倒産した会社から未払いの賃金を回収する方法

文=松沢直樹 監修=宮本督弁護士/中島・宮本・溝口法律事務所
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「Getty Images」

突然の倒産でも給料を回収する方法はある!

 間もなく年度末を迎える。この時期に心配されるのが企業の倒産である。慢性的に業績が悪く、倒産するべくして倒産する企業なら、従業員もXデーが予想できるかもしれない。

 だが、実際の企業の倒産はそう単純なものではない。会社としての業績は良いものの、取引先からの売掛金の回収ができず倒産してしまうケース(黒字倒産)や、金融機関から新たな運転資金が借りられず倒産してしまうケースは珍しくない。

 こういった場合、従業員にしてみれば晴天の霹靂だろう。突然無職になるわけだから、雇用保険に頼り、いわゆる“失業保険”をもらうしかないと考えるのが自然かもしれない。だが、昨今では雇用保険をきちんとかけていない企業すらあるのだ。もし、そのような状態に追い込まれた場合、どうすればよいのだろうか。

 結論からいえば、雇用保険がかけられていない場合、原則として最大2年間さかのぼって雇用保険に加入していた扱いにしてもらい、給付を受けることも可能だ。一般的に会社が倒産した場合、従業員は会社の都合で退職したことになり、早期に失業保険を受給することができる。

 ただし、支払ってもらっていない給料の回収は急ぐ必要がある。会社に対する破産手続が開始された場合でも、労働者は、未払賃金のうち一定部分を、他の債権者に優先して受け取ることができる。

 しかしながら、会社が倒産して事業を廃止する場合、会社が裁判所に破産申立てをして、法的な手続きを行わない「私的整理」を選ぶと、取引先に会社の財産を持っていかれてしまい、法に疎い労働者は未払になっている給与を受け取れなくなることも少なくない。このような「私的整理」すら行われないケースではなおさらだ。

 会社が倒産したら、支払ってもらっていない給与の回収は時間との戦いになる前提で動いたほうがよい。以下では、会社が倒産した際にやるべきことを説明する。

まずはタイムカードと雇用契約書を確保する

 会社が倒産した場合、真っ先に賃金が支払われていない月のタイムカードを確保してほしい。賃金は、あなたと会社との契約に基づいて支払われる。したがって、公的機関に訴えるにしても、弁護士などに回収をお願いするにしても、証拠がないと打つ手がなくなる。

 コピーが取れるなら、必ずコピーを取り、手持ちの携帯電話のカメラで写真も併せて撮影しておくこと。雇用契約書も、自宅に保管しているものを必ず用意してほしい。

ハローワークの雇用保険適用課へ雇用保険の確認に向かう

 会社倒産が言い渡されたら、必ず確認してほしいのが、雇用保険が今まできちんとかけられているかだ。確認は、会社の所在地またはあなたの住所地を管轄するハローワーク内にある「雇用保険適用課」で確認できる。雇用契約書の控えを提示して、倒産と同時に解雇された旨を伝えれば、雇用保険の加入状況を調べてくれるはずだ。

 もし、雇用保険の加入が確認できれば問題ないが、万が一、雇用保険の加入がされていない場合は、さかのぼって雇用保険に加入したい旨、職員に相談すべきだ。

 給料の回収とは別に、雇用保険の加入は今後の転職資金となるので、必ず、さかのぼって手続きを行ってほしい。

未払給料の回収方法は3通りある

 雇用保険の加入確認が終わったら、いよいよ未払給料の回収である。先に述べたように、会社に対する破産手続が開始された場合でも、労働者は、未払い賃金のうち一定部分を、他の債権者に優先して受け取ることができる。

 だが、会社が事業を廃止する場合、破産法に基づいた法的整理を会社が選択しなかったとすると、取引先に会社の財産を持っていかれてしまい、未払給与の回収がかなわなくなる可能性が出てくる。

 そのため多くの場合、以下の方法で取り立てを行う。

  • ・弁護士に相談する方法
  • ・独立行政法人労働者健康安全機構に申し立てをして未払賃金立替払制度を利用する方法
  • ・労働組合に相談して労働協約を締結し、物品などを処分して現金化する方法

弁護士に相談する方法

 会社が破産手続を開始した場合、裁判所により選任される破産管財人が会社に残った物品や不動産を処分して現金化してくれる。その際に、残っている財産の中から、未払になっている給料が支払われるというわけだ。

 したがって、基本的に弁護士に依頼して、未払給料の回収を依頼する必要はない。ただし、会社が債権者と直接返済について協議する私的整理がされる場合や、私的整理すらされない場合は、話が別である。

 この場合、早い者勝ちになってしまい、法律に疎い労働者が未払給料を回収できなくなってしまうことが往々にしてあるので、弁護士への委任はもっとも信頼できる方法である。

 ただ、当然のことながら弁護士費用がかかる。また、現金や預金だけでなく、会社の物品や不動産などといった財産がない場合、給料を回収することはできない。加えて、回収までに数カ月以上かかるのが通例だ。

 会社に未払給料を払えるだけの財産がきちんと残っていること。納得できる費用で委任できること。未払給与の回収までに一定の時間がかかることを了承できるなら、弁護士に依頼してよいだろう。

独立行政法人労働者健康安全機構に申し立てをして未払賃金立替払制度を利用する方法

 あまり知られていないが、会社が倒産した時のために、未払賃金を立て替えてくれる制度がある。独立行政法人労働者健康安全機構が実施する制度だが、管轄の労働基準監督署も窓口となっている。

 破産、特別清算、民事再生、会社更生といった法律上の倒産はもちろん、事業活動が停止していて、再開する見込みがなく賃金が支払われていない「事実上の倒産」についても、労働基準監督署の認定が得られれば未払給料の立替を行ってくれる。

