政治・社会

子どものいじめ・自殺は「大人=社会」に責任がある/寺脇研・前川喜平インタビュー

文=編集部
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左・前川喜平、右・寺脇研

 中学生のいじめや自殺の問題をテーマにした映画『子どもたちをよろしく』が2月29日より全国順次公開される。

 子どものいじめを取り巻く状況は深刻だ。文部科学省がまとめたデータによれば、日本全体の自殺者の数は減り続けている一方、2018年度に自殺した小学生〜高校生の数は過去最多となっている。少子化で子どもの数が減っているのにも関わらず、自殺者は増え続けているのだ。

 子どもたちを追い詰めているのは誰か?

 『子どもたちをよろしく』は、それを生々しく描いた映画だ。この映画の企画に携わった元文部官僚の寺脇研氏と前川喜平氏に話を聞いた。

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寺脇研
鹿児島ラ・サール高校を経て、東京大学に入学。同法学部を卒業後、文部省入省。 広島県教育長、政策課長、大臣官房審議官、文化庁文化部長などを歴任し、2006年退官。高校時代から映画評論を執筆し、2012年からは映画プロデューサーとして映画界にも籍を置く。これまで『戦争と一人の女』『バット・オンリー・ラヴ』をプロデュースしてきた。

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前川喜平

現代教育行政研究会代表。麻布中学・高校を経て、東京大学に入学。同法学部を卒業後、文部省入省。初等中等教育企画課長在職中に、国が示した義務教育費削減案に反対。2016年、文部科学事務次官に就任するも、翌年1月に天下り問題の責任を取り退官。7月には加計学園問題で国会の参考人招致を受ける。現在、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、講演・執筆活動を行う。

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©子どもたちをよろしく製作運動体

──『子どもたちをよろしく』は「子どものいじめ・子どもの自殺」をテーマにした映画ですが、子どもたちだけではなく、彼らの親の生活や人生についてもしっかり描いています。
 「いじめ」をテーマにした映画・ドラマは多いですが、本作がとったアプローチは珍しいと感じました。これは意図的なものなのでしょうか?

寺脇研(以下、寺脇) いまの子どもたちが抱えている問題の背景には、大人の問題、ひいては社会の問題があります。だから、子どものいじめや自殺の問題を描くならば、その背後にある大人の問題を描く必要がある。それは映画をつくる最初の段階から考えていたことです。
 前川さんと私はずっと教育問題に取り組んできた盟友で、この映画は二人の共同企画というかたちでつくられていますが、『子どもたちをよろしく』がこのような物語になったのは、前川さんも同じ思いを抱えていたからです。
 前川さんはここ最近では安倍政権批判の急先鋒になっています。おそらく、インターネットなどでは「教育の分野の人間が自分の専門ではない政治について発言するな」といったことを散々言われているんでしょうけど、子どもたちの息苦しさを取り除くためには、まず「大人=社会」の問題をなんとかしないといけないと分かっているから、政治に関する発言をしているわけですよね。

前川喜平(以下、前川) まさしくそうですね。第二次安倍政権になって8年目に入っているわけですけど、この期間に日本社会は大人も子どもも生きづらいものになってしまいました。
 その原因は「人を大切にする政治」がなくなってしまったからです。いまの政権は、人を「道具」か「労働力」としか見ていない。
 本来であれば「国民のために国がある」はず。しかし現在は、それとは逆に「国のために国民がいる」という価値観が広まっています。そういった考えをもつ人たちが政治をやっているからです。その結果、生きづらさを抱え、辛い思いをしている人たちが放置されている。
 それを端的に示すのが「自己責任」という考え方でしょう。「たとえ辛い思いをしていたとしても、それはその人が“敗者”なのだから仕方がない」という考えが世の中にまん延してしまった。
 そういった考えは“勝者”だけでなく“敗者”とされる人の側にもある。「自分は負けたんだから、しんどい思いをするのも仕方がない」と思い込まされている。
 この映画に出てくる親のなかにはギャンブル依存症やアルコール依存症といった問題を抱えている人がいますけれど、本来であれば彼らは病気なのだから治療してあげなくてはならない。でも、いまの社会において彼らを助けるどころか、病気になったことそのものを「自己責任」と罰するような考え方が広まってしまっています。
 そういったことが起きるのは、元を辿れば、「人間の幸せ」を目的としていない政治が続いているからだと思うんですね。

──まさしくそうですね。

前川 「人を大事にする政治」のためには、「人をケアする人」を大事にするということも必要です。
 学校の教師や保育士、児童相談所の児童福祉司、医師に看護師、それと介護士。こういった人たちはもっと数が多くていいし、たくさんの人がこういった職業を志すようにきちんとした処遇を与えなければならない。
 でも、現状では彼らが尊厳のある生活を送ることが難しいことになっている。
 このような「人をケアする人」の処遇や配置の悪さは完全に政治の問題ですよね。これも「人を大切にする政治」がなくなってしまったから起きていることです。
 そして、こういった社会の歪みのしわ寄せが行くのは、社会のなかで一番弱い存在。つまり、子どもたちですよ。
 子どもたちにはなんの責任もないのに、苦しみは子どもたちに押し付けられている。
 『子どもたちをよろしく』は、そういった背景を物語として描くことで、「この状況を放置していいんですか?」という問題提起をした映画です。

