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金の価格が40年ぶり高値! なぜ人は「金を買う」のか知っている?

文=木村貴
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「GettyImages」より

 金価格が歴史的な高値に上昇している。国内での販売価格は1グラム当たり6000円を突破し、40年ぶりの高値である。金価格は昨年からじりじり上昇しており、今年に入ってからも勢いが衰えない。

 金が買われる理由として、経済ニュースではいくつかの要因をあげる。米国の利下げ、米中貿易摩擦の激化、米軍によるイラン革命防衛隊の司令官殺害をきっかけとした中東情勢の緊迫などだ。

 けれども、これらの一見バラバラな出来事がなぜ金価格の上昇につながるのか、よくわからない人もいるのではないだろうか。じつは、ニュースでは説明を省いてしまう場合が多いが、金が買われる背景には、共通する根本原因がある。それは「インフレへの恐れ」である。

インフレはお金の価値が下がり、デフレはお金の価値が高まること

 私たちは普段、中央銀行が作った紙幣(お札)をお金として使っている。紙幣はその名のとおり、紙でできているので軽く、持ち運びに便利というメリットがある。もちろんデメリットもある。それは、お金としての価値が減る危険にさらされる点だ。

 私たちは日頃、物の価値を測るモノサシとしてお金を使っている。1万円のゲームソフト、10万円のスーツといった具合だ。だから、お金そのものの価値と言われると、それが増えたか減ったかをどうやって測るのか、ピンとこないかもしれない。

 物の価値をお金で測るのと逆に、お金の価値は物で測る。ネットショッピングで、あるお菓子の10個セットが今日1000円で、1年後に2倍の2000円に値上がりしたとすると、そのお菓子で測ったお金の価値は半分に減ったことを意味する。同じ1000円で半分の5個しか買えないからだ。逆に、同じお菓子セットが半分の500円に値下がりしたとすると、そのお菓子で測ったお金の価値は2倍に増えたことを意味する。同じ1000円で2倍の20個買えるからだ。

 ただし、物の値段は特殊な理由で上下することも少なくない。お菓子が値上がりしたのは芸能人に紹介されて人気になったからかもしれないし、値下がりしたのは健康に害があると報道されたからかもしれない。

 だから、お金の価値の変化をより正しく測るには、いろいろな物の平均的な値段(物価)を調べる必要がある。その結果、もし物価が1年で2倍に上昇したら、お金の価値が半分に減ったことを意味する。同じ金額で買えるものが半分に減ってしまうからだ。逆に物価が半分に下落したら、お金の価値が2倍に増えたことを意味する。同じ金額で買えるものが2倍に増えるからだ。

 物価が上昇することをインフレ、下落することをデフレと呼ぶのは、知っている人も多いだろう。これをお金の側からみれば、インフレとはお金の価値が下がること、デフレとはお金の価値が高まることを意味する。とくにインフレは、お金の価値が下がるわけだから、お金を持っている人にとって、とても怖いことだ。

緩やかなインフレでも、お金の価値が失われることに変わりはない

 さきほど説明をわかりやすくするために、物価が1年で2倍になるとか半分になるとか極端な例を使ったが、そうした激しい変化が現実に起こることもある。第一次世界大戦後のドイツでは、物価が384億倍になるというすさまじいインフレが起こった。このように急激なインフレをハイパーインフレと呼ぶ。ドイツではハイパーインフレの結果、通貨であるマルクの価値が384億分の1、ほとんどゼロになってしまった。

 当時の写真で、子どもがマルク札をおもちゃにして遊んでいるものがある。お札の価値が紙くず同然になり、おもちゃにしても大人に叱られないからだ。

 こんなエピソードもある。ドイツ人の兄はまじめでこつこつと働き、お金を貯めることが生き甲斐だった。一方、飲んだくれの弟は毎晩ビールばかり飲んでいた。ところがインフレの結果、兄は貧乏になり、弟は金持ちになった。お金の価値がなくなったのに対し、裏庭に捨てた空のビール瓶の価値が上がったからだ。

 日本でも第二次世界大戦終結直後、急速なインフレが起こった。こつこつ貯金し続けた国民の財産は、実質無価値になってしまった。

 急激ではなく、緩やかなインフレでも、お金の価値が失われることに変わりはない。そのスピードが速いか遅いかの違いだけだ。物価が毎年3%上がり続ければ、約24年で2倍になる。つまり、お金の価値が半分になる。

 最近話題の老後資金の議論では、今がデフレのためか、インフレによる財産の目減りの可能性がほとんど無視されている。60歳の定年退職までにある程度まとまったお金を貯め、これで老後は安心だと思っても、84歳までに価値が半分になってしまったら、豊かなシニアライフどころではないだろう。今デフレだからといって、将来インフレにならない保証はない。

お金の供給が増えれば、金の人気をもたらす

 インフレへの恐れが金の買いに結びつくヒントも、じつはその中にある。

 ドイツのビール瓶のエピソードが示すように、お金が価値を失うインフレの際、財産を守る頼りになるのは、物である。ビール瓶や空き缶でもいいが、まとまった財産として保管したり持ち運んだりするには、大量になり、重くてかさばるという難点がある。

 その点で優れているのは、宝石や高級絵画だ。宝石はもちろん、絵画もいざとなれば額から外して丸めることで、軽くなり持ち運べる。

 それ以上に優れているのが金だ。金は腐食せず、長期にわたり美しい輝きを維持する。柔らかいのでダイヤモンドなどと違い加工しやすく、小さく分割でき、しかもそれぞれが均一の品質を保つ。人工的に作り出すことができないため、ビール瓶や好きなだけ印刷できるお札と違い、大量に出回って価値が落ちることもない。

 金にはこうした長所が多くあるため、古くからお金として利用されてきた。お金の代わりに使われたのではなく、金の延べ棒や金貨がお金そのものだった。

 今は金がお金として使われることはなくなったが、物としての長所は変わらない。だからインフレの恐れが高まると、金を買い求める人が増えるのだ。

 米国の利下げは、中央銀行である連邦準備理事会(FRB)が市場の金利を下げるため、より多くのお金を供給することを意味する。米中貿易摩擦の激化は、それによって景気が悪化するのを防ぐため、やはりFRBがお金の供給を増やす。中東情勢の緊迫は関係国の軍事費増大を招き、それをまかなうため、これもお金の供給増加につながりやすい。

 どの出来事も、お金の供給増加につながる。お金の供給が増えれば、その分、お金の価値が下がる、つまりインフレになる恐れが高まるから、金の人気をもたらすのだ。

 すでに触れたように、日本ではデフレが続いているから、インフレへの備えといっても現実味がないかもしれない。だが、政府・日本銀行が金融緩和政策でお金の供給を増やし続ければ、やがて目に見える物価上昇となって降りかかってくる恐れは小さくない。金を買う理由を理解したうえで、財産を守る手段として購入を検討する価値はあるだろう。

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