コロナ・ウィルスとアニメ:15歳のアメリカ少年が見た日本~豊かな文化の影に潜む現実

文=堂本かおる
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Getty Imagesより

 2月の後半、日本に一時帰国をした。折しもコロナ・ウィルス騒動の渦中ではあったが、帰国の理由は長期入院中の母を見舞い、かつ担当医と面談すること、父の七回忌を行うこと、加えて日本が大好きな息子に日本を体験させることだった。

 以下、主に15歳の息子の言動をもとに、現在の日本という国を観察してみる。日本で生まれ育った私と異なり、「日本の文化が好きなアメリカの若者」の視点である。

帰国決定後に広まった日本の感染

 ニューヨーク市の公立学校は2月に短い寒中休みがある。息子はもう高校生なので、夫に任せて年明け早々に私1人での帰国も考えたが、せっかくなら息子を連れて行こうと寒中休みを選んだ。ただし、移動日を除くと実質の日本滞在5日間の弾丸帰国となる。

 航空券を買ったのち、日本もコロナ・ウィルスの感染者が増え、アメリカでもダイアモンド・プリンセス号の件が連日、報道されるようになった。日本滞在期間中にアウトブレイクし、アメリカに戻るフライトが差し止められる可能性を考えたが、状況を見る限りまだ大丈夫だろうと踏み、予定通り2月に帰国することとした。日本での感染は米国に戻った今も広がっており、日程に余裕のある春休みに振り替えなかったのは正解だったと思われる。

 出立地のニューヨークJFK空港、大阪への乗り継ぎの成田空港、大阪の伊丹空港でそれぞれ「過去2週間に中国に渡航しましたか?」と聞かれた以外は特に支障はなかった。ただし成田空港では中国からの便でやってきた人たちは他の便の乗客とは別の列に並ばされ、何らかの書類への記入を促されていたようだった。

 日本滞在中に、米国CDC(疾病予防管理センター)は日本への渡航に対して「レベル1:注意」を発した。渡航中止や延期を勧めるものではないが十分に気をつけましょうという、3段階あるレベルのうちの最も低いものだ。私たちが米国に戻った後、「レベル2:警告」(渡航中止を勧めるものではないが、高齢者や持病のある人には渡航延期を呼びかける)に引き上げられた。「レベル3:警告」(不要な渡航は避ける)にエスカレートしないよう、祈るばかりである。

「日本の女の人はキレイ」

 息子は大阪の街を歩きながら、よく文句を言った。

「日本は道もお店も掃除が行き届いていてクリーン。ニューヨークは汚すぎる」

 これは明らかな事実だ。

「お店の人がみんな丁寧。ニューヨークと全然違う」

 在米邦人の中には帰国時に「アメリカのカジュアルな接客のほうが気楽でいい」という人もおり、やはり事実と言える。

「日本の女の人はみんなキレイ」

 日本人女性は身だしなみが整えられており、身綺麗なのである。髪はおくれ毛もなく梳かれ、圧倒的多数が控えめなナチュラル・メイクを施している。服装もきちんとしたものが多く、デザインや色合いもおとなし目だ。派手なデザインを着こなす人もいるが、清潔さに変わりはない。食育や体重管理もなされており、アメリカ人に比べると相当にスリムである。

 要するに、息子にとってはアニメやゲームに出てくるアジア系女性のキャラクターを具現化したのが、日本で街を歩いている若い女性たちなのである。

日米の架け橋、アニメとゲーム

 息子に限らず、今の若いアメリカ人には日本文化好きが多い。幼い頃からずっと日本製のアニメ、コミック、ゲームに親しんできた世代だ。現在15歳の息子も小さな頃はアメリカ版の戦隊モノ(俳優はアメリカ人だが、戦闘シーンは日本で撮影されたものをそのまま使っていたらしい)に夢中だった。6歳で日本へ行った時は、当時5歳のイトコと言葉は全く通じないにもかかわらず、戦隊モノ玩具で仲良く遊んでいた。

 その後、息子の興味はポケモンに移り、ポケモン・カードを集め始めた。私の母が孫に買った「ポケモン大百科」なる本は今も大切に取ってある。同時期、「ドラゴンボールZ」にも相当入れ込んだ。

  今、息子が宿題もそっちのけで盛んにプレイしているゲームは「スマッシュブラザーズ」だ。言わずもがな、スーパーマリオ、ピカチューなど日本製のキャラクターのみがそれこそ山ほど登場する。

 息子はいつしかタブレットで日本のアニメを観るようになった。英語字幕がついているが、音声は日本語のまま。つまり、私は日々仕事や家事をしながら日本語のアニメ音声を聞かされているのである。息子は時々「この日本語、なんていう意味?」と聞きに来る。「オマエハモウシンデイル」「キョウミナイネ」など、原典と文脈を知らない私にはナゾの日本語群である。