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©子どもたちをよろしく製作運動体

地域コミュニティの崩壊が子どもたちにもたらしたもの

──私は映画を見ながら「自分の周囲にいじめ・貧困・家庭崩壊の問題などで苦しんでいる子どもがいたら、いったいなにができるのだろうか?」と考え込まずにはいられませんでした。

前川 『子どもたちをよろしく』は、「政治を変える」という問いとはまた別に、そういった問いの立て方も出来る映画だと思います。
 「地域社会のなかで自分にはなにができるのか?」というね。
 映画を見た人が、自分の立ち位置で「子どもたちのためになにができるか」を考えてもらうのは大事なことだと思います。
 現に、「もう放っておけない」と思った人たちが、様々な活動を始めていますよね。
 子ども食堂は増え続け、その数はいまや日本全国で4000カ所にもおよんでいます。
 周囲では無料塾を始めた知り合いもいますし、子どもたちが「あるがままの自分」でいられるようにフリースクールをつくった人もいる。
 私自身はいま、自主夜間中学で勉強を教えるボランティアをしていますけれど、その話をしたら「私も手伝わせてください」と言う人がたくさん出てくるんですよ。
 だから、機会さえあれば、地域のために、子どもたちのために行動を起こしたいと思っている人はたくさんいるんです。
 そういった人たちが『子どもたちをよろしく』を見て、一歩踏み出すきっかけを掴んでくれたらいいなという思いもあります。

──頭では「地域に貢献したい」と考えてはいても、なかなか行動にまで起こせない人は多いはずです。
 その背景には、支援・貢献の具体的なやり方が容易には思いつかないほど地域とのつながりが薄れているというのもあると思うのですが。

前川 昔はつながりがあったということですよね。『三丁目の夕日』みたいなね(笑)。それは確かにあると思う。
 産業化の過程で人口が流動化し、同じところに住み続ける人は減った。そうすると、特にアパートのような場所では隣にどんな人が住んでいるのか知らないといった状況が生まれます。
 それに加え、血縁のつながりも薄くなった。かつては大家族だったのが、その後、核家族、そして単身者や片親家庭と、家族の構成人数はどんどん減っている。
 この二つが合わさって孤立を深めている人は多いと思います。
 『子どもたちをよろしく』に出てくる家族もそう。川瀬陽太さんが演じている吉原貞男は典型的です。
 彼は、ギャンブル依存症のせいで奥さんが子どもを残して出て行ってしまい息子の洋一と二人暮らし。友だち付き合いはないし、親戚付き合いもない。
 そういった状況の人がどうしたら「人と人の繋がり」をつくることができるのか。その仕組みを考えることは、これからの課題なんだろうと思います。

寺脇 そう。確かに、前川さんがおっしゃったような状況は現にありますし、もしかしたら、それを放置してきた我々にも責任の一端はあるのかもしれない。
 ただ、その根底にはやはり政治の問題があると私は思いますね。
 生産性や経済的な観点からだけで人を判断し、そういった能力が低い人間は切り捨てるような新自由主義的価値観が浸透した結果として起きたことでもあるから。
 そういった社会ができあがったことによって生まれた歪みは、確実に子どもに行っている。

──日本全体の自殺者の数は減る一方、子どもの自殺は増えているというのが現状です。

寺脇 昔の社会が完璧だったとは言わないけれど、地域のコミュニティが機能していたときであれば、学校や家庭に居場所がない子どもにも心の支えがありました。
 たとえば、学校ではいじめられているけれど地元に帰れば近所のおじちゃん・おばちゃんから可愛がられているとか、地元の子どもたちからはボスとして頼られているとか。
 そういった学校でも家庭でもない別の居場所があれば、いじめがあったとしても、絶望しきって自ら死を選ぶまでは行かないかもしれない。
 地域の縁がなくなって孤立することの問題点はそういったところにあると思います。

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人は「生きている」それだけで価値のある存在

──大人も子どもも、孤立することで苦しんでいます。

前川 だから、「人は競争するために生きているのではない」という価値観を浸透させるべきだと思いますね。
 自由化を押し進めて人間同士を競わせればいいことが起きると思っている人たちの考え方を問い直す必要がある。

──学校はそういった価値観を教える場になりますか?

前川 そうであって欲しいけれど、残念ながらいまの学校は、教育勅語まで復活させようとするほど戦前回帰の思想をもつ政権によって「軍隊」のような組織に戻りつつあります。
 その証拠に、私たちや寺脇さんがゆとり教育を推し進めていた頃よりも校則が厳しくなった学校が増えている。
 安倍政権は道徳教育を重視していますけれど、いくら道徳教育をやったって、いじめはなくなりませんよ。
 むしろ、必要なのは、子どもたちに対して「君は君のままでいいんだ」と伝えてあげること。あるがままの姿を肯定してあげる人間関係の構築です。
 人は「生産性」によって決められるものではない。
 生きているだけで十分に価値のある存在です。
 そういった考え方がした浸透した社会づくりから私たちは出発しなければならないのだと思います。

(取材、構成、撮影:編集部)

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2月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
【2019年/日本/カラー/105分】
監督・脚本:隅田靖
出演:鎌滝えり、杉田雷麟、椿三期、川瀬陽太、村上淳、有森也実
企画:寺脇研・前川喜平

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