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「ヒロインのゲイ友」はどこから来た? ロマンティックコメディのステレオタイプ

文=北村紗衣
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※注意:この記事は大量のロマンティックコメディ映画のネタバレを含みます。

 『ロマンティックじゃない?』という2019年のアメリカ映画をご存じでしょうか? これはロマンティックコメディが嫌いなヒロイン、ナタリー(レベル・ウィルソン)がある日突然ロマコメ映画の世界に入り込んでしまうという作品です。

 ロマコメ映画を多少見たことがある人であればおなじみのお約束展開が山ほど出てくる作品で、ちょっとメタな視点でロマコメをパロディ化しつつ、一応ロマコメらしい展開に持って行くというものです。

 この作品の中で、ナタリーが友人のホイットニー(ベディ・ギルピン)にロマコメのクリシェについて説明する場面があります。やたらとヒロインに敵意を抱いている同業の女キャラが出てくるとか、むやみにヒロインが転ぶとか、「ああ、アレね」という要素がいろいろ出てくるのですが、その中でナタリーが指摘しているものの一つが、「決まりきったゲイの親友」(cliché gay best friend)というものです。

 ナタリーの説明によると、ロマコメに出てくるゲイ友キャラがやることはただひとつ、ヒロインの恋路を助けてあげることで、それ以外に全然、人生がありません。ところがこの後、突然ナタリーの無愛想な隣人ドニー(ブランドン・スコット・ジョーンズ)がやたらとオネエっぽい話し方をするオシャレなゲイの親友に変身してしまう……という展開が発生してナタリーは困惑します。

 ロマコメをよく見る人ならこのドニーのキャラが何を下敷きにしているのか、いくつも思いつくと思うのですが、今回の連載ではこの「ヒロインのゲイ友」キャラの歴史について見ていきたいと思います

男性主人公のゲイ友

 現在、ロマコメに登場するゲイ友キャラが助けるのはたいてい女性です。しかし面白いことに、このキャラがアメリカのロマコメ映画に登場し始めた時は、助ける対象となるのはヒロインではなく男性の主役でした。

 このキャラの初期の例としてよく引き合いに出されるのは1984年に作られた『ウーマン・イン・レッド』のバディ(チャールズ・グロディン)です。バディは主人公のテディ(ジーン・ワイルダー)の友人グループのひとりで、親友としてテディの不倫願望を手助けする一方、自分も若い男性に気を移したのがバレてパートナーに派手に振られます。この映画は今見るとちょっとどうかと思うようなところが多い作品なのですが、少なくともバディの描き方についてはあまりステレオタイプではなく、中年の危機でフラフラしてしまう困った男たちの1人としてフラットに描かれています。

 一方、1987年の『マネキン』に出てくるアフリカ系アメリカ人のオシャレなデパート従業員、ハリウッド(メシャック・テイラー)は、今からするとあり得ないくらいステレオタイプなゲイ男性です。主人公のジョナサン(アンドルー・マッカーシー)を職場で助けてくれる良い人なのですが、話し方といい着るものといい、たぶんこのレベルの描写は今ではやらないだろうと思われるくらい戯画化されています。

 現在も散発的に男性を助けるゲイ友キャラは登場し、たとえば『ミセス・ダウト』(1993)では、主人公ダニエル(ロビン・ウィリアムズ)の兄フランク(ハーヴェイ・ファイアスタイン)はゲイのメイクアップアーティストで、恋人であるジャック(スコット・カプロ)と一緒に弟を女性に変装させます。ダニエルはフランクがゲイで恋人と暮らしていることを特別なことと思っておらず、この2人は多少のステレオタイプはあっても家族思いのよき市民として描かれています。『ミセス・ダウト』はロマコメというより家族コメディなので、90年代に家族映画でこの描写が行われたのは画期的だったでしょう。

 その後の例としては、『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2010)に出てくる、スコット(マイケル・セラ)のルームメイトで親友のウォレス(キーラン・カルキン)がいます。ウォレスはわりと自分の人生をマイペースで生きている感じで、そんなにステレオタイプではありません。

ヒロインとゲイ友

 「ヒロインのゲイ友」キャラが大流行するきっかけとなったのは、おそらく『ベスト・フレンズ・ウェディング』(1997)です。ヒロインのジュリアン(ジュリア・ロバーツ)に献身的に尽くすジョージ(ルパート・エヴェレット)は「ヒロインのゲイ友」の原型です。

 親友であるマイケル(ダーモット・マローニー)の結婚を阻止しようと奮闘し、最後は大失恋するジュリアンを常に助けてくれるジョージは理想の友人……ですが、正直、ジョージがどうしてこんなにジュリアンを守ってくれるのかはよくわからず、ジョージ自身の人生についてもあまり描かれません。

