキーラだった。ジャニファーはプエルトリコ系、シャキーラはコロンビア人だ。トランプの残酷な移民政策ーーメキシコとの国境で移民を環境劣悪な収容所に入れ、親子を引き離すなどーーが大きく批判されている。スーパーボウルの大ステージでラティーナの2人が政治的メッセージを発するかが注目された。

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ジェニファー・ロペスがトランプの蛮行に物申す!〜スーパーボウル/ハーフタイム・ショーの画像1
ジェニファー・ロペスがトランプの蛮行に物申す!〜スーパーボウル/ハーフタイム・ショーの画像2 ウェジー 2019.07.25

 2人は持ち前のセクシーさを炸裂させた。共にヴェルサーチのコスチュームをまとい、シャキーラは「オーラ!マイアミ!」とスペイン語でステージを開始し、アフロ・コロンビアン・ダンスに加え、レバノン系でもあることからアラビック・ダンスも披露した。

 ニューヨーカーであるジェニファーはエンパイアステート・ビルのセットから登場し、「フロム・ニューヨーク、ブロンクス!」と叫んだ。ブロンクスは大きなラティーノ・コミュニティがあり、ジェニファーもそこで生まれている。シャキーラはロープを使った意味深なダンス、ジェニファーはポールダンスに挑み、大喝采を浴びた。ただし、SNSには「子供も観ていたのに」「カメラがジェニファーの股間を写し過ぎ」などの批判も寄せられた。

 だが、ラティーナとしてのメッセージは確実に発せられた。

 後半、ステージにラティーノの少女たちが登場した。少女たちが入っている白い鳥カゴのようなものは、移民たちが押し込められている収容所のケージを表していた。ソロを歌う少女はジェニファーと元夫でサルサのスーパースター、マーク・アンソニーとの娘である11歳のエミーだ。エミーには双子の弟がいるが、この夜のステージは「女性」もテーマとしていたためジェニファーはエミーのみを出演させたのだ。

 やがてエミーの横に母親のジェニファーが現れる。これもヴェルサーチによる星条旗のコートを纏っている。その星条旗を大きく開くと、内側はプエルトリコの旗となっていた。ここでエミーがブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・USA(アメリカで生まれた)」を歌う。エマも含め、少女たちが着ている白いフーディーにはシルバーの星条旗が描かれている。

 このシーンには多少の解説が必要だ。ジェニファーはラティーナとして、ラティーノがターゲットとなっているトランプの移民政策にアンチを唱えた。だが、プエルトリコは米領である。つまり島民はアメリカ人であり、島から本土に移住しても移民ではない。多くのアメリカ人はこれを知らない。かつて、やはりニューヨーク生まれのプエルトリコ系で元夫のマーク・アンソニーがメジャーリーグの開会式でアメリカ国歌を歌った際、「どうしてメキシコ人に歌わせるんだ?」というクレームが出たほどだ。

 プエルトリカンは島の文化と歴史をプライドとし、同時にアメリカ人としてのアイデンティティも持ち、プエルトリコ旗と星条旗の両方を掲げる。これが2枚の旗と「ボーン・イン・ザ・USA」の理由だ。

 プエルトリコは2017年の超大型ハリケーン・マリアによって壊滅状態となったが、トランプは復旧支援を進めておらず、事後も病院の機能不全などで多くの死者が出た。追い討ちを掛けるように今年は大きな地震も続いている。プエルトリコ系のトランプへの怒りと不信は強烈だ。

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ジェニファー・ロペスがトランプの蛮行に物申す!〜スーパーボウル/ハーフタイム・ショーの画像2 ウェジー 2017.10.05

 スーパーボウル当日、ジェニファーはシャキーラに向けてメッセージを発していた。

「2人の小さなラテンの女の子に何ができるか、世界に見せよう!」

 2人は体格こそ小柄ではあるが、世界に名を知られるトップ・レベルのベテラン・エンターテイナーだ。年齢も50代と40代である。決して「小さな女の子」ではない。

 ジェニファーのメッセージは民族的マイノリティであり、さらに女性であることから常に「リトル・ラテン・ガール」扱いをされ、いろいろな不利を被ってきたが、それを才能と実力によって吹き飛ばしてみせるという意気込みだった。

 だからこそ娘エミーの「ボーン・イン・ザ・USA」に続けて、ジェニファーは自身のヒット曲「レッツ・ゲット・ラウド(さぁ、ハデにやろう)」を歌い、そこにシャキーラも飛び込んだ。ラティーナのパワーを世界に存分に見せつけ、ステージはエンディングを迎えたのだった。