 そして中学の後半からは「アタック・オン・タイタン」を読んでいる。「進撃の巨人」の英語版コミックだ。

 こうしたバックグラウンドのおかげで今回の帰国時も、息子は小学生のイトコとも、20代のイトコとも、成人男性である私のイトコとも会話が弾んでいた。息子は日本語を話さず、相手は英語を話さずで、時には私の通訳やグーグル翻訳を通すこともあったが、とにもかくにもアニメとゲームによって日米交流が行われていたのである。

日米の架け橋、ヒップホップとK-Pop

 今回、私の帰国に合わせて父の七回忌も日程を繰り上げて行ない、お墓参りもした。お寺の外装、内装、お坊さんの装束、読経、全てが息子には新鮮だった。墓地には前回の帰国時にも足を運んでいるが、日本のお墓は息子にはやはり”エキゾチック”に映るようだ。

 最初に書いたように今回の帰国は母を見舞い、病院で担当医と面談し、かつ法事がメインの目的だった。5日間の日程でこれらをこなし、その上、私が日本の友人たちと頻繁に会うと、その間、息子はカフェで私の横に座り、1人でずっとゲームをして時間を潰すことになる。そこで涙を呑み、会う友だちの数を減らした。残念だが仕方ない。

 そうした事情があり、今回、会った友人は2人のみ。どちらも著名人なので名前を出すが、大阪を基盤に日本中でDJ/ラジオ・パーソナリティとして活躍するDJ Hiyocoと、ヒップホップ・ジャーナリストの丸屋九兵衛(まるや・きゅうべえ) だ。丸屋氏は京都出身・東京在住だが、偶然にも私の帰国時に関西でトーク・イヴェントを行うために帰郷していた。そこでHiyoco姐さんと共に丸屋氏のイヴェントに繰り出した。

 トークのテーマは、K-PopのスーパースターBTSと米国ヒップホップの繋がりだった。日本語のトークは息子には理解できないが、息子はどちらも愛聴しており、イヴェントでは曲がかかるたびに踊っていた。特にオープニングでは私たちが暮らすニューヨーク・ハーレムの”国歌”とも言えるヒップホップ・ナンバー「チキンヌードル・スープ」をかけてもらえ、のっけからまさにアゲアゲ状態、終始、満面の笑顔であった。

 以後、丸屋氏はBTSのメンバーがどれほどヒップホップに入れ込んでいるか、彼らのどの曲のどの部分が、どのヒップホップ・アーティストのサンプリングであるかなどを、丸屋氏以外は気付かないであろうディテール込みでユーモラスにトークしまくった。ヒップホップはことほど世界を繋ぐのである。

 イヴェント後、息子の丸屋氏評は「He’s cool.」であった。大阪の名所、アメリカ村でいかにもティーンエイジャーが好むイケてる服屋に連れて行ってくれたHiyoco姐さんのことも、もちろん「She’s cool.」。ティーンエイジャーゆえの語彙の貧しさだが、要は「カッコイイ日本人」認定である。

日本の文化と現実のギャップ

 息子が言うとおり、アメリカ、特にニューヨークに比べると日本はクリーンで静かで礼儀正しい国だ。道にゴミは落ちておらず、マクドナルドのテーブルに白い服で肘をついても汚れはつかない。だが、地下街でお菓子の包み紙を捨てようとした息子は、ゴミ箱がどこにも見当たらないことに当惑した。通行人たちは皆、ゴミを自宅や職場に持ち帰っているのだろうか。街角のゴミ箱という、あって当然の公共物がない街は暮らしにくくないのだろうか。

 また、ゴミの無さという物理的なクリーンさとは別の衛生問題が今、派生している。目には見えないコロナ・ウィルスだ。日本のコロナ対策がなぜ、どのように批判されているか、息子は知らない。息子は自国アメリカでの黒人差別は当事者として知っているが、日本の嫌韓・反中は知らない。経済の斜陽や極度の少子化、東京オリンピック・パラリンピックの問題山積ぶりも同様に知らない。

 息子やそのほか多くのアメリカ人にとって、日本が長い歴史と豊かな文化を持つ国であることに変わりはない。だが日本は今、日本に憧れる外国人には説明できない類の問題を、それこそ山のように抱えているのである。

 「ニューヨークに帰りたくない」と、最後は機嫌が悪くなるほど日本を気に入っている息子には、そうした側面はあえて話さなかった。だが、「いつか日本に住みたい」とまでいう15歳に今後、日本の良い面と問題をバランスを考えながら、徐々に説明していくつもりだ。
(堂本かおる)

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