 これ以前から、ヒロインのゲイ友が出てくる作品はありました。たとえば『クルーレス』(1995)では、ヒロインであるシェール(アリシア・シルヴァーストーン)がクリスチャン(ジャスティン・ウォーカー)に恋をしますが、結局クリスチャンはゲイだとわかって2人は親友になります。

 「主要な女性登場人物のボーイフレンドかと思ったらゲイ友だった」みたいな展開は『ジョージアの日記/ゆーうつでキラキラな毎日』(2008)などにも存在し、これもけっこうありふれたロマコメのお約束展開です。アクションコメディ『キック・アス』(2010)には、主人公が意中の女性にゲイと間違われてゲイ友にされそうになるという、こういうお約束を皮肉ったような展開がありました。

 さらに古典的なものとしては、ロマコメではなくかなり深刻な映画ですが、『蜜の味』(1961)があります。

 この映画はアイルランド系の女性劇作家シーラ・ディレイニーが1959年、たった19歳の時に書いた同名戯曲が原作です。イギリス社会におけるアウトサイダーたちの精神的交流をリアルに描いた真面目な作品であるため、ゲイ友キャラの歴史の中では無視されがちですが、主要登場人物のひとりであるジョフリー(マレー・メルヴィン)は、今見ると明らかに「ヒロインのゲイ友」です。

 ジョフリーはヒロインであるジョー(リタ・トゥシンハム)に性的な脅威を及ぼさない、常に頼りになる優しい青年で、気が利いていて芸術的センスがあり、未婚で妊娠中のジョーに対して、生まれる子供の父親代わりになりたいと申し出ます。ジョフリーが抱えている不安や同性愛差別への批判がしっかり描かれているため、ステレオタイプなゲイキャラというわけではないのですが、それでも今見るとややヒロインにとって都合のいい存在ではあります。ストレートの女性とゲイ友の子育てというのは『私の愛情の対象』(1998)や、『ベスト・フレンズ・ウェディング』でもゲイ友役だったルパート・エヴェレットが再びマドンナのゲイ友役をつとめた『2番目に幸せなこと』(2000)などにも見られます。

 『ベスト・フレンズ・ウェディング』をきっかけにこの「ヒロインのゲイ友」が大流行するようになりました。『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001~)シリーズのトム(ジェイムズ・カリス)、『ミーン・ガールズ』(2004)のダミアン(ダニエル・フランゼーゼ)、『アメリカン・ピーチパイ』(2006)のポール(ジョナサン・サドウスキー)などがその典型例としてあげられます。

 もう少し自分の人生を持っており、メインの展開に絡んでくるものの、このステレオタイプの発展版といえそうなキャラクターとしては『セックス・アンド・ザ・シティ』シリーズ(1998~)のスタンフォード(ウィリー・ガーソン)とアンソニー(マリオ・カントーネ)、『小悪魔はなぜモテる?!』のブランドン(ダン・バード)、『これが私の人生設計』(2014)のフランチェスコ(ラウル・ボヴァ)、またロマコメではなく歴史映画ですが『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(2018)のリッツィオ(イスマエル・クルス・コルドバ)などがいます。

ゲイ友の何がいけないのか

 『ロマンティックじゃない?』のナタリーは、ドニーが突然自分のゲイ友になったことについて「ゲイの権利運動を100年前に戻す」みたいな展開だと説明しています。

 なぜこの「ゲイの親友キャラ」が批判されるのかというと、このキャラは自分自身の人生とか内面を持つことを一切、許されていないからです。何の仕事をしているのかとか、人生でどういう問題を抱えているのかとか、そういったことが全然描かれず、異性愛者のキュートなヒロインのことを無条件で愛して助けてくれます。観客の同性愛嫌悪を刺激しないよう、性生活についてはほとんど触れられません。さらにたいがいは「ゲイの男性は美的感覚が優れていてオシャレだ」というステレオタイプも絡んでおり、ヒロインの着るものとか髪型とかを決めるのにアドバイスをしてくれます。

 『ロマンティックじゃない?』のナタリーの発言からもわかるように、異性愛者のヒロインの承認欲求を満たしてくれるだけのために存在するゲイの親友キャラというのは、このところ強く批判されています。たとえばジャーナリストのフィリップ・エリスは、最近の例として『クレイジー・リッチ!』のオリヴァーをあげて、このステレオタイプがまだ過去のものになっていないことを嘆いてます。最近は同性愛者を主人公にしてその人生をきちんと描く作品や、またこの『ロマンティックじゃない?』とか『ある女流作家の罪と罰』、あるいはリブート版『クィア・アイ』のように、「ゲイの親友キャラ」を換骨奪胎するようなものも作られるようになっており、おそらくこのステレオタイプは今後、減少に向かうと思われます。

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