トランプの演説を破り捨てたナンシー・ペロシ上院議長

 スーパーボウルの2日後、トランプの一般教書演説が行われた。毎年、年初に大統領が米国議会議事堂で上下両院の全議員を前に、政策の現状や展望を語る恒例の演説だ。全ネットワーク局、CNNやMSNBCなどケーブル・ニュース専門局などが全米中継する。

 今年は大統領の弾劾裁判投票の前日という前代未聞の事態となった。たとえ弾劾裁判中であっても現役の大統領であることに変わりはないためだ。しかし、一昨年の中間選挙で旋風を巻き起こして当選したアレクサンドラ・オカシオ=コルテス、脱毛症となり、すべての頭髪を失ったことをスカーフもカツラもつけない姿で公表したアヤナ・プレスリー、舌鋒鋭くトランプを批判し続けるベテランのマキシン・ウォーターズなど民主党の議員10名がボイコットを表明し、議事堂に現れなかった。一方、参列した女性議員たちは米国の女性参政権100周年を祝い、全員が純白のスーツ姿で現れた。

 トランプはマイノリティや女性への差別発言を繰り返してきた人間だが、そのトランプが演説中、唐突にラッシュ・リンボーに「大統領自由勲章」を与えた。これには誰もが驚愕した。ラッシュ・リンボーは際立ったレイシストとして知られる、極右のラジオ・パーソナリティだ。黒人への差別発言を頻繁に行うが、ヒスパニック、アジア系、イスラム教徒、ゲイ、女性、身体障害者と、トランプ同様に「白人・男性・異性愛者・保守派・クリスチャン」以外は全てを口汚く罵る。

 中でも史上初の黒人大統領となったバラク・オバマに対しては立候補時から度を超えた罵詈雑言を浴びせており、自身の番組で「バラク・ザ・マジック・ニグロ」と題した曲を流すことさえした。ヒスパニックについては「バカでスキルのないメキシコ人」、アジア系に関しては「日本語も中国語も区別がつかない」と言い、フェイクの中国語の音真似をした。パーキンソン氏病を患う俳優のマイケル・J・フォックスを真似たこともある。クリントン、カーターが大統領時に、それぞれまだ未成年だった娘たちを「これまでの大統領の娘の中で一番醜い」「イヌ」と呼ぶことすらしている。

 リンボーはもちろんトランプと親しい。このリンボーは、一般教書演説の前日に進行性の肺ガンであることを公表していた。翌日、本来は文化や平和に貢献した人物に授与される自由勲章を、トランプはリンボーに与えたのである。

 アメリカの自由(Freedom)が根幹から崩れ落ちた瞬間だ。

 しかし、トランプのアメリカ蹂躙行為を許さない者がいた。下院議長のナンシー・ペロシである。

 演説時、下院議長は副大統領とともに大統領の背後に座っている。他の女性議員と同様に純白のスーツを着ていたペロシは、トランプの演説が終了した際、あらかじめ手渡されていた演説のコピーを破り捨てたのである。その瞬間が全米に放映されることは、承知の上のことだった。

 このペロシも演説が始まる時には礼節を守り、トランプと握手すべく、手を差し出した。ところがトランプは満場の議員とテレビカメラの前で、下院議長であるペロシとの握手を拒んだのである。

 アイオワ州党員集会の勝者はまだ判明していない。バーニー・サンダースとピート・ブートジェッジの得票差がわずか0.1%と出ており、数え直しの要請が出ている。民主党は機能しなかった集計アプリの責任を巡って内輪揉めをしている。

 11日(火)には予備選第2弾がニューハンプシャー州で行われた。接戦の末、サンダースが勝者、ブートジェッジは次点と見做されている。あれほど優勢だと思われていたジョー・バイデンとエリザベス・ウォーレンはまさかの惨敗となった。代わりにエイミー・クロブシャーが票を伸ばした。 政治家ではなく、全くの無名からベーシック・インカム制度を訴えて旋風を巻き起こしたアジア系のアンドリュー・ヤンも振るわず、ついに戦線離脱を表明した。これで主だった候補者陣からマイノリティが消えてしまった。何もかもが、まさに混沌である。

 3月3日には予備選が14州で一斉に行われるスーパー・チューズデイを迎える。

 アメリカの混沌はまだ続く。
(堂本かおる)

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