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先日、「家を買っても2000万円貯められる方法について話してほしい」という依頼があり、日本の南の地方都市に行ってまいりました。この2000万円というのは、例の「老後2000万円不足問題」からきています。
うかがったのは、人口160万人、歴史のある自然豊かな土地です。家を買う人の経済状況をうかがうと、年齢は30代前半、平均年収400~500万円、夫は正社員、妻はパート、もしくは主婦、子どもは1〜2人ということです。
そして、家の購入価格は2000万円前後だそう。首都圏のマンションの購入価格の平均が4941万円、全国平均が4437万円(住宅金融支援機構「フラット35」利用者調査(2018年度)と比べると、かなり購入しやすい環境です。
一般的に、住宅ローンを組む場合には注意点がいくつかあり、それを守らなければ、夢のマイホームも「涙のローン返済と家計の資金繰り」となってしまいます。実際、私も何人か夢のマイホームを手放さざるを得ない状況に陥った相談者の悲しい決断を見てきました。
しかし、この地方で購入する場合、かなりハードルが下がり、マイホームを持つメリットを前提にして話ができそうです。というのも、住まいを購入するメリットは、
①愛着のある家で快適な暮らしができること
②ローンが終われば自分のものになるという資産としての価値
③もっとも大きいのは、老後の支出を抑えられること
ですが、いつもなら、「これらのメリットを享受するためには、住宅購入価格を間違ってはいけません。共働き夫婦の場合、借りられる価格は想定より多いかもしれませんが、借りられる価格と買える価格は違います!」と、素敵なモデルルームを見てきて夢が膨らんでいるご夫婦に水を差すようなことを言わざるを得ないのです。
しかしこちらでは、「これらのメリットを気持ちよく享受するために、上手に住宅ローンを組みましょうね」と、にっこりと笑って話ができる状況でした。
住宅購入における3つの注意点
もちろん、注意点はあります。まずは、「ローンを返済しながら貯蓄ができること」です。言い換えれば、住宅ローンを支払いながらでも、毎月、自分の必要貯蓄額を守れる「物件価格」にしなければなりません。
そのため、住宅購入のご相談に来られる方には、まず自分の必要貯蓄率を計算してもらいます。冒頭の「老後資金2000万円」といった平均値ではなく、自分に必要な貯蓄額を出すことが大切なのです。
会社員で共働きの人は、公的年金を夫婦とも2階建てで受け取れるので、貯めなければならない老後資金は、自営業者で老齢基礎年金しかない人より少なくて済むかもしれません。あるいは、晩婚で、子どもの教育費と老後資金を一緒に貯めていかなければならない人は、さらに住宅ローンもとなると、かなり生活が厳しくなるかもしれません。住宅購入価格は、慎重に決める必要があるのです。
2つ目に、住宅購入時に注意してほしいことは、リタイアまでにローン完済をめざすことです。リタイア後、公的年金中心の生活の中から住宅ローンを返済していくのは大変です。退職一時金で返済するからという人もいますが、それがなくなれば、老後の生活は厳しくなります。リタイアまでに完済できる借入金額にすることが大切です。
どうしてもリタイアまでに完済できないとなれば、働く期間を延ばすことも考えましょう。理想は、住宅ローン控除が終わり、教育費負担がなくなったら繰上げ返済をして、退職までに完済することです。
頭金が物件価格の2割程度あれば計画通り完済できる可能性が高くなりますし、自己資金が2割以上あると金利優遇してくれる銀行も多いので、ぜひ、しっかりお金を貯めてから住宅購入を考えましょう。
3つ目は、金利タイプの特徴を理解し、賢くローンを組むことです。借入期間はなるべく短く、なるべく低い金利でローンを組むことです。今、変動金利タイプで住宅ローンを借りている人が多いですが、今の超低金利のうちに、固定金利タイプに変えることをお勧めします。長期間金利が固定されて変わらないほうが安心です。
また、ペアローン(夫婦が共に債権者となる)は、物件価格が大きくなりがちなので注意が必要です。「借りられる」と「借りても大丈夫」は違います。その場合、団信(団体信用生命保険)だけではなく、互いに自分の借入金額分の掛け捨ての生命保険への加入をお勧めします。どちらかに万一のことがあった場合、住宅ローンを完済できるためです。
「住宅ローン控除」を最大限に生かす
現在の低金利で、住宅購入のアドバンテージは大きいですし、今年中に購入した場合、住宅ローン減税のメリットはさらにアップします。
「住宅ローン控除」とは、マイホームを一定の条件のローンを組んで購入したり、省エネやバリアフリーなど特定の改修工事をしたりすると、年末のローンの残高に応じて「税金が戻ってくる」制度のことです。
この制度の適用を受けるには、所得が3000万円以下であることや返済期間が10年以上の住宅ローンであることなど、いろいろと要件があります。要件に当てはまる方については、ざっくり言うと、毎年末の住宅ローン残高、または住宅の取得対価のうち、いずれか少ない方の金額の1%が10年間にわたり所得税の額から控除されます(税金が戻ってきます)。
消費税率10%が適用される住宅を取得して、令和元年10月1日から令和2年12月31日までの間に入居した場合には、控除期間がさらに3年間も延長されます。所得税から控除しきれない場合には、住民税からも一部控除されます。
ちなみに、住宅の取得対価の計算では、「すまい給付金」(消費税率引上げによる住宅取得者の負担を緩和するために創設された制度)の額は控除されますが、消費税率8%時は収入額の目安が510万円以下の人を対象に最大30万円でしたが、10%になり、収入額の目安が775万円以下の人を対象とし、最大50万円給付されるようになりました。
以上の注意点を守り、後悔と失敗のないように、しっかり計画を立てて購入しましょう。ただし、首都圏の物件価格については、今は割高だというのが専門家の見方です。