 法律上の倒産は、破産管財人等に倒産の事実を証明してもらう必要がある。また、事実上の倒産の場合は、労働基準監督署の認定が必要になる。ただし、事実上の倒産の認定について、労働基準監督署の判断は厳格で、認定が下されることは極めてまれといってよい。

 また未払給料の立替制度を利用するには、次の条件を満たしている必要がある。

1.会社が1年以上事業活動を行っていたこと。
2.未払給料の立替制度を申請する労働者が、会社が倒産した日(法律上の倒産、もしくは労働基準監督署が事実上の倒産と認めた場合のいずれか)の6カ月前の日から2年の間に退職した人であること。

 また、未払賃金立替払制度を利用する場合は、会社が倒産してから2年以内に請求しなければならない。

 未払賃金立替払制度は費用もかからず短時間で給付を受けられる点がメリットだ。だが、いくつか以下のようなデメリットもある。

  • ・ボーナスは未払給与立替制度の対象外。
  • ・未払給与の総額が2万円未満の場合は対象外。
  • ・未払給与の立替払いは、未払給与額の8割。ただし、退職時の年齢に応じて88万円~296万円の範囲で上限が設けられているため、未払給与の総額が多い場合は、すべての回収はできないケースもある。
  • ・事実上の倒産の場合は、労働基準監督署の認定がおりることが極めてまれなため、対応が難しい。

 未払賃金立替制度を利用する場合は、上述のとおり、ボーナスは回収できず、また年齢に応じ未払給料が一定額を超えると超えた分は全額について支払の対象とならない等の特徴がある。それらの点を了承できた上で、会社が法的に倒産していることが認められる状態なら、労働者健康安全機構に書類を提出するだけで済むので、一番簡単でスピーディな解決方法といえる。

労働組合に相談して労働協約を締結し、物品などを処分して現金化する方法

 未払賃金立替払制度を利用する方法は、手間もかからずスピーディに支払が開始されるので、大変助かる。だが、満額の未払給料を保障してくれるわけではない。そのため、ボーナスを含めた未払給料の回収方法として、労働組合を活用する方法がある。

 会社が債権者と協議して倒産処理を行う「私的整理」を行う場合や会社側が「法的整理」や「私的整理」を行わない場合は、事実上の「早い者勝ち」になりかねないが、その前に労働組合を作ってしまえば、未払給与を回収するための交渉が行い易くなる可能性がある。

 また裁判所が介入して未払給料の支払が行われる「法的整理」が実施される場合であっても、労働組合を作ると、裁判所が破産手続について労働組合に通知する義務が生じるため、手続きが透明化されて安心だ。

 破産法第32条3項4号によれば、裁判所は、破産手続開始の決定をした場合に、ただちに、破産手続開始決定、破産管財人の氏名・名称、第1回債権者集会を、労働組合に通知しなければならない。

 また、破産法136条3項によれば、裁判所は、第2回目以降の債権者集会の期日も、労働組合に通知しなければならない。

 労働組合を急いで作れば、会社と債権者と協議して倒産処理を進める「私的整理」が行われたり、「法的整理や私的整理が行われない場合」でも、未払給与を回収するための交渉が行い易くなる可能性がある。

 労働組合の結成は極めて簡単である。極端なことをいえば、職場の人を一人以上誘って「労働組合を結成した」と宣言するだけでよい。また、これを会社に通知しようと思った場合には、会社宛に内容証明郵便を一通送るだけでよい。以下に文例を示す。

―――

令和2年●月●日
東京都渋谷区1-1
●●株式会社
代表取締役 ●●太郎様
労働組合結成の通知
破産手続開始の連絡に伴い、賞与を含めた未払賃金、退職金の支払、その他の要求を会社に通告するため、従業員 ●●●●●●(あなたの名前)ほか●名は、令和2年●月●日、労働組合を結成いたしました。
今後は、労働組合法にならびに各種法令に基づいて、先に記した要求をさせていただくことをここに通告いたします。
●●株式会社労働組合 執行委員長●●●●●●(あなたの名前)
以上

―――

 ちなみに労働組合の名前は、任意に自分たちで決めることができる。また、可能であれば、会社だけでなく会社所在地管轄の労働基準監督署などに、労働組合結成の旨をファクスか郵便で通知しておくとよいだろう。

 労働組合を結成したことを通知する法的な義務はない。だが、あくまで少人数でスタートするので、会社側から圧力をかけられて、組合が成立していないかのようにふるまわれることもあるからだ。

 なお、会社が破産手続等の法的整理を行わないケースの未払給与の交渉で弁護士にバックアップについてもらう場合は、労働組合の立ち位置についてアドバイスをもらうようにしていただきたい。

 また、弁護士に委任せずに、既存の労働組合に加盟して、会社との交渉を手伝ってもらうことも可能だ。ただし、他の労働組合に加盟する場合は注意していただきたい。こういったトラブルに介入して、民事介入暴力まがいのことを行う「ブラック労働組合」も存在するからだ。

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倒産した会社から未払いの賃金を回収する方法の画像2 ウェジー 2020.02.03

 ホワイトな労働組合であっても既存の労働組合に加盟して交渉のバックアップを依頼する場合は、以下の点を必ず確認するようにしたい。

  • ・労働組合は互助組織。問題解決後も、加入するのが原則で、他の組合員のトラブル解決に参加する必要がある。
  • ・基本的には互助団体だが、無償で全てを請け負ってくれるわけではない。組合費(年会費)だけでなく、問題が解決した場合に組合に寄付金や解決金を支払うのが慣例となっている。具体的な金額負担を事前に確認しておく。
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