児童虐待はなぜ起こるか、加害親にスポットライトをあてた『あさイチ』

文=中崎亜衣
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「GettyImages」より

 兵庫県神戸市の児童相談所・神戸市こども家庭センターが、深夜に助けを求めてきた小学6年生の女子児童を保護せず、追い返していたことが明らかになった。

 報道によると今月10日、夜間受付にひとりで訪れ女児は、「親から家を追い出された」と訴えたが、市からの委託で当直業務を行っていたNPO法人の男性職員は、児童の名前や年齢も確認せず、インターフォン越しに「警察に相談しなさい」と伝えたという。

 その後、女児は交番に向かい、警察に保護された。追い返した男性職員は、「女の子の年齢が高く見えた。深刻な事態とは思わなかった」と述べているというが、深夜にひとりで児童相談所を訪れていることがすでに“深刻な状況”ではないのだろうか。

 悲惨な虐待死事件が相次ぎ、社会全体で児童虐待防止への関心は高まっている。今年4月からは、親による体罰禁止を盛り込んだ改正児童虐待防止法と改正児童福祉法の施行も始まる。

 虐待から子どもを守り、保護、支援していく一方で、子どもを虐待する親へのアプローチも必要だ。親を断罪、非難するだけで虐待が減少していくとは言えないはずである。

 筆者はこれまで複数回にわたって、虐待をしてしまう親の背景には何があるのか、どうしたら叩かない・怒鳴らない子育てができるのかを取材してきた。

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児童虐待はなぜ起こるか、加害親にスポットライトをあてた『あさイチ』の画像2 ウェジー 2020.02.16

 そんな中、今月19日放送の『あさイチ』(NHK)では、「私が虐待したワケ」と題した加害親にスポットライトを当てた特集をしており、注目すべき内容だった。番組の内容を振り返りたい。

どうして虐待をしてしまうのか

 『あさイチ』では、実際に我が子を虐待した経験を持つ親を取材していた。

 3年前まで長男を虐待してしまっていたという母親は、長男が2歳になった頃から手を上げるようになった。長男の誕生時は愛情と責任を持っていたものの、夜泣きや寝かしつけ、偏食、癇癪などに行き詰まったという。夫は夜勤で不在がち。他に頼れる人もおらず、孤立感を募らせた。

 長男の発達に不安を感じ、地域の子育て支援課に相談するも、臨床心理士から「問題はない」と言われ、<息子をほかの子と同じように育てなければ>という思いに駆られた母親は、しつけのため虐待をエスカレートさせていったという。

 当時の彼女に“虐待をしている”という認識はなく、<この子をまともにするため正義>だと思っていたという。また夫も、しつけと称して長男に手を上げていた。

 そんな彼女が、虐待を止められたきっかけは何だったのか。

 小学生になった長男は、授業中に歩き回る、暴力を振るうなどの問題行動が続き、改めて専門医を受診すると発達障害だと診断された。相談相手ができ、具体的なアドバイスももらえたことで、自分たちの行いを見つめ直すようになったそうだ。

 夫婦間でも「手を上げそうな時は冷静なほうが止める」などルールを決め、協力体制を整えた。現在14歳となった長男は、暴力衝動も収まり、自分の意見を言葉で伝え、両親も耳を傾けるという。

 なお長男は虐待を受けていた当時について、「なぜ自分が叩かれるか理解できなかった」「怖い以外になかった」「基本的に何を話していたかよく憶えていない」と説明している。

「“べき”を取る」ことが必要

 ゲストとして出演した、虐待やDVの加害者と向き合うNPO法人「女性・人権支援センター」理事長の栗原加代美氏は、子育てに行き詰まった時は、「“べき”を取る」ことが必要だと説明する。

 大人は「子どもは親の言うことを聞く“べき”」などの理想を持っているが、“べき”の箱の中に子どもが収まらなかった場合、怒りに変わり暴力を行使しまうという。そのため、子どもは言うことを聞かないものだと考えを改めておくことで、怒りに変わるリスクが減るそうだ。

栗原氏<子どもは親の所有物ではなく、別の人格を持った存在なので、親と考え方も違うし願望も違う>
栗原氏<まずは受け止めてあげる。そうなんだね、そうしたいんだね、わかったよ、と。これをすべてやっていくと子どもがわがままになりそうなので、その後、親の意見も言う。そしてできたら、「お母さんの考え方、あなたの考え方、どっちを選ぶ?」と子どもに選択までさせる。それは本当に子どもを尊重した親の態度だと思います>

 また栗原氏は、親自身のセルフケアの大切さについても語っていた。

栗原氏<寝不足とかお腹が空いている時、人はイライラしてしまうので、まず自己管理ですね、健康の。しっかり食べる、しっかり寝る。同じことが起きても怒り方が違ってくる。まずセルフケアを親がきちっとすることも大切だと思います>

 ただ、これについて当事者である親は、「そう言われても……」というのが正直なところではないか。仕事・育児・家事に追われる日々で“セルフケア”をすることは容易ではない。むしろ「セルフケアす“べき”」が加わったように感じてしまう親もいるだろう。

 こうある“べき”だという理想を捨て、子どもの気持ちに耳を傾け、子どもの行動を見守り、自分自身のセルフケアもしっかり行う……。いずれも正しい指摘だろうが、親の側にそんな余裕がない場合もある。わずかな休息の時間さえ満足に取れず疲弊していく生活で、冷静かつ適切な子育てができるのだろうか。

悩める親の話を“聞く”人々の育成をする地域

 そこで番組では、児童相談所に頼る前に地域の力で、育児に行き詰まる親を助けようとする取り組みも紹介された。

 和歌山県和歌山市では、子育てに悩む人の相談者を育成するプログラムを市が主催しているという。実際にあった相談ケースを取り上げながら、参加者同士でディスカッションをし、どのような対応が効果的なのかを導き出していく。

 講師を務める女性は、<本人の弱さを責めるのではなく、周りの環境を強くしていこうと思っています>と語っていた。

 また、大阪府大阪市では「ゼロ会議」というプロジェクトが始動している。「ゼロ会議」では、2021年に大阪府警発表の児童虐待死亡数を0人にすることを目的としており、悩める親の話を“聞く”ことのできる、一般の主婦やお店の店員(ゼロメンバー)を増やすための講演会などを実施している。

 児童虐待問題は、加害親を断罪し、法律で取り締まるだけで解決するものではない。育児で抱えるストレスや悩みをどう解消していくか、様々なアプローチによる手助けが必要だ